医療ガバナンス学会 (2012年10月24日 06:00)
『ロハス・メディカル』新聞社版2012年10月号に掲載されたものです
及川医院院長
及川 馨
2012年10月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
私自身は数年前から、日本外来小児科学会のワークショップで同時接種を取り上げ続けてきました。始めた頃はまだヒブワクチンの発売前で、あれが同時接種に ついてオープンな形での議論の先駆けだったはずです。聴講していたほとんどの医師が半信半疑。一部の医師は積極的だったのですが、たいてい自治体が許さな いという状況でした。それでも総じて関心は高く、全国的な普及に向けた下準備となってきたと自負しています。
その原動力は何より、同時接種がお母さんたちの声に応えるものだ、というところにあるでしょう。単独接種ではスケジュール管理が大変過ぎますし、何かのワクチンを優先させれば別のワクチンが後回しになって、病気にかかるリスクも高まります。
それだけに同時接種への風当たりは残念です。マスコミも懸念を助長してきた部分があると思います。例えば「重篤な副作用の可能性はゼロですか」と訊かれれ ば、本来は非常に低頻度でも「絶対ないとは言えない」と答えるのが科学です。これが「たくさん検査したが、危険との確証は得られなかった」という書き方に なるだけで、読者の印象も180度違ってきますよね。
一方、数種類のワクチンが初めから混ぜてある「混合ワクチン」の開発も進んできました。それでも現時点では問題点も指摘されています。
まず混合ワクチンだと、その中の1種類のワクチンに問題が生じて接種が中断された場合、含まれるすべてのワクチンが接種できないことになってしまいます。 また、含まれるワクチン同士が干渉し合うことで、効果や副作用に影響が出る可能性もあります。同時接種ならばワクチンは別々に保管されていますし、打つ位 置もそれぞれ離すことができます。ただ、ヨーロッパなどで接種直前にワクチンを混ぜる方式が開発され、効果が実証されてきていますから、こうした手法で問 題をクリアしていくことは可能でしょう。
今後も安全で効果の高い混合ワクチンの開発を推進しつつ、世界の常識である同時接種を積極的に取り入れていく。それが子どもたちの健康を守るベストな選択でしょう。
(この連載は、今回でいったん終了します)