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Vol.665 ベッドタウンの高齢化

医療ガバナンス学会 (2012年11月29日 06:00)


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千葉大学医学部附属病院
千葉県寄附研究部門 高齢社会医療政策研究部
特任教員・客員准教授 中村 利仁
2012年11月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


東京都から千葉県に向けて電車に乗ると、やがて車窓にいくつもの団地が見えはじめます。三階建てから、せいぜい五階建てで、二~四カ所の階段室の両側に二 枚ずつのドアが向かい合わせにあるという建物が、数棟から時に数十棟、同じような方向を向いて整列するという風景が、何度も窓外に現れては消えていきま す。

総務省統計局が5年ごとに公表している住宅・土地調査によれば、この典型的な三~五階建ての団地は、千葉県内だけで23,000棟、387,300戸(平成20年)あるそうです。これは千葉県全体の住宅総数2,344,500戸の16.5%を占めます。

千葉県には、1960年代前半に毎年約10万人の他県からの人口流入があり(文献1) 、その後も近年まで年間数万人の流入が続いています。新しい千葉県民に良質の住宅を充分に供給することは社会的要請でした。かつての日本住宅公団(現・独 立行政法人都市再生機構)をはじめとした官民によって宅地開発と住宅整備が大規模に行われ、現在の風景ができあがりました。限られた土地にできるだけ広い 居住面積を確保し、また低廉さを追求するために、建物は密集し、共有部分を小さくし、エレベーターの設置は見送られました。日常生活に必要な商店等も団地 内にはほとんどあるいは全く存在していません。

残念ながら、今となっては高齢者にとって優しくない環境です。

そして、これらの団地は東京への通勤圏である千葉県西部(東葛地域)と、千葉市内及びその周辺に集中しています。実は千葉県内の人口の過半は、政令市で県庁所在地でもある千葉市ではなく、東葛地域に住んでいるのです。

これらの団地では短期間に建設と入居が行われました。当初、団塊の世代(1947年~49年生まれ)から団塊ジュニア(1971年~74年生まれ)の世代 にかけての似通った年齢構成の住民ばかりが集りました。そのうちの多くは、子育てなどの家庭状況の変化と共に、県内外の一戸建てや分譲共同住宅等に転出していきましたが、少なくない人々が、同じ地域の同じ団地の同じ部屋に、ずっと住み続けています。空き家を埋めるように、その後も若い世代が引っ越しては来ましたが、団地内の年齢構成の偏りは否めません。

そして、2012年となった今年、1947年生まれの団塊の世代1年目が、65歳を迎え、高齢者となり始めています。想像してみて下さい。見渡す限りの団地の部屋の全てで、高齢者の夫婦や単身者ばかりが生活を営む毎日を。

千葉県内には、これまでも高齢化率の高い地域はありました、主として太平洋に面した市町村で、高齢化の完成と人口減少の流れは避けられません。中には既に 人口減少局面に至ったところもあります。これらの地域では、高齢化による医療需要の急増と医療従事者の相対的不足はまさに現在進行中のお話です。

東葛地域には、団塊の世代あるいは団塊ジュニアが年齢構成の上で全国のそれよりもさらに突出している市町村がいくつもあります。もっと狭い地域、団地単位で見れば、さらに極端な年齢構成も見られます。

そして、団塊の世代は生産年齢人口から高齢者へと移り始め、既に彼等の医療需要が徐々に増加しつつあります。

やがて後期高齢者となるに従って、必要とする医療サービスの中身も徐々に変わって行き、また、介護需要が急増しはじめることは明らかです。地元の診療所や 病院の負荷が大きくなることは避けられません。病床も、医師や看護師やその他の医療専門職も必需が急増し、やがてゆっくりと減少していくことは現在の年齢 構成から明らかです。

そして千葉県は、まさに団塊の世代が分厚い現役世代を形成していたことから高齢化率が低く、人口当たりの医療専門職が全国最低水準で推移してきています。 放置すれば、需給の逼迫によるアクセスの極端な低下、すなわち大規模な医療崩壊のドミノ倒しが起きる可能性が高いのです。

対策を立てる上で知らなければいけないことは、いつ、どこで、どれだけのどのような医療需要があり、それがどれくらいの時間軸でどの方向に変化していくのかという、具体的な数字の予測です。

平成23年度、千葉県庁から千葉大学医学部附属病院に地域医療再生基金(臨時特例交付金)を活用した寄附が行われ、本年4月1日付けで同院に千葉県寄附研 究部門高齢社会医療政策研究部が設立されました。2年間の期限付きで、自分を含めて3人の特任教員が集められ、平成26年3月の最終報告を目指して、現状 分析と将来推計、さらに対策立案に従事しています。

また、これは千葉県だけの問題ではありません。東京のベッドタウンを抱える神奈川県、埼玉県、そして東京都自身に共通した問題でもあり、さらには、高度経 済成長期から一貫して若年人口を集中させてきた全国の都市部とその郊外に共通した問題でもあります。対策立案に当たっては、各々の地域の事情を勘案して応 用できる形で提案させていただきたいと考えています。

これまで県内外の多くの関係者にインタビューさせていただいてきています。ご厚意とご協力に感謝申し上げると共に、引き続きお力添え下さいますよう、お願い申し上げます。

参考文献
1)佐々木陽一郎;最近の千葉県人口推移(昭和45〜60年)、千葉大学経済研究、第6巻第1号.1991年6月

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