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Vol.648  医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会と日本医師会骨子(その1/2)

医療ガバナンス学会 (2012年11月10日 06:00)


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新潟県立新発田病院
伊藤 英一
2012年11月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


今年の2月から「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」が厚労省医政局医療安全推進室所轄のもとで開催され、会議は既に第8回を数えて います。この部会の趣旨は、『 「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」の検討課題の一つである医療事故の原因究明及び再発防止の仕組み等のあり方について幅 広く検討を行うものである。』とされ、検討課題は1)医療事故に係る調査の仕組みのあり方、2)再発防止のための仕組みのあり方、3)その他であるとされ ています。
この部会の模様は、本メールマガジンで医療制度研究会の中澤堅次先生がご紹介下さっています。例えば、中澤先生による検討部会第6回の模様と厚労省の議事 録を読むと、制度設計の点でも議論されている第三者委員会の現実性という点でも噛み合わない議論が続いているように感じられます。このような状況の中で、 日本医師会は9月21日付けで「診療に関連した予期しない死亡の調査機関設立の骨子(日医案)」の案文を会員向けに示し、意見を求めました。この案文の発 出元は日本医師会副会長(羽生田氏)と上記検討部会構成員である常任理事の高杉敬久氏です。ですから検討部会の高杉構成員がこの案文と同様の認識をお持ちのものと思われます。この案文と案文提示の添付文書は日本医師会員向けに書かれたものですが、医師会の公益性と扱われている問題の重要性から考えて、広く 知られるべきものと思いますのでここに紹介します。

案文への添付文書の後半
『一方、厚生労働省では本年2月から「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」が発足し、さらに日本医療安全調査機構においても医療事故 調査のための第三者機関のあり方について関係団体の代表による議論が重ねられており、それぞれの場において、本会としての意見を表明しているところであり ます。
このような状況のもと、今般、日本医師会としての標記骨子の案文が別紙のとおり大筋でまとまりましたので、すべての都道府県、郡市区医師会にお示しするとともに、改めて本案に対するご意見等をお寄せいただきたく、お願い申し上げます。
なお、今回とりまとめました「骨子案」をいわゆる三次試案・大綱案と比較した場合の特徴は、以下のとおりです。
1. 診療に関連した予期しない死亡は、一般的・類型的に死因が不明な場合が多く、その死因を究明し、再発防止に努めることは遺族及び国民に対する医療提供者の責務である。
2. 診療に関連した予期しない死亡について、自律的な院内調査を行なうこととし、医師会や大学等は、診療所や小規模病院の院内調査を支援する。
3. 診療に関連した予期しない死亡は、すみやかに診療関連死調査機関に報告するかわりに、医師法21条の届出範囲から除外する。
4. 診療関連死調査機関は責任追及を目的としない、医学的な死因を公正に究明するための機関であるから、その調査結果は当該医療機関および患者遺族等に報告をするが、警察への通知はおこなわない。
5. 診療関連死調査機関は、診療に関連した予期しない死亡や遺族からの調査を求められたケースの死因を分析し、再発防止に役立てる。
今後、いただいたご意見をもとに提言としてまとめ、これを日本医師会から医療界、国会議員その他各界に向けて提案していきたいと考えております。』

診療に関連した予期しない死亡の調査機関設立の骨子(日医案)
『1 目的
(1) 診療に関連した予期しない死亡の調査機関(以下「診療関連死調査機関」という)の目的は診療に関連した予期しない死亡の死因分析と再発防止、それによる医療の質と安全の向上、および医療の透明性・公明性・信頼性の確保である。
(2) 診療に関連した予期しない死亡の調査は個人の責任追及を目的とするものであってはならない。

2 定義
(1) この骨子において「診療に関連した予期しない死亡」とは、次の場合を対象とする。
・診療行為の合併症としては合理的な説明ができない予期しない死亡
(2) 診療に関連した予期しない障害及び疾病に関しては、今後の検討課題とする。

3 医療機関における医療安全確保及び診療に関連した予期しない死亡への対応
(1) 病院、又は診療所の管理者は、医療の安全を確保するための医療安全委員会を常設し、医療の安全を確保するための措置を講じる。
(2) 医療安全委員会は、当該医療機関において、診療に関連した予期しない死亡が発生したときは、院内調査委員会を設け、死因を究明する調査を行う(必要に応じて、Aiや解剖を実施)。
(3) 診療所や小規模病院は、院内調査委員会の設置にあたり、医師会や大学等に支援を依頼することができる。
(4) 病院、又は診療所の管理者は、つぎの場合、速やかに、診療関連死調査機関に報告し、その指示を受ける。
・ 診療に関連した予期しない死亡に該当すると判断される場合
・ 遺族から調査機関への報告を求められた場合
(5) 院内調査委員会の作成した報告書は、診療関連死調査機関の調査開始の有無にかかわらず、診療関連死調査機関に提出する。

4 診療関連死調査機関の組織
(1) 診療関連死調査機関は、旧「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を中心とした公的な組織とする。
(2) 診療関連死調査機関は中央に1カ所設置する。
(3) 診療関連死調査機関は、診療に関連した予期しない死亡の死因を究明する調査のために、地域の調査チームを組織・編成、調査の指示をし、その調査結果について報告を受ける。

5 診療関連死調査機関の調査の開始
(1) 診療関連死調査機関は、次の場合、診療に関連した予期しない死亡の発生した医療機関から資料の提出を受け、その意見を聞いたうえで、調査の開始・不開始を判断する。
・ 病院、又は診療所の管理者から、診療に関連した予期しない死亡の報告があった場            合
・ 遺族から、診療に関連した予期しない死亡の死因を究明する調査を求められた場合
(2) (1)の場合、診療関連死調査機関は、遺族の意見を聞くことができる。

6 診療関連死調査機関の調査の方法
(1) 診療関連死調査機関は、5(1)の調査の開始の判断があった場合、病院、又は診療所の管理者から、当該医療機関に資料の提出を受け、その意見を聞 いたうえで、①地域の調査チームを編成させて調査にあたらせ、または、②院内調査委員会に対し、死因を究明する調査の方法を指示する。
(2) 地域の調査チームは、医師の資格を有し専門知識を有する者で組織し、必要に応じて外部委員を選任することができる。
(3) 地域の調査チームは、診療に関連した予期しない死亡の発生した医療機関にカルテ等の資料の提出を求め、Ai又は遺族の承諾を得て解剖を行い、診療に関連した予期しない死亡の死因を究明する調査を行う。
(4) 地域の調査チームは、診療に関連した予期しない死亡の死因に関係があると認められる医療従事者、遺族に対し、意見を述べる機会を与えなければならない。

7 診療に関連した予期しない死亡の死因に関する報告書
(1) 地域の調査チームは、診療に関連した予期しない死亡の死因に関する調査を終えた場合、報告書を作成する。
(2) 地域の調査チームは、診療に関連した予期しない死亡の死因に関係があると認められる医療従事者の意見が調査結果と異なる場合は、報告書にそれらの意見を併記しなければならない。
(3) 地域の調査チームは、カルテ等の資料の収集や診療に関連した予期しない死亡の死因に関係のあると認められる者から経過を聞くことが困難で、十分な死因究明ができない場合には、その旨の報告書を作成する。
(4) 地域の調査チームは、さらに専門的な調査が必要な場合、カルテ等の資料や解剖結果を診療関連死調査機関に送付し、調査を依頼する。
(5) 診療関連死調査機関は、地域の調査チームが診療に関連した予期しない死亡の死因を究明する調査を終えたときは、報告書の提出を受けて、当該医療機関及び遺族に交付し、再発防止のための活動に役立てる。
(6) 当該医療機関または遺族が報告書の判断・評価に異議がある場合には、診療関連死調査機関に審査を求めることができる。

8 医師法第21条の改正(保助看法41条と罰則規定の同45条2号)
医師法第21条は、つぎの通り改正し、診療に関連した死亡に適用されない。
(1) 医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に、その旨を検案した地の所轄警察署長に届け出なければならない。ただし、診療に関連した死亡はこの限りでない。
(2) 罰則(医師法33条の2第1号)を廃止する。

9 その他の施策
(1) 患者補償制度の創設
過失、無過失を問わず医療に起因する有害事象(重大な障害を含む)について、患者救済制度を設けることを今後検討する。
(2) 裁判外紛争処理機関(ADR)の創設
都道府県医師会にADRを設置し、患者との対話を促進する。』

この文書の宛先は都道府県と郡市区医師会の医療安全担当理事とされています。その先の会員にどこまで伝えられたかは不明です。私がこの文書の存在を知ったのは、たまたま面識のある新潟県医師会担当理事から意見を求められたためです。条文に近い形式を備えたこの骨子には非常に問題が多いと感じましたので、意見を提出しました。次回にご紹介します。

(その2/2に続く)

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