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Vol.15 医療事故調は捕物帳なのか

医療ガバナンス学会 (2013年1月17日 06:00)


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この原稿は月刊「集中」からの転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上 清成
2013年1月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. 中立的第三者機関の隠れた本質
厚労省のホームページに、10月26日に開催された第8回「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」の議事録がアップされた。そこには、 中立的第三者機関としての医療事故調査委員会の本質が赤裸々に議論された様が現われている。弁護士である構成員と医師である構成員とが、医療事故調の本質 のとらえ方を巡って、真っ向から対立した。
医師達の想像すらしていなかった隠れた本質が、中立的第三者機関たる医療事故調には潜んでいたと評しえよう。それが、エキサイトした議論の過程で、図らずも露呈した。以下に議事録を引用しつつ述べるが、是非、議事録の原文すべてを一読されたい。
それはひと口で言えば、中立的第三者機関たる医療事故調は、殺人などのような故意犯も診療関連死たる医療事故の中に含め、その上で「ふるい」にかけようと して構想されたものであった、ということである。この本質が明らかになったため、医師である構成員が激怒し、弁護士である構成員に猛烈に噛み付いたらし い。

2. 弁護士対医師の議論
本稿で引用するのは、弁護士たる構成員である加藤良夫氏(栄法律事務所弁護士)と宮澤潤氏(宮澤潤法律事務所弁護士)の発言、そして、医師たる構成員であ る中澤堅次氏(秋田労災病院第二内科部長)と有賀徹氏(昭和大学病院病院長)の発言である。以下、抜粋して議論の経過をたどる。

>加藤構成員 「だからこそ、故意または故意と同視すべき犯罪がある場合は別だと皆さんが言うのはそこにあると思うのですが、その判断を速やかにするという仕組み、どう やってつくっていくのかということですね。私は、第三者機関に全て届け出ると。まず、報告がなければ調査に入れませんので、報告を網羅的に広く吸い上げる という抽出力を、国家としてこの種の問題について抽出力をしっかりと報告という形で上げていって、そして、その中で、これはきちっと調査しようというもの は調査していかなければいけない。調査をして初めて、故意、重過失等の色彩がわかってくる、そういう性質のものだということですね。」

>中澤構成員 「今、加藤先生の話の中で、ぜひ御理解いただけたらありがたいと思っているのは、要するに犯罪と一般の医療行為とは物すごく正反対な医療行為なわけです よ。その正反対の医療行為の中で医療者の犯罪が疑われるという形で物事が進むと、もうふだんの診療行為は全部だめになります。信頼性において動いているの が医療ですので、その信頼ということの中で、私たちがふだん考えてもいない犯罪のことまで一つのものの中に入れて議論しなければいけないということそれ自 体が、もう本当にどうしていいかわからない、恐らく医療全体の大混乱に私はなると思っているので、これはやはり議論の中からは外してほしいというのが私の 考えです。
ですから、ふるい分けをするのなら警察でやろうが、第三者機関で扱おうが、それは同じことだと思います。ふるいを広くかけて、その中から悪いものを取り出 すのだという手法は、ふるいの中に入る人は全部疑いをかけられて入るわけです。その中から、あなたは大丈夫、あなたは故意というふうに持っていくというの が、広く網をかけて審査するというやり方ではないかと思います。そうすると、診療関連死は、最初から過誤が問題だとわかるものもあるし、過誤と言っていい かどうかもわからないものも含まれています。全部それを一緒くたにしてやるということについては、ふるいをかける側に立てばこれほど都合のいいことはな い。だけれども、ふるいにかけられるほうの立場から考えると、これはやはり人権の侵害と無関係ではないのではないかと私は考えます。」

>宮澤構成員 「犯罪という言い方をすると問題なのかもしれないですけれども、通常の医療の中で犯罪行為というのは出てきてしまう可能性がある行為だと思うのです。例え ば安楽死なんていうことを考えてみると、通常で何か物を盗るために人を殺し合うというのと明らかに違います。ただ、それを医療者どう見ているかというと、 本当に苦しんで苦しんで、何とかしてあげたいという中でそういう道を選んでしまったということだってもちろんあるわけですね。そうすると、それが通常の、 何か物を盗るために人を殺したのとは違うのですけれども、ただ、結果だけを見ると、故意犯というのもどうしても混じってくる可能性はある。だから、それを 分けながらやるというよりも、やはり全体を見ながら、紙一重というところをきちんと理解した上で、全体を第三者機関のほうに委ねるということを考えておか ないと、どこかで区別つけるというのはなかなか難しいと思います。それは今の段階では非常に難しいのではないかなと思っています。」

>有賀構成員 「今の宮澤先生のおっしゃっていることは、法律家としては多分正論なのだと思いますけれども、医療者はとてつもなくたまらない。このような情緒的な言い方 しかできない。それが私たち医療者の本音です。ですから、その本音を無視するような形で論理的にものが進んでいって、こうですよとなったときに、恐らく医 療はだめになります。これは法律の方たちの論理の外に情の世界をきっちり入れておいていただかないとどうにもなりません。
加藤先生がおっしゃったみたいに、たくさん集めて、そして、よし、よし、よし、ペケというふうな形をもしとるならば、そんな業界に私たちはもう働くことをしません。これは全くそのとおりです。これは嫌なのです、そんなものは。」

3. 中立的第三者機関は「ふるい」
以上の議論から明らかなとおり、中立的第三者機関たる医療事故調の本質は、医療不信に満ち満ちて、医療事故の名の下で故意犯罪にもまとめて投網をかけ、そ れを「ふるい」分けするためのものだったのである。やはり、中立的第三者機関としての医療事故調など創設してはならない。

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