医療ガバナンス学会 (2012年11月4日 06:00)
この原稿は日本呼吸器外科学会雑誌26巻6号(巻頭言)より転載です。
公益財団法人がん研究会理事
土屋 了介
2012年11月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
法的な責務は最低限守られるべきものであると解釈でき,専門家あるいは専門家集団としては,さらに高度に専門的で自律的な責務として学会の定款等での規定 があると理解できる.したがって,自律的に専門家(集団)が法的な責務を超えた高度に専門的で倫理的な責務を果たすことによって,国民から専門家(集団) として尊敬され,手術のように他を傷害するような行為をも自律的な行動として社会に容認されてきたと考えられる.このような考えに則れば,東日本大震災に よって明らかにされた原子力の専門家(集団)が社会からの信頼を失ったことは当然といえよう.
専門家(集団)が自律的に活動するには責務の一つとして自浄作用が必要である.本学会では定款の中に会員に対する除名の条項があり,役員に対する解任の条 項がある.法令や定款に対する違反は当然として,この法人の名誉を傷付け,または目的に反する行為や役員としてふさわしくない行為も処分の対象としてい る.このことは,国や自治体あるいは他の法人の判断を待たずに,本学会が専門家集団として社会の信頼を得続けるために高度な専門性と自律性の下に独自の判 断(総会の決議)で迅速に問題を処理し,必要があれば該当者を処分することを意味している.他の組織の動きを見て本学会の方針を議論するようでは専門家集 団としての自律性が危ぶまれるのである.
先進医療が混合診療であることは政府(厚生労働省)も認めているが,日本医師会を始め多くの団体が混合診療全面解禁反対と訴えている.個々の患者に対して 行う医療行為の是非は患者を診療している専門家である医師が判断するのが筋である.然るに,混合診療の是非を政府(厚生労働省)に委ねるのはいかがなもの であろうか.混合診療の是非は国民が信頼する専門家(集団)が判断するのが本筋である.本学会が国民の信頼を得ているならば,呼吸器外科診療にかかわる混 合診療の是非は本学会が行うべきである.
専門医制度についての議論も厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」で行われているが,以上の考えより,私はこの動きに違和感を覚える.医学医療の専門家を含む医療に関わる関係者が自律的に行うべきである.
本学会が専門家集団として国民の信頼をさらに強力に得られるよう努力を続けられることを期待する.