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臨時 vol 118 「医の中の蛙 9」

医療ガバナンス学会 (2009年5月25日 11:08)


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          医療は誰のもの?
                      久住英二

 先日、「医療志民の会」設立シンポジウムに参加してきました。この会は、医
療を何とかしよう、という意志をもった医療者と一般市民の集まりです。医療に
は、医療者も含め、必ずみんながお世話になります。医療を良くするため、市民
の皆さんが医療の受け手としてだけではなく、主体的に関わることが大切なのだ
と、改めて感じました。
 いままで日本では、医療は官僚にコントロールされてきました。立法(国会議
員)が行政(官僚)の言いなりになっている影響です。何しろ、官僚が国会議員
に説明に行くことを「レクチャー(講義)しに行く」と言っているくらいです。
そのため、民意を反映する機関である国会の機能が低下し、民意が政策に反映さ
れなくなったのだと思います。
 医療の値段は公定価格です。医療費は10円の単位まで役所が決めているため、
官僚が支配する傾向がより端的に表れているのです。
 今年3月には、愛育病院(秋篠宮妃紀子さまが出産された名門産婦人科病院)
や、日本赤十字社医療センター(日赤の旗艦病院)が労働基準監督署より是正勧
告を受けました。愛育病院は、医師不足のため任に堪えないとして、東京都に総
合周産期医療センターの看板返上を申し出ました。しかし、厚労省と東京都は法
の抜け道を指導して、なんとか事態の収拾を図っています。
 ただし実は、愛育病院では新生児科の医師の方が大変なのです。4月から月7回
の当直(当直の日は朝から翌日の夕方まで36時間連続勤務)となり、月112時間
の時間外労働です。これだけで、厚労省が定めた過労死の危険ラインである80時
間を完全に超過しています。それでも、役所は小手先で繕うだけで、抜本的な改
革はしようとしていません。
 なぜ病院は新生児科医を増やさないのでしょうか?実は、新生児科医が活躍す
る場であるNICU(新生児集中治療室)の収支が赤字だからです。
 NICUは、新生児20人に1人がお世話になります。高齢出産の増加に伴い未熟児
出産が増え、ニーズはますます高まっています。しかし東京都副知事の猪瀬直樹
氏の試算によると、NICU1床の収支は年間支出4200万円、収入3500万円で700万
円の赤字です。これでは増えるわけがありません。
 医療費の決定が、原価計算や医師のシフト勤務による人件費などを一切考慮に
入れていないのが原因です。なんと、先に支給が開始された定額給付金の2兆円
があれば、全国に必要とされるNICUの病床数 2,000床の25年分の維持費が捻出で
きるのです。みなさんだったら、どちらに充てた方が、社会が良くなるとお考え
になりますか?
 皆さんも、ご自身もしくは家族のどなたかは、医療を受けていらっしゃると思
います。医療志民の会のようなコミュニティーが各地にうまれ、市民が医療者と
一体となって、正しい情報の発信や、意見の表明が行われることが必要です。社
会を良くするため、医療政策の主導権を市民と医療者に取り戻すことが必要だと
感じています。
くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業ととも
に上京、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。
2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立
川」開設。
※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです。
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