医療ガバナンス学会 (2012年10月23日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://www.asahi.com/health/hamadori/
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2012年10月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
南相馬市立総合病院では、2011年7月はじめから住民の方々を対象に内部被曝検査が始まりました。最初に使っていた器械は、鳥取県からお借りした車載の椅子型WBCで、安西メディカル社製です。
検査を取り組み始め、最初に疑問を持ったのは、体の大きい人(正確には太った人)を計ると、カリウム40が値は低いとはいえ存在しているはずなのに、0(ゼロ)Bqと表示されることでした。
今から思えば、
(1)遮蔽が弱いこと
(2)体自体が遮蔽してしまう環境放射線の計算がおかしいこと
(3)体の一部から全体量を推定する推定式がおかしいこと
(4)ソフトウェアがスペクトルのピークを読み出す能力が低いこと
(5)誤差の計算がおかしいこと
など、いくつかの原因がありました。
検査結果がこんなにバラバラだなんて、何となく変だなという感覚はあったものの、当時は全くわかっていませんでした。
8月から富士電機の器械で検査を開始しました。子供の計測を始めたのですが、ほぼ誰からも検出しませんでした。器械によって検出限界が異なること、年齢や性別で代謝速度が大きく異なることを思い知りました。
9月の終わりにキャンベラの器械が入り、計測というものが持つ曖昧さ、精度など、それまでの多くの疑問が氷解したのを覚えています。
幸いというと語弊がありますが、このような様々な形の器械操作を経験したため、南相馬市立病院のスタッフの経験値は飛躍的に上がることになります。
器械の精度に振り回されることの連続でした。今はキャンベラ社の器械で計測を続けていますが、それ以前の計測に関して現在ですら、きっちりとした再解析は終了していません。
残念ながら、そもそも再解析すれば正確なデータが得られるのか、使えないデータなのか、発表に耐えうるようなデータなのか、それすら判断するところまで進んでいないのが現状です。
様々なWBCが入るのと同時に、色々な企業からの売り込みが増えました。私のところに直接、話を持ってくる企業もあります。
ただ、残念ながらその多くは、今まで行ってきたこのような試行錯誤や、起きている問題を把握していない企業がほとんどです。
「このWBCは検出限界がxxxです。NaIはxxxで……、しかも安いです。○○○万円です」
「遮蔽はどうなっているのですか?」
「えっ? ついていません」
「じゃあ、あなたの言うような、検出限界はこの場所では出せません」
「この解析ソフト、読み間違いが多いのですが?」
「いやいや、この器械での検査はスクリーニングですから。そんな少ない値はちゃんと計測できなくて当然です」
「でも、その値がどれくらいなのか、ということを知りたい方がたくさんいるのです。解析ソフトのことが分かる担当者と話しをさせてください」
「いや、ソフトは外注していて、弊社では把握していません」
脱力してしまいますが、よくあるやり取りです。
日本製、海外製どちらであっても、代理店が間に入っていたり、一部を別会社に委託したりしていることが多く、サポート体制が弱い。技術者に話をしても、 チェルノブイリの時とターゲットとしている値の領域が異なるからなのか、あまり通じませんし、(本当に)積極的に関わってくれません。
市民測定所さんも、ATOMTEX社の椅子型WBCで同じような苦労をされたと聞いています。今まで私は「きっちり遮蔽されていない部屋内での椅子型 WBCは役に立たない」と申し上げていましたが、ご自身で遮蔽を強化し、ファントムを購入、測定の問題を少しずつ解決していると聞いています。
近日中に再解析のデータを公表されるそうです。現場スタッフと早野先生やATOMTEXの技術の方が力を合わせた結果です。こちらのサイト( http://www.slideshare.net/RyuHayano/at1316-12047006 )にある資料もご参考ください。
このようなことは、言うのは簡単ですが、なかなか実現しません。今回のことを参考にして、他の器械でも早く、現場と専門家と技術者の協力体制が構築されていってほしいと思っています。
写真:解析ソフトも色々です。
↓
http://www.asahi.com/health/hamadori/TKY201210190151.html