医療ガバナンス学会 (2012年11月27日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://www.asahi.com/health/hamadori/
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2012年11月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
福島県川内村に行ってきました。去年の夏、村の健康診断があった際に、星槎(せいさ)グループの皆さんとお伺いしたときからのご縁です。
その後、郡山にある仮設住宅にお伺いしたり、「ビッグパレットふくしま」でお話会をしたりしていたのですが、1年半以上が過ぎて、再び川内村を実際に訪れることができました。
川内村では、ひらた中央病院と連携して、帰村後も定期的な内部被曝の検査を行っています。検査結果の第一報がまとまり、その結果を伝えに行きました。加えて、内部被曝に関する生活上の注意点なども話してきました。
検査結果は、川内村のウェブサイトにも公表されています。( http://shinsai.kawauchimura.jp/?p=1945 )
内部被曝検診の結果自体は、福島県の他の多くの自治体と大差ありません。
2011年11月から2012年9月にかけて384名が検査を受けました。Cs137に関して、検出限界未満が約85%であり、最大値は21.8Bq/kgでした。
2012年6~7月以降では、ほとんどの方から検出していない状況です。南相馬市立総合病院の原発からの距離や線量は川内村の値と近いこともあり、実際のデータも南相馬の同時期の検査と、それ程変わらないように感じています。
今回の結果で興味深いことは、帰村されている方と未帰村の方、村まで往復されている方で、内部被曝に大きな差が無かったことだと思います。
帰村された方53名、往復されている方152名、未帰村の方28名のうち、検出限界未満だった方は、それぞれ98%, 97%, 100%でした。(リンク先の図5に当たります。)
汚染食品をどれだけ食べてしまうかが、現在の内部被曝のほとんどを規定します。ですから、この結果はある程度予想されたことではありますが、帰村すること自体が、内部被曝を明らかに増やすという状況では、とりあえず無いことがデータからも言えると思います。
帰村すれば、地元のものを消費する機会が増えます。アンケートの結果では、地元の食材を消費する率は、帰村された方と未帰村の方で54.5%と23.8%(米)、26.7%と4.8%(野菜)でした。(図9と図10になります)
このような地元の食材の消費率がかなり異なるにもかかわらず、上記のように内部被曝の計測値が大きく変わらなかったことは、実際に帰村された方々にとって勇気づけられる情報であると思います。
なぜ食品の消費率が異なるのに、内部被曝検査にその差が反映されないのか。理由はいくつかあると思います。
私が川内村の方々を診療していて一番感じるのは、帰村された多くの方々で食品検査をする癖がついているということです。地元で色々なものを作る。そしてそれをしっかり検査し、それを選んで食事をしていることです。
もちろん食品検査を続けることが負担になっていることは確かなのですが、村の色々な場所に検査する場所があり、そこまで行けば検査ができます。そのような癖がついている人が多いように感じました。
地元産のものが同等にリスクを持っている訳ではありません。明らかに食材によって値は異なります。地元の農家による検査で出荷制限がかかるような食べ物を、未検査のまま継続的に食べてしまう行為を止めることが出来れば、リスクの大半は回避できることが分かってきています。
もちろん継続的な検査が必要です。帰村してから時間が経っていないので、体内にセシウムが溜まっていないのかもしれない。気にしている方だけ検査を受けていて、以前紹介したような高値の方が検査にいらしていない可能性もあります。
帰村する、しないという選択は、放射線単独の問題ではまったくなくなっています。しかしながら、どのように継続的な注意喚起を合理的なレベルで続けて行くか、いかに継続性を維持するのか。同じようなことが、どの自治体でも問題になってきています。
写真:川内村の保健師さんたちは、細かく家を回って状況を把握し、生活習慣の指導などきめ細かい対応を震災後ずっと続けています。今回の結果も、彼女たちの努力によるところが大きいと思います。
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http://www.asahi.com/health/hamadori/TKY201211230490.html