医療ガバナンス学会 (2013年1月7日 06:00)
平成22年厚生労働省の国民生活基礎調査で、有訴者は男女ともに肩凝り・腰痛・手足の関節痛を上位に挙げています。痛みの原因は様々でありますが、一因として体の歪みが関係しています。今回はその歪みの治療として、当院のリハビリテーションの特徴的な治療である足底板を紹介します。
足底板とは靴の中に挿入するもので、従来は主として足部の生理的アーチを支持するものとして使用されています。足型は動かない状態で採り作製します。既製 品も多く簡単に手に入ります。例えば扁平足・外反母趾は足が潰れないように、画一的に内側の縦アーチパッドや中足骨部パッド(メタタルザルパッド)を処方。O脚にはX脚方向へ向かうように、踵部が内側に傾く楔(外側ヒールウェッジ)を処方する。つまり形態を直接的に矯正することを目的としています。
しかし、現在の足底板には体の機能を改善し、間接的に形態を変化させる目的のものがあります。単に生理的アーチを保持するという概念ではなく、身体のさまざまな障害を引き起こすメカニカルなストレスを歩行を中心とした身体運動の中で無意識にコントロールします。機能的足底板と言われ、作製方法は従来と違っ て歩行など動いている状態を観察しながら行います。このコントロールは足底板内に高低差をつけ、床反力を変化させることでもたらします。例えば踵の骨は前 を高くすると膝が曲がりやすくなり、後ろを高くすると膝が伸びやすくなります。内側を高くすると推進力を生み、低くすると衝撃吸収力を高めます。つまり身体 運動メカニズム、足からの運動連鎖、身体運動時の障害発生メカニズムを力学的観点から捉えてコントロールしていきます。荷重関節における障害の多くは小さ なメカニカルなストレスを減じなければ良好な結果を得れません。そのため唯一地面に接する足部を制御する足底板は、身体運動の様々なメカニカルなストレスを減ずることが可能なため、リハビリテーションの治療手段として有効的です。
メカニカルなストレスは聞き慣れない言葉ですが、一般的には体の歪みとして認識されています。歪みは怪我、病気、利き手(足)、癖、生活習慣、職業、スポーツ歴などで生じます。歪みの全てが悪いわけではなく、逆に歪みがないと動作がぎこちなくなります。人間の活動は静と動を組み合わせているため、静から動への転換初動には左右揃っているより歪んでいた方がバランスを崩しやすく動きがスムーズになります。つまり悪いのは過剰な歪みで、毎日繰り返す生活動作で生じます。
例えば、長時間のパソコン作業などで肩凝りがある方は、一般的に身体に対して頭部が前方へ偏移しています。この過剰な歪みは立っても続きます。釣りで魚がかかり釣り竿が大きくしなるのをイメージして下さい。身体も目に見えないレベルで前方にある頭部の重さに耐えています。そのため身体の背部にある筋肉は前に倒れないように常に収縮し、これが気付かないうちに太腿の裏の筋肉が硬くて前屈ができなかったり、腰痛や全身の疲労感へと繋がっていきます。
この全身の歪みは人間の骨の1/4と55の関節が集まる足部でバランスを補います。このような状態で病院や整体、マッサージなどに通って治療をしても、毎日の習慣ですぐ元通りになります。むしろ足部の歪みを丁寧に治療していなければ、ベッドから立った瞬間に治療したはずの肩や腰を歪ませるのです。治療効果の持続や治療院に通う回数を減らすためにも、日常生活動作で無意識に歪みを治療する足底板は有効的です。
当院の機能的足底板は入谷式足底板を使用しています。特徴はコントロール方法や評価が細かいため、より体に適したオリジナルな足底板になることです。まず 関節を徒手で前後・左右・回旋方向へ動かし、どの位置で一番安定するか三次元的に関節を捉えていきます。痛みが生じている関節以外が問題となっているケースは、どの関節を選択してコントロールすると改善するかを動作観察や徒手誘導で評価します。評価で誘導方向が決定すると、実際に足底にパッドを貼付します。誘導したい関節は足底のパッド貼付位置を変えることで誘導可能です。パッドの位置が決まると、次はその誘導がどの程度の可動範囲で起きればよいか、パッドの高さを0.1mm単位で調整して作製します。
先日作製した方は20代男性で介護業務をしています。症状は介護中の腰痛です。背骨の機能が低下しいるため、可動範囲が狭く柔軟性がなくなっています。可動が部分的に集中していることがメカニカルストレスです。治療は骨盤を前方、大腿骨を後方へ誘導し、仙腸関節の前傾をコントロールしています。さらに背骨 を3分割して最上位の部分だけ背骨を伸展させる調整をしています。大腿骨を後方誘導するパッドは他部位より0.5mm高く、床反力がより強く必要になっています。痛みと柔軟性の改善を最終確認し、介護業務に復帰しております。
最後に話は変わりますが、平成24年7月に福島県相馬市で運動器健診に参加させていただきました。被災者は運動機能が低下し、転倒の危険性が高い状態であることが健診結果からわかりました。さらに震災前から医療資源の乏しい地域で転倒予防を促す理学療法士は極端に少ない状況です。全国の理学療法士が専門家として被災地の寝たきり住民を増やさない取り組みを積極的にするべきだと感じています。
≪略歴≫鉄田貴大(てつだ・たかひろ)1984年生まれ。熊本出身。理学療法士。2006年西日本リハビリテーション学院卒業。同4月より医療法人豊栄会 福岡豊栄会病院に勤務し、現在に至る。中高齢者がかかえる整形外科的慢性疾患や骨折、中高生のスポーツ障害など、幅広い年齢層における疾患に専門的なリハビリを行うことで、社会や家庭への早期復帰を目指している。