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Vol.23  郷に入っても郷に従わず その10 ~果糖とブドウ糖、どちらで空腹感が減る?

医療ガバナンス学会 (2013年1月24日 06:00)


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ハーバード大学リサーチフェロー
大西 睦子
2013年1月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


さて、みなさんに質問です。果糖とブドウ糖の違いは何でしょうか?「果糖=果物の糖で、ブドウ糖=グラニュー糖や上白糖のことです。」と回答された方、答えは、「ノー」です。

果物は果糖だけではなく、ブドウ糖、二糖類、多糖類なども含んでいます。また、グラニュー糖や上白糖の主成分であるショ糖は、果糖とブドウ糖が結合した二 糖類です。果糖とブドウ糖はどちらも単糖類ですが、ブドウ糖は摂取後、インスリン、血糖や食欲を抑えるグルカゴン様ペプチド1 (glucagon-like peptide-1, GLP−1)が増加し、食欲を刺激するグレリンの分泌を抑えます。ですから、ブドウ糖を摂取すると満足感を得て、それ以上食べ物を欲しません。ところが、 果糖はインスリン分泌の刺激が弱く、血糖値も直接あげません。さらに、GLP−1の分泌は増えず、グレリンの産生が抑制できません。ですから、果糖摂取 後、空腹感を減らすことができず、食べ物を欲したり、食べ過ぎたりします。

ラットの実験で、果糖を脳に注入すると食べ物を探し始め、ブドウ糖を注入すると食べ物の摂取が減ることが証明されています。ところが、私たちがブドウ糖と果糖を食べたとき、なぜ摂食行動が違うのかは不明でした。

私たちの食欲は、摂食中枢と満腹中枢が存在する、脳の視床下部でコントロールされています。また、視床下部と脳内報酬系(線条体、眼窩前頭皮質、扁桃体や 島皮質など)が連携して、空腹感や満腹感を調節しています。イェール大学の研究者たちは、新しい脳機能イメージング法(Functional magnetic resonance imaging;fMRI)を利用して、ブドウ糖と果糖摂取後の脳における活性化の違いを調べ、米国医師会雑誌(JAMA)に報告しましたので、ご紹介さ せて頂きます。

対象は、平均年齢31歳、20人の健康な成人ボランティアです。対象者は、チェリー味の果糖液かブドウ糖液(75グラム=300kcal)を、それぞれ別 の日に飲みました。飲み方の順番は、バイアスを防ぐためにランダム化されています。対象者は、糖液摂取の前後にMRI 画像検査を施行し、視床下部の局所脳血流の変化を測定しました。さらに、血糖、インスリン、レプチン、GLP−1やグレリンなどのホルモンの変化を調べる ために、糖液を飲む前、飲んだ後10分おきに、65分後まで血液検査を施行しました。また、研究者は、対象者に、それぞれの糖液摂取後の空腹感、満足感を 質問しました。

その結果、視床下部の血流は、ブドウ糖の摂取後15分以内に減少しましたが、果糖では認められませんでした。さらに糖摂取62分後まで、10分おきに視床 下部の血流を調べたところ、すべてのポイントにおいて、果糖に比べてブドウ糖は、視床下部の血流が減少したのです。これは、ブドウ糖摂取後は食欲が減少し たのに対して、果糖摂取後は減少しなかったことを意味します。

さらに、ブドウ糖摂取後、線条体、島皮質などの脳の食欲、動機や報酬系を制御する領域の活性化が減少しました。また、ブドウ糖摂取後は、視床下部、線条体 ネットワークの機能的な結合が増加し、満腹感が増加しました。ところが、果糖はこのような反応は起こりませんでした。果糖はブドウ糖に比べて、摂取後の血 糖、インスリンとGLP-1の増加が低く、空腹感は減りませんでした。また、ブドウ糖摂取後は、空腹感が減り、満足感を得たのに対して、果糖摂取後は、空 腹感が残り、満腹感を得られませんでした。

今回の報告で、果糖はブドウ糖に比べて、空腹感を減らすことができず、満腹感を得にくいことかわかりました。私たちは、果物や野菜などに含まれる自然な果 糖と、加工食品や糖入り飲料に含まれる果糖の、2種類の果糖を摂取しています。後者は、糖入り飲料などに使われている異性化糖(果糖ブドウ糖液糖、ブドウ 糖果糖液糖など)から多く摂取しています。異性化糖は、大量の果糖を一気に摂取する心配があります。一方、果物や野菜に含まれる果糖は、食物繊維などの作 用で、ゆっくり吸収されます。さらに、果物や野菜は、ビタミン、ミネラルなどの栄養も豊富に含まれていますので、私たちの健康に対してのメリットがありま す。結論としては、果物や野菜などの自然な果糖を、適量摂取することをお薦めするのと、異性化糖入り飲料や加工食品の摂り過ぎは注意をする必要があります ネ。

異性化糖の詳しいお話は、ロバスト・ヘルスの「”異性化糖”が2型糖尿病を引き起こす」を参照してください。

http://robust-health.jp/article/preventive01/food/000224.php

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