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Vol.622 現場からの医療改革推進協議会第七回シンポジウム 抄録から(1)

医療ガバナンス学会 (2012年10月23日 18:00)


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医師・看護師養成問題

*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

2012年10月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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セッション1: 11月10日(土)12:45~13:45
黒岩祐治
鉄田貴大
井出恵伊子

会場:東京大学医科学研究所 大講堂

ご挨拶
林 良造

早いものでこの「現場からの医療改革推進協議会」も第7回を迎えます。この間に、政治的には政権交代があり、また、東日本大震災もありました。この間、本 協議会においては、高齢化、医療技術の進歩、制度のゆがみなど本質的問題を、ある時には正面から、ある時にはトピックスに対応して、現在現場で起こってい る材料を提供する形で提起し、その解決に向かっての知恵を組み立てる場を提供してきました。そして、ここで提起された問題のいくつかは、その解決に向けて 動き始めています。改めて、鈴木参議院議員、上東京大学医科研特任教授ほか関係者の皆様の熱意に敬意を表したいと思います。
これらの問題提起の中で次第に明らかになってきたように、一国の医療のレベルは、医療を提供する病院、医師、コメディカル、医薬・医療機器メーカ、患者と いう多くの人々の意思決定の結果が、医療資源が適材適所に配置されていくようにできているかで決まってきます。このような意思決定に大きな影響を与えるも のとして、実質的に価格を決めている診療報酬制度、医師・看護師などの資格制度、医薬・医療機器の安全規制、医療事故に対する民事・刑事の責任制度などが あげられます。そして、質の高い医療を持続的に、公平に提供できるためにはこれらの制度が合理的に設計運用されているかが極めて重要です。
そして、多くの関係者の利害が複雑に絡み合う制度の設計運用の合理性を確認し、諸問題を納得的に解決していくためにはデータに基づく丁寧な検証とオープン なコミュニケーションが欠かせません。また、このグローバル化した経済のもとでは、ローバルな視野に立った制度の見直しが必要であったり、世界各国が様々 な経験を交流させることが大きな助けになったりします。
この協議会が、新鮮な問題提起とステークホールダー間の真摯な議論によって医療技術の進歩、医療の受け手にも担い手にもやさしい、持続可能な制度の構築に向けて引き続き大きな役割を果たしていくことを祈念して開会の挨拶とさせていただきます。
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医療人材教育改革・神奈川県の挑戦
黒岩 祐治

神奈川県の人口当たりの看護職員数は恥ずかしながら全国最下位、医師数は全国39位である。今後、全国のどこよりも超高齢化の進み方が早いと予測される中 で、数の問題の克服は喫緊の課題である。数の不足を補うために養成数を増やさなければならないのは当然であるが、医学部新設に対する県医師会、医学部の抵 抗は根強い。
そこで、神奈川県としては、まずは川崎の京浜臨海部のライフイノベーション国際戦略総合特区に国際医療人材を養成する国際医学部の設置を目指すことにし た。なるべく抵抗感の少ないカタチで実を取りたい一心での新機軸であった。単なる数の不足を補うだけでなく、教育の質の転換も同時に目指そうとするもので ある。
また、看護師の数の不足を補うためには、看護教育のあり方を根本から見直す必要があるとの認識から、改革を進めようとしている。新人看護師が一年以内に10%も辞めてしまうというのは、重大な問題である。
現場に出てリアリティショックを受けるからというが、それは看護教育そのものに問題があると言わざるをえない。そこで、検討会を設置し、議論を進めているが、その場で真っ先に取り上げられたのが准看護師養成の問題であった。
16年も前の国の検討会で21世紀初頭に准看護師養成停止の方向性が打ち出されたにも関わらず、未だに先送りされ続けてきたテーマであった。県の検討会は 「准看護師養成は早期に停止すべき」との報告書をまとめた。それに従い、私は25年度の入学生を最後に養成停止し、准看護師養成学校への補助金も打ち切る 方針を打ち出した。
医師会は私個人への人格攻撃も含め、なりふり構わぬ抵抗を示している。しかし、患者が納得する医療の姿を実現するためには、このような反対に屈するわけに はいかない。神奈川から医療・看護教育の姿を変えていくことが、長年医療・看護の問題を追い続けてきた私にとっての使命であると考えている。
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地域に根づくリハビリテーションの重要性
鉄田 貴大

復興住宅はこのままだと寝たきり住宅になる。日本理学療法士協会は、東日本大震災直後からメディアを通して生活不活発病予防の普及活動を行ってきた。生活 不活発病は生活の不活発化、すなわち「活動」(ICFによる)の質的・量的低下による全身の「心身機能」の低下である。震災から約1年半経過した福島県相 馬市でも運動機能低下が危惧され、H24.7/10-7/17に運動器健診が行われた。そこに運動器疾患に携わるPTとして、相馬中央病院の石井武彰先生 を通じて参加させていただいた。
健診では片脚起立保持時間低下が目立った。65-79歳の6割が片脚起立機能低下、そのうちの約3割と80歳以上の7割が80歳の虚弱高齢者基準にあてはまった。話を聞くと、被災後転倒されている人も多い。
生活不活発病を予防できたとはいいがたい結果である。また、健診時に生活不活発病予防の考えや運動習慣は地域に浸透していないと感じた。震災後に生活不活発病を啓発しても遅いことがわかった。
予防には、PTの日頃から地域に溶け込んだ活動、つまり普段から予防医学や運動に触れる環境が必要である。その点で福島県の専門職の人材不足が問題にな る。私の勤務先の福岡県と比較すると、H24.6月時点の協会会員数は、福岡県4466名・福島県938名。震災前(H21年)は、相馬市7名、相双地域 だと33名が在籍。私の職場が現在PT33名である。PT一人あたりの人口数は、福岡市989名・相馬市5,160名。この差は、PT養成校が福岡県14 校、福島県1校と圧倒的に少ないことで生じる。東北と九州は、予防を促すPTを育成する環境に大きな差がある。
PT不足の影響は、身体状況に合わない杖の長さや補助用具の選択などでも見受けられた。介助の仕方や人工関節患者の動き、仮設住宅の動線や手すりの位置・ 段差も問題である。PTは動作を見抜く視点と動きやすい環境作りを得意とします。寝たきり予防・心身の復興にはその地で働くPTが必要である。
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急性期病院における課題抽出と特定看護師(仮称)の可能性
~医師・看護職員調査の振り返りから~
井出 恵伊子

急性期病院の循環器内科で勤務する医師と看護職員計468人にアンケート調査を行った。
それによると医師はカテ治療や検査、外来などで日中多忙であり、病棟業務に従事できる時間が夕方中心であった。また看護職員と医師の相談時間が短く、看護 職員は医師に対して連携不足を感じていることが分かった。更に看護職員は病棟勤務を続ける上で看護そのもののストレスや体力的問題が課題だと回答する者が 多かった。
急性期病院では平均在院日数短縮により業務密度が高まっている。また高齢化に伴い身体ケアや不穏対応などが増えており、人手の少ない夜間帯まで業務が増えている。
このような状況の下、医師の病棟業務時間が夕方以降になると、治療関連ケアが日中から夜勤帯に移行し、特に準夜帯の負荷が増えやすい。現在では、1病棟2人夜勤から3人夜勤体制が主流となっており、夜勤看護職員の需要が高まっている。
一方、就労看護職員中4割以上は日勤のみの勤務である。また就労看護職員はこの30年間で80万人強も増えたが、大学化等の影響で30歳未満の看護職員は 約2万人増に留まっている。更に看護職員の退職理由のトップは結婚・出産であり、女性のライフイベントと共に夜勤のある就業形態維持が困難になっているこ とが予想される。
以上から、「看護職員不足」とは正確に言うと「夜勤者の需給ギャップ-需要過多-」である可能性がある。看護業務量増大に合わせた手厚い配置は必要であるが、一方で夜勤人材は貴重なので、できる限り夜勤必要量を減らす取組みが求められる。
現在議論されている特定看護職員(仮称)が急性期病院で期待される役割として、病棟患者に対する処置・オーダー支援を日勤帯に行うことによる看護職員の夜 勤業務の緩和と、看護職員視点からオーダー出し・説明による看護職員との良好な連携があると考えられる。一方で特定看護職員(仮称)に移行する人員が増え ると看護職員の夜勤不足を助長してしまうため、人材供給のバランスには配慮する必要があろう。

 

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