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Vol.2 内部被曝通信 福島・浜通りから

医療ガバナンス学会 (2013年1月7日 18:00)


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~健康と個人情報保護のどちらが大切か もっと議論を

この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html

南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年1月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


前回は、ガラスバッジの結果についてお話ししました。

ご存知のように、被曝には放射線を直接浴びてしまう外部被曝と、放射性物質を取り込んで起こる内部被曝があります。ガラスバッジは、一定期間身につけることにより、外部被曝量を測定する器械です。内部被曝を測定しているのがホールボディーカウンター(WBC)になります。

被曝の影響を考える際は、外部被曝と内部被曝の両方あわせて評価する必要があります。もうそろそろ震災2年になる訳ですが、実は未だに外部被曝と内部被曝 を突合してトータルのリスクを評価しようとする試みは、本格的には行われていません。発表されているのはガラスバッジの結果、またはWBCの結果単独のみ です。

もちろん何も分かっていない訳ではありません。

前回紹介した相馬市の結果( http://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/glass/h24/index.html )で言えば、ガラスバッジの結果から年間の追加被曝線量が1mSv/year以下が97%でした。

そして、内部被曝は子供のほとんどで検出限界以下です( http://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/kenkou_sindan.html )。

体重や年齢によって変わりますが、ざっくり言ってセシウム20000~30000Bq/bodyを常時維持して初めて、年間の追加内部被曝線量が1mSv /yearに到達します。現在の器械の検出限界が250Bq/bodyだとすると、検出限界以下という結果ならば、被曝はあったとしても年間 0.01mSv/year程度であると計算されます。

よって、この地域の多くの子供で、外部被曝と内部被曝あわせて年間追加被曝量が1mSv/yearを下回っていることが分かります。

話を戻しますが、そもそも、ガラスバッジの検査とホールボディーカウンター(WBC)の検査は誰がやっているのでしょうか?

ガラスバッジ検査をやっているのは基礎自治体(市町村)です。市町村が独自に検査するかどうかを決定しています。よって、例えば南相馬市と相馬市ではガラスバッジ検査の時期も回数も対象年齢も異なります。施行していない自治体や検査を終了した自治体もあります。

内部被曝も同様です。相馬市や南相馬市は市の検診として行っていますが、私立病院に委託している自治体、そもそもやっていない自治体、県の主導、私立病院が独自にやっている場合と様々です。頻度や対象、継続検査の有無もバラバラです。発表は言わずもがなです。

よって、外部被曝と内部被曝の値、両方を各個人ごとに評価し、トータルの被曝量を計算して地域の値を公表できるのは、ガラスバッジとWBC検査両方ともを市町村主導で行っている場合のみになってしまっています。

ため息の出る話です。実施主体が異なることによる壁、個人情報保護の壁が立ちはだかっています。

ガラスバッジ検査を行っているのは自治体ですから、私立病院でWBCが行われている場合は、内部被曝検査の情報が私立病院から自治体に提供される必要があ ります。当然ですが、同意なしに病院の受診結果を保健センターに渡すようなことはできません。よってこの場合、各個人に外部被曝と内部被曝の結果は、別々 に通知されます。各個人が自分で足し算することは出来ますが、外部被曝と内部被曝をあわせた全員の集計はできません。

「県民健康調査は?」というと、残念ながら県民健康管理調査( http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24287 )には、外部被曝と内部被曝はいずれも「実測」に関する調査は含まれていません。言い換えれば、ガラスバッジおよびWBC検査は含まれていないのです。含 まれているのは、甲状腺検査と問診票からの外部被曝線量の推定です。

もちろん、ガラスバッジおよびWBC検査はあくまで、今現在の生活での被曝量がいくらなのかを主眼とした検査ですので、事故直後の被曝量については、県民健康管理調査で行っているような、個人の位置情報と空間線量情報からの推測しか方法はありません。

微妙に出来てしまった最初のねじれが、そのまま解消されること無く進んでしまっています。いずれにせよ、情報公開は実際に検査を受けられた方にとって、最 も有効に有益になるようになされるべきです。上に書いた実施主体の話など、実際に検査を受けられた方にとっては全く関係ない、お役所の勝手な都合としか受 け取れないと思います。

健康と個人情報どちらを優先するのかと言われれば、医者としては当然前者と言いたいところです。ところが、被曝の話に限らず、医療の個人情報取り扱いや情 報共有について、日本は驚くほど議論が成熟していません。内服薬情報、カルテ共有やクラウドによる電子カルテのバックアップなどもよく似た問題なのです が、まだまだ乗り越えて行くべきことがたくさんあります。

放射線に関する情報だから共有しづらいのではなく、もともとITが急速に発達してきた現在、解決されないままになっている問題が明るみに出てきたという印象です。

南相馬市ではこれからやっと、ガラスバッジの結果とWBC検査結果の突合と集計が始まることになりそうです。相馬市と同じで、外部被曝と内部被曝の結果は別々には出ていて、大まかなトレンドを見ることは出来ますが、しっかり足し算して記録に残すことも重要だと思います。

写真:先日は南相馬市中央産婦人科の髙橋享平先生の誕生日会でした。先生いらっしゃらなければ今の南相馬の被曝検査体制は無かったと思います。みんなの精神的支柱です。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/2012122800011.html

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