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臨時 vol 187 「「定説」と「新説」」

医療ガバナンス学会 (2008年12月4日 12:21)


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~『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』を読んで 東京大学医学部3年生 篠田 将

突然ですが、こんな事例を見たことはないでしょうか。

「ある事柄について、定説があったが、そこに新説が提唱され、場合によって
はその提唱された新説が定説に取って代わった」。
これだけ聞いてもピンと来ないかもしれないので、いくつか具体的な例を挙げてみます。
テーマ1~ジェンナー(種痘)

定説(伝記などから):ジェンナーは天然痘ワクチンを開発した。そして、自
らが作製した牛痘を自分の腕に注射or自分の最愛の息子に注射し(ここは伝記や
偉人伝によって違うのですが)、その後天然痘ウィルスを注射して自らの研究成
果を証明した。
新説:ジェンナーは牛痘の臨床試験を行う際、近所の少年(彼は地方の開業医でした)を使って試した。
コメント:いい話ではなく、(今の倫理を当てはめると)人体実験ではないですか。
テーマ2~国民年金

定説(世の中で言われている説):少子高齢化によって年金は破綻する。払い
損。また、運用は運用の素人である公務員(正確には独法職員)が行っており、大
損している。

新説(調べると):実際の運用は民間の金融機関が行っている(独法職員は事務
処理を行っている)。平均すると毎年3兆円ぐらいの運用益を出している。また、
年金は150兆円もの積立金が存在し、それは将来への備えであり、もし保険料
が1円も入ってこなくなっても5年は年金を払い続けることができる(厚労省年
金局websiteから算出)。

コメント:下手に貯金するより保険料払っていたほうが確実ですね。
テーマ3~江戸時代はどんな時代?

定説:技術革新が起こらず、また強権的な江戸幕府によって自由が制限されて
いた。また、幕府の指導者は物事に暗かった。

新説(昔から言われていたことですが):確かに軍事的な分野での技術革新は
起こらなかったが、春画などを見れば明らかなとおり、印刷技術などの革新は驚
異的である(今で言うところのカラー印刷)。また、田沼意次の政治方針は、い
わゆる重商主義政策(要するに斬新)であった。

今回読んだ本は、薬害エイズ事件の安部氏についてでした。さて、彼の一般的
なイメージ(上での「定説」)はどんなものでしょうか。96年や2004年の
報道などから私が当時作り出したイメージは次のとおりです。

お断りしておきますが、これは当時の私が抱いたイメージをそのままの形で今
取り出したものです。誤りや安部氏や関係者の方々に失礼な内容が入っています
がご了承ください。ここより下に出てくる同じような回想シーンも同様です。

安部という名前の医師がいて、彼は地位が高かった。彼はその地位を利用して、
ミドリ十字という製薬会社から個人的に莫大な金を得ていた。また、彼は自らの
経済的な利益のために、血友病の治療のために用いられる血液製剤という薬の危
険性を知りつつその情報をミドリ十字とともに握りつぶし、またミドリ十字の非
加熱製剤が売れなくなることを恐れて、代替の安全な加熱製剤の販売許可を妨害
し、加熱製剤の販売時期を遅延させた。その結果として血友病患者は危険なミド
リ十字の非加熱製剤を打ち続けることを余儀なくされ、それによりエイズという
病気に感染し死亡した。(96年の報道から)

安部医師に対して東京地裁は信じられないことに無罪判決を出した。それに対
して国は控訴し裁判を進めていたが、彼が痴呆になったので、「痴呆の安部医師
を刑罰で罰してもしょうがない」という理由で裁判が中止になった。彼は痴呆に
なって結局は罰から逃げ切った(04年の報道から)
いきなり話は変わりますが、実は私は今医学生でして、入試の前に「小論文・
面接対策」を勉強して、医療にまつわる内容を軽く触ったものです。実際蓋を開
けてみたら、私が行っている学校では、小論文は無く面接も合否にあまり考慮さ
れていないそうです。
そこで習った内容も

医者というのは人間を扱う職業なので、絶対安全性を重視しないといけない。
それを怠ったために起こった悲劇が薬害エイズ事件である

というもので、先ほどのイメージに合致するものでした。要するに「受験の専
門家」の見方も同じ、ということです。

ここまでで私が抱いているイメージは一般の人々が抱いているであろうイメー
ジとそんなには違ってはいないと思います。

さて、そのイメージに疑問を持ったのが、2006年でした。当時wikipedia
を閲覧していて、どの項目かは忘れましたが、以下のような記述を発見しました。

薬害エイズ事件は世界各地で起こったが、専門家として問題に関与した医師が
起訴されたのは日本のみである

これは驚きでした。「厚生省と安部医師が無策だったために起こった日本特有
の事件である」と私は思っていたのですが、実は世界各国で起こっていたのです。
ではなぜ諸外国の医師は起訴されず、安部氏は起訴されたのだろうか。

またwikipediaとは別に、有名な匿名インターネット掲示板でもこの事件(厳
密には安部氏の刑事事件とは違いますが)に関する書き込みを見ました。要旨は
以下のとおり

厚生省の担当部署の当時の課長であった医系技官の松村氏は「医師であったの
だから危険性を熟知していたはず」という理由で有罪になり、彼の上司であった
事務官は「事務官なので危険性は知らないはず」という理由で無罪になった。無
知は免責理由なのか。これはどうみてもおかしい。

そこで私はwikipediaの記述と共に、「この事件に抱いている私のイメージは
正しいのか。ひょっとしたら何かが間違っているのではないか」という疑問を持
ちました。しかし「疑問を持った」だけでした。
以上で述べたのが私の中の「薬害エイズ事件」です。

さて、そのようなイメージを頭の中に抱きながらこの本を読みました。この本
の著者は、安部氏の弁護士の先生であったりします。よって、この本は「反対側
から見た薬害エイズ事件」と考えることができます。

本は大きく分けると5部構成になっておりまして、最初にこの本の目的や要旨、
各部分に問題の構図や裁判の流れなどが取り扱われていて、最後に個人としての
安部氏ご自身について書いてありました。さらにこの本は細かく15章に分かれ
ていて(各部はいくつかの章から構成される)、「血友病とは」「血液製剤とは」
「リスクとベネフィットとは」・・・という構成です。
この本の論点の一部を簡単に紹介すると、

・この裁判は、実は1件の具体的な事例について争われたもので、薬害エイズ事
件全体についてではない。

・検察官は、業務上過失致死罪で安部氏を告訴したが、実際に「誤って死に至ら
せた」のは実際の治療を担当した医師であり、安部氏は関わってない。

・検察官は業務上過失致死罪で彼を告訴した一方、「製薬会社から金をもらった」
だのという関係の無いことを指摘した。仮にそのことが事件に関係あるのであれ
ば業務上過失致死ではなく殺人罪で起訴しなければならない。また、製薬会社か
らは彼個人としては金を貰っていないし、また貰った金は私的に利用していない。

・検察は「彼は血友病の第一人者であり、他の医師を超える知識があったので、
注意する義務はほかの誰より重かった」と主張したが、事実はそうではなく、他
の医師と変わらなかった。なぜなら当時はエイズを引き起こすウィルスやその性
質について、ウィルス学の専門家ですら分かっていなかった。

・「エイズウィルス」(当時はHIVが発見されていなかった)の研究の第一人者
に、帝京大の患者の血液サンプルを送って抗体検査をしてもらった。それは彼の
慎重さなどから行ったことであり、また「抗体陽性」の意味も現在と異なり不明
であった(例えば風疹の場合、もし私が「抗体陽性」であれば、一般的には「小
さいころに受けた予防接種(親に感謝ですね)などで抗体が既に出来上がってお
り、私は風疹に感染しない」を意味し、「現在私は風疹に罹患している」という
意味ではない)。当時の米国医学界でも、抗体陽性はエイズから防禦されている
と解釈できるという説も有力であった。しかし、このことをいわば「後知恵」に
よって、「彼は抗体陽性の事実を無視した」とマスメディア・ジャーナリストは
彼を糾弾した。

・血液製剤の前はクリオ製剤を用いていた。クリオ製剤は血液製剤と比べ有効成
分の「薄い」ものであり、また有効成分以外の生体由来成分も入っていたので副
作用が大きかった。またクリオ製剤は医療機関において点滴で患者に投与しなけ
ればならなかったが、血液製剤は患者自身が自己注射することで投与でき、患者
の安全性やQOLがクリオ製剤と比べて高まった。

・また、クリオ製剤に比べて血液製剤は優れている点が多かったので、当時の製
薬会社の製造ラインはほぼすべて血液製剤に切り替わっており、クリオ製剤の入
手はきわめて難しかった。

・以上の2点から、「血液製剤に危険性がある可能性があったのだから、クリオ
製剤を用いた治療に戻るべきだ」という検察の指摘は的外れである。

・また、治療方法を戻した際、患者の安全性や治療効果、QOLは大幅に低下する。
血液製剤のベネフィットとリスクを天秤にかけた場合、当時の最新の医学知識を
もってもベネフィットのほうが大きかったし、諸外国の各学会もそう主張してい
た。

・仮にクリオ製剤を用いた治療に戻り、それでアナフィラキシーショックが患者
に起こり結果として死亡した場合、「(当時の)標準的治療から外れ危険な治療
を行った」という理由で医師が逮捕されたかもしれない。また現に血液製剤から
クリオ製剤に治療方法を戻した医師は存在しなかった。

・加熱血液製剤はエイズ対策ではなく、B型肝炎対策で開発された。また、加熱
製剤固有の危険性(加熱による変性たんぱく質の危険性、薬効の大幅低下)も存
在した。

・故に安部氏も安全性の見地から、「加熱製剤の治験を慎重に行うべき」と主張
したのだが、それを「加熱製剤の承認を遅らせるために治験を慎重に行えと言っ
た」とマスメディアは報道した

・ミドリ十字が加熱製剤の開発が遅れていたので、他の会社と一括で申請させる
ことで遅いミドリ十字に他社の足並みをそろえさせた、という主張があるが、ミ
ドリ十字の開発は遅れていなかった

・また、一括で申請させることで治験や審査にかかる時間を大幅に短縮した。

・厚生省の担当部署の課長(当時)であった郡司氏は危険性が潜んでいる可能性
があるとして、早い時期からエイズ研究班を作った。そのメンバーに安部氏は入っ
ていて、その研究班において彼は、エイズ問題を楽観視する他のメンバーに対し
て、慎重に安全を重視してこの問題を取り扱うべきと主張した。だが、マスメディ
アなどは当該主張の一部分のみを切り取り、彼が「毒と思って投与している」と
言ったと「演出」した。

以上で挙げたのは本の内容のほんの一部ですが、これが事実であれば私が過去
に抱いていた安部氏に対するイメージは誤りということです。むしろ彼はこの問
題に対して患者の安全を考え慎重に取り組んでいる。しかしマスメディアやジャー
ナリストのおかげで彼は「悪者」に仕立て上げられ、最終的には起訴されたこと
になります。
以下に私の感想を項目別に述べます。
その1 「人権を守る」こと

当時のマスメディアやジャーナリストは、「血友病患者は、非加熱製剤を投与
され、結果として不幸にもHIVに感染した。これは重大な人権侵害である」とし
て、この問題を取り上げ、安部氏を糾弾したわけです。しかし、良く考えてみる
と、事実を曲げて彼について報道したり、彼のことを四六時中追い回したり、後
知恵(90年代中ごろにはHIVウィルスについて多くのことが分かっていました)
で80年代前半~中ごろ(当時はHIVウィルス自体も発見されるかされないかの
時期で、性質などはまったく分かっていませんでした)の出来事を批判したりし
ているわけですが、これも人権侵害なのでは?「人権侵害はゆるさん。彼らの人
権を守れ」と言っている集団が別の人権侵害(いわゆる報道被害)を引き起こし
ているわけです。

おそらく彼らの言い分として「当時の90年代中ごろには今ほど『報道被害』
が認識されていなかった」というのがあるでしょう。それなら2008年にいる
我々も後知恵(現在は報道被害についてよく知られている)で90年代の彼らの
行動を糾弾しても良いことになるのでしょうか。彼らが当時していたのと同じよ
うに。
その2 この検事は無能?

おそらくこの本を読んだら、誰しも一瞬「この検事は無能?」と思うはずです。
しかし良く考えてみると検事は法律の専門家であり、日本で一番難しいといわれ
る司法試験に受かった人々です。したがって、頭が悪いわけではないハズです。
それなら、何故彼らは破綻している理論を用いて安部氏を起訴し一審では負けた
のでしょうか。

以下は推測ですが「誰か」からの起訴するように無言の要請があったのではな
いでしょうか。それが政治家なのか国民の声なのか、マスメディアなのかは分か
りませんが。
その3 議員の仕事とは?

この本には「コラム」というコーナーが本編の途中にありまして、そこの1つ
に「国会に参考人として呼ばれた安部氏と、議員先生たちのやり取り」というの
が載っています。それには複数の議員の先生(実名で載っています)とのやり取
りがあるのですが、議員先生の発言が単なる週刊誌などのコピーだったり、単な
る感情的なコメントであったりします。実際に議会の議事録を見ていないので、
この記載が原文のままなのかは知りませんが、これを見て私が思ったのは「私で
も、国会議員ができる!!」、と(こんなこと言ったら怒られますか)。要する
に週刊誌の見出しとか、ネット上に転がる感情的なコメントを拾って、それを参
考人にぶつければ良いのですから。これほど魅力的な仕事は無いでしょう。

しかし知人の、ある議員の先生のお話を聞くと「なんてスゴいのだろう。これ
が日本の代表ならこの国も安心だな」と思います。国会議員の先生には少なくと
も2種類いるのでしょうか。
その4 ある政治家のパフォーマンス

薬害エイズ事件といえば、ある政治家の謝罪が有名です(本書では実名で載っ
ています)。この本によると、彼は特別の調査室を設け、関係者に徹底的な調査
を命じました。しかしその作成させた調査報告書を見ずに、突然「こんなファイ
ルが隠されていた」としていわゆる「郡司ファイル」を提示しまし、謝罪しまし
た。実際はこの「郡司ファイル」は隠蔽されていたのではなく倉庫に保管されて
いたメモファイルでした。要するに事実を曲げた単なるパフォーマンスな訳です。
彼のパフォーマンスのおかげで、事件の本質が見えなくなり、また安部氏などへ
の個人攻撃へ発展した、と書いてあります。もしこれが事実ならば、この政治家
のパフォーマンスは問題だと思われます。
その5 検事の仕事

この本では、検事が法廷で勝つために被告に有利な証言を隠したり、半ば脅迫
を用いて証人に証言させたり、といったことが書いてあり、それらを批判してい
ます。しかし私が思うに、それが検事の仕事ではないでしょうか。そもそも検察
官は起訴した時点でその被告の有罪を確信しています。もしクロか怪しいのであ
れば起訴しないはずです。つまり、「どんな手を使ってでも有罪に落とし込む」
というのはそれのみでは悪いことではないのです。

しかし、執拗な取調べを受けた人にとっては迷惑なだけですし、真相解明がな
されない、というのは問題かもしれません。
その6 偉くなるのは損?

検察側の主張では、「安部氏は血友病研究の第一人者であったので、通常の医
師より注意する義務を負う」というものでした。また、安部氏が世間から責めら
れた理由は、研究班の班長だったからでしょう。

それなら、努力して例えば何らかの第一人者になっても、問題が起こった際に
責任を取らされるのであれば、「努力しない」「責任のあるポジションに就かな
い」という人生の選択肢もも「正解」になってくるわけです。しかしそれでは、
誰も努力しない社会になってしまうかもしれません。それは社会全体で見たら不
幸なことです。

関係ないですが、近年では官僚を志望する大学生が減っているそうです。原因
の1つには民間と比べた際の待遇の悪さがあるかもしれませんが、もう1つには
国家を動かすという責任の重さがあるかもしれません。何か政策で失敗があった
ときには、過失の有無に関わらずマスメディア・国民から個人攻撃されるわけで
すので。
その7 個人攻撃の危険性

先ほどの「その6」と少し関係がありますが、この本に、

何か問題があった際に個人攻撃で個人に責任を負わせると、その個人を罰する
ことで問題が「解決」し、問題の本質が分からなくなり、再発防止や真相解明に
つながらない。
と書いてありました。確かにこの指摘は正しいと思います。

1つ具体的な例を。2005年にJR西日本の福知山線で、不幸な事故があり大
勢の方が亡くなりました。この際、マスメディアは事故を起こした、死亡した電
車の運転士や当時のJR西日本の社長を個人攻撃しました。例えば運転士の個人情
報を週刊誌に書きたて、彼の婚約者や兄弟を追い回したり、記者会見で謝罪し質
問に真摯に応対する社長に、ある新聞の記者が質問と称して罵声を浴びせてみた
り(こちらはネット上で若干問題になりましたが)していました。それらのこと
が再発防止や真相解明につながるでしょうか。つながらないと思います。

ちなみにこの後、JR西日本では、車掌が乗客から「人殺し」と罵られたり殴ら
れたり、駅員に向かって乗客が空き缶を投げつけたり、果てには運転士が乗客に
線路に突き落とされたりなどという事件が多数起こったそうです。これらをメディ
アのせいだとは言いませんが、メディアの姿勢も少なからず影響したのではない
でしょうか。

関係ないですが、あの有名な大物司会者は、これらのJR職員に対する事件に対
して「社員の誠意が無いから一般のお客さんは怒っているのだ」という旨のコメ
ントをテレビで言ったそうです。(先ほどの国会議員の流れと同じですが)、こ
の程度のコメントで司会者になれるのであれば、彼の年収は5億を超えているら
しいですのでテレビの司会者はとても魅力的な仕事だと思います。
その8 リスクとベネフィット

今回の本では、リスクとベネフィットが出てきました。リスクとベネフィット
を天秤にかけ、どちらかが傾いたかでその薬を使用するか否かを決める、と。当
時の知識では、非加熱製剤のリスクがどれくらいかが不明で、すでに非加熱製剤
のクリオ製剤に対する優越性は明らかでした。また、加熱製剤のリスクもよく分
かりませんでした。その際、加熱製剤のリスクを明らかにし、それまでは暫定的
に非加熱製剤を用いる、という判断はリスクとベネフィットの考え方からしたら
妥当なものであったと思われます。

リスクとベネフィットについて考えてみましょう。例えば、「車によって交通
事故で年間8000人が日本で死んでいる。よって車を禁止し、代替手段として、
交通事故の際も比較的安全な籠(江戸時代ですか?)を用いるべきだ」と私が主
張したとしましょう。この主張は困りものです。例えば車が無いことによって困
る人がたくさん出てくるでしょう。また最悪の場合、救急車が籠になることで、
助かる命も助からないかもしれない。よってこの主張は受け入れられないでしょ
う。

しかし、年間約8000人の方が自動車事故によって亡くなっているのも事実
です。つまり現代の社会においてはそのリスクを負ってベネフィットを取ってい
るわけです。
一昔前にタミフル問題がありました。最初タミフルは「インフルエンザウィル
スに直接効く」とのことで当初週刊誌・マスメディアは「厚生省の審査が遅すぎ
る。トリインフルエンザの問題もあるのだから早く承認すべき」と主張していま
した。そして厚生省は承認し日本でも売られるようになりました。しかし200
7年、タミフルを服用した未成年に異常行動が見られたとして(因果関係は現時
点でも不明とのこと)、マスメディアは大騒ぎをし、「厚労省は安全性を軽視し、
承認した」と批判し、また(いつもどおり)審査に関係した大学教授を「企業か
ら研究費を出してもらっている」だのと個人攻撃をしていました。

これはリスクとベネフィットを無視した論だと思われます。また、タミフルの
審査途中でリスクを軽く見積もった、という事実、または証拠は無いそうです。
その9 まじめな人は馬鹿を見る?

安部氏は、血液製剤のリスクを調べようと、エイズウィルス研究の第一人者に
抗体検査を依頼すべく患者の血液サンプルを送付しました。それが後になったら、
「危ないと思ったから送付したのだろう」と批判されました。

もし彼が不真面目であれば、「手間もお金もかかるので送らないでおこう。」
と思うはずです。そうすれば彼は血液を送ったことに対しては責められることは
無かったはずです。

これからの時代は、規則や法律や契約に定められている最低限のことを行い、
それ以上のことを熱心にしないほうが無難なのでしょうか。
最後に

知人の裁判官(ずいぶん前に故人になりました)が言ったことを載せておきます。

昔の刑事裁判は、刑事訴訟法などの法律の精神に則り、理論を武器に検事と弁
護士は戦い、裁判官はその理論を見て判決を出してきた。

ロッキード事件の裁判のあたりから、検事や裁判所は理論ではなく国民の顔色
を伺うようになってきた。これで正義といえるのだろうか。

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