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臨時 vol 120 「不安と動揺が感染被害を拡大させる」

医療ガバナンス学会 (2009年5月28日 06:41)


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メキシコ発の豚インフルエンザが世界的流行を始め、世間を騒がせている。
インフルエンザに関する話題は、人々にとって身近な脅威であるだけに、時として過
大にセンセーショナルに語られたり報道されたりする傾向にある。年末から春先まで
のインフルエンザシーズンに、日々診療所において診療していると、人々がまさにこ
れらの報道に右往左往させられているのを実感する。「インフルエンザにタミフルが
有効である」と聞けば、鼻カゼの患者さんまでタミフルの処方を希望したし、「タミ
フルで異常行動」と報道されると、タミフルの処方を拒否する患者さんが急増した。
誤った認識や過剰な反応があまりに多く、毎年冬場は混乱する。ここまでインフルエ
ンザを恐れる必要があるのか?と思わず首をひねってしまうことも多い。
確かにインフルエンザは非常に感染力が強く、しかも症状はカゼに比較すると非常に
強い。高齢者や年少者、基礎疾患を有するいわゆるハイリスク患者は脳症や肺炎など
重篤な合併症を引きおこすこともあることから、不安に思う気持ちは当然であるが、
多くの場合は致命的でなく、特別な治療をしなくても自然に治癒する、という認識を
持っている患者さんは驚くほど少ない。
タミフル、リレンザの名前を今や幼稚園に通う子供さえも知っている。私自身も実際、
かなりの患者さんにこれらを処方してきた。処方する際には、インフルエンザは決し
て不治の病ではないこと、タミフル、リレンザを使わなくとも命を落とすことはない
ということ、などを十分説明して処方してきたつもりだが、今年も9割以上の人たちは、
これらでの治療を希望した。それは、早く辛さから逃れ、早く職場に復帰したいとい
う、もっともな感情であるが、一方でタミフルを使用しないと治らないと思っている
患者さんがあまりに多かったのには正直驚いた。これは、マスコミと厚生労働省の情
報発信が不十分と言われても仕方がない。今回の豚インフルエンザに関する広報活動
を見ても疑問を感じずにはいられない。大切なのは国民への不安を必要以上に煽らな
い姿勢だ。その上で、感染力は強いが、早期診断がなされ、一人一人が浮き足立つこ
となく冷静に行動すれば蔓延を防止できる、ということにもっと重点をおいて広報活
動をすべきであると思うのである。水際作戦、新型インフルエンザに対するワクチン
開発、タミフル備蓄も無駄な労力とは思わないが、疾患についての正しい知識の流布、
啓蒙と早期診断をつけられる体制の整備のほうが重要であろう。これらにまず注力し
ないと感染拡大は防げない。
新型、旧型にかかわらず安価で感度のよい簡易迅速ウイルス検出キットを早急に開発、
一般市販化してはどうか?各自治体から家庭に供給してもいいだろう。インフルエンザ
患者で満席の待ち合いに、鼻カゼの患者がインフルエンザを心配してやってくること
も阻止できるし、高熱のまま、カゼと思い込んで出社してしまうインフルエンザ患者
を減らすことにも貢献できると考える。
今年だからかもしれないが、先日こんな患者さんの声を聞いた。
「ウチの職場では、熱の出てるヤツはみんな内緒にして無理して会社に出てきてます
よ。だってこの不況でしょ。体を壊して休んで、その間に仕事を失うわけにはいきま
せんもんね。」
99人が感染拡大に気をつけても、1人でもこのように考えている人がいるのなら、パン
デミックなど国費をいくら投入しても防げない。インフルエンザに罹患して休職した
者に対して不利な処遇を行わないよう企業に指導する、休職期間の保障を行うなどの
法整備までにも国は配慮していかねばならないであろう。
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