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Vol.673 風邪を引いたら、医者に行きますか?

医療ガバナンス学会 (2012年12月10日 06:00)


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藤林 三穂子
2012年12月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は3歳と0歳の子供を育てている専業主婦です。ちょっと前に「東大ワールドカフェ」という母校の同窓会イベントで、医師不足の現状について意見交換をす る機会を得ました。その後も色々アイディアを考えたりしていたところ、先だって、風邪を引きました。私が何で学歴の無駄遣いをしているかというのはともか くとして(苦笑)、子持ちの専業主婦が風邪を引くというよくある事例から、医者不足の現状についてちょっと考えてみることにしました。

皆さんは、風邪を引いたらどのタイミングでお医者さんにかかろうと思いますか?ある秋の土曜日。起きたら喉が痛い。風邪気味かな?この時点で行く人はいますか?
私は…この程度なら気合いで何とかしますね。タートルネックを着て、靴下を履いて、生姜とシナモン入りの紅茶を飲んで、早く休む。が、翌日喉の痛みは悪 化。頭もちょっと痛くてぼんやり気味。おそらく微熱もあったと思います。熱を測ると本当に風邪ってことになっちゃう気がして測りませんでしたが。

その日は日曜日ですから普通のお医者さんはお休み。区の休日診療所なら開いているけどいつも凄い混雑。夫が休みなので、子供達を見ていてもらえば区の診療 所に行けないこともない。でも、どうせすごく待つし、だるいので出かける気も起きない。何より、この時点では風邪という認識はなかった。ただのちょっとし た体調不良のつもりでした。と言う訳でその日は夫に子供達を任せて、一日中ごろごろして過ごしました。

月曜日。喉の痛みは更に悪化していました。頭痛も相変わらずで、ぼーっとする。でも今日は夫が仕事で子供達を私一人で見なきゃいけないから、おちおち寝て いる訳にもいかない。家事は最小限にして、遊んでとねだる子供達を泣かせつつ、できるだけごろごろして過ごしました。ちなみに私は趣味で東洋医学や薬膳な どを勉強していて、普段ちょっとした体調不良はできるだけ自分で治すようにしています。もちろん私は専門家ではないし、限界があるのもわかっているけど、 結局治すのは自分だし、自分の体調はできるだけ自分で管理したいという気持ちもありまして。
今回の風邪では、喉の痛みによく効く桔梗湯という漢方薬(市販品)を飲んだり、以前同じように喉の痛みから始まった風邪でよく効いた桂枝湯という漢方薬を 自分で作ったり(市販の薬をベースに家にある材料を混ぜて作ったもの)、ちょっと工夫してみました。ところが、一向に効果なし。

火曜日には向かいのドラッグストアで総合感冒薬を買って飲みました。少し症状が改善してきたらすぐに溜まった家事を片付けて、ついでに子供の椅子の加工まで頑張ったのが良くなかったのかな。

水曜日にはまただるくなってしまいました。そろそろさすがにお医者さんに行った方がいいかな?でも外は冷たい秋の雨。子供達を2人連れて寒い外に出るのは晴れている日でもしんどいもの。その日は市販の風邪薬を飲んで様子を見ることにしました。

結局木曜日も症状は改善せず、私が医者に行くことにしたのは金曜日でした。晴れていて暖かい日だったので、子供達を連れていくことに。

さて、どのお医者さんにかかろうかな。うちの近所には時々行くお医者さんが2つあります。。
一つは家に一番近くて歩いても行けるところ。サンタさんみたいに太っちょで愉快なおじちゃん先生がやっている。古びた待合室は狭くて、混んでいると待ち時間に子供達をあやすのはちょっと大変。あと、私のあまり好きではない抗生物質を処方されがち。
もう一つは家からは少し遠いけど自転車でなら余裕で行けるところ。小奇麗な待合室には子供達の遊べる場所もある。漢方薬も処方してくれる。でも、先生は伊丹十三似のコワモテで愛想がすこぶる悪く、子供達はたぶん絶対に泣く。
考えた末、私は近い方のサンタ先生のところに行くことにしました。少なくとも藪医者ではないし、しんどい時は少しでも近い方が楽だし、子供達も嫌がらない から。それに、体力が落ちている時にわざわざ怖い先生のところに行って嫌な思いをしたら、なんて想像するだけでも凹むし。
幸いその日はサンタ先生のところは全然混んでいなくて、すぐに診てもらえてラッキーでした。抗生物質もやっぱり処方されて、なんだかなぁとも思ったけど、ずっと頭がぼーっとしていて最早考えるのもめんどくさかったので、もらった薬は全部毎日ちゃんと飲みました。

私の選択が正しいかどうかは置いといて、ここでちょっと一緒に考えてほしいんです。
今回の私の風邪のような場合、どういう状態になれば「医者不足が解消された」と言えるのか。

まずはお医者さんに求める理想を考えてみましょうか。
待合室が広くて綺麗で子供達を連れて行っても間が持たせられて、愛想が良くて軽い症状で行っても嫌な顔をされず、診断技術が高く、最新の医療に精通してい て必要最小限の薬だけを処方してくれるお医者さんが徒歩圏内にあったらいいな。欲を言えば子供達をちょっと預かってくれて休ませてもらえるような施設が あったら助かるなぁ。元気な時でも子育ては決して楽なものではない訳で、たかが風邪とはいえ、体調が悪ければ休みたいというのは人情ってもんです。
しかし…こんな理想的な状態が全国民にとって達成できたら最高でしょうね。これだったら間違いなく「医師不足は解消された」と言えるでしょうね。
でも残念ながら人数的にも質的にも今すぐ実現可能とはとても思えないし、そもそもそこまで求める必要があるかな?
逆に、私が患者としてもっとできたことはないだろうか?

私は独学で色々勉強していたおかげで今までに何度となく小さな体調不良を自力で切り抜けることができたけど、他にも市販薬のこととかもっと勉強していた ら、どの薬をどんなタイミングで飲むとか、もっとうまくできたかもしれない。もっと自分の体調をきちんと観察できていれば、より適切な判断ができたかもし れない。
もっと言えば、自分が医者だったら?風邪くらいで医者にかかる必要はなくなりますよね、たぶん。
更に極端なことを言えば、国民の大半が医者並みの知識を持っちゃえば?これならもう絶対に医師不足とは言えないでしょうね。患者の数が劇的に減るはずです から。ま、医者並み…とまではいかなくても、日常的な不調の手当ての仕方や判断の仕方がもっと詳しく周知されるだけでもちょっとは違うんじゃないかな。

「医師不足」という社会問題を改まって議論していると忘れられがちな話ですが、医者に行きたくてもなかなか行けない人というのはおそらく想像以上にたくさんいます。

私みたいに小さい子供を抱えている主婦もそうだし、会社員で年中忙しいうちのダンナなんかもそう。彼は毎日朝早くから夜遅くまで土曜祝日もなしで働いてい て、病院が開いている時間にはまず行けません。そういう人達が気軽に医者に行けるシステムや社会認識ができたらいいけれど、実現するのはなかなか大変だ し、患者数だけが増えたら相対的にますます医師不足が進んでしまう。それなら、患者が自力で治せる範囲を増やしていけば、医者数がすぐに増えなくてもとり あえず現状維持はできる。うちのダンナも風邪を引いても無理して仕事してたりしてすごく心配になることもあるので、医者に行かないで確実に治せるように なったらその方がずっと楽だしヨメとしても安心です。

こうして「医師不足」の問題を身近な事例で考えてみると、この問題を解決するキモは、要は医者と患者のバランスを、数だけではなく質という観点からも適正 な方向に調整していくことなんじゃないかと思うのです。医師を増やすだけでなく、患者を減らすことも大事。でも我慢する人を増やして無理矢理患者数を減ら すのでなく、本当に医者を必要としている人が医者にちゃんとかかれること、必要な医療が必要な人にできるだけ効果的に行き渡ること、というのが目指すべき 方向なのかな、と私は思います。
全部の患者を救うのが医療の理想ではあるけれど、医師達への負担が重すぎる現状では仮に医師の数だけを増やしても負担は期待するほどは大して分散されず、解決には到らないのではないかと思います。
それなら一般人も一人一人が自分にできることを考えてちょっとずつ努力すれば、良い方向へと向かう力になるのではないでしょうか。お医者さんに何でもかん でも治してもらおうという意識ではなくて、自分が自分の体調を管理する主体として、自分がどこまで何をやりたいか、どういうふうに治療生活を送りたいか、 そのために医者に何を求めるか、各自問い直してみるところから始めてみたらどうでしょう。

さて、あなたは風邪を引いたら医者に行きますか?

<略歴>ふじばやし・みほこ
1979年10月31日水曜日に愛知県名古屋市の病院で3550gにて出生。高校時代『ブラックジャック』に憧れ外科医を志すも諸事情によりあっさり断 念。1998年、とりあえず目的も無く東大文Ⅲに入学後、勉強もせずひたすら歌とダンス各種に明け暮れる。2004年に東京大学文学部英文科を卒業後某レ コード会社に就職したが、うつを患って休職し、その後寿退社。現在専業主婦で2児の母(3歳と0歳)。産前産後の体の調整法で参考にしたのは、ヨガ、ゆる 体操、フェルデンクライス、アレクサンダー・テクニークなど。学生時代からずっと家庭教師として英語を教える仕事を続けていたのを活かして「お母さん達の ための英語教室」を自宅で細々開いており、漸次拡大しようと画策中。子育てのかたわら英語教育についての原稿を書き溜めていて、大好きな『チーム・バチス タ』シリーズ並みのベストセラーにするのが現在の野望。

 

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