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Vol.30 スポーツと医学・栄養学 東大剣道部の経験

医療ガバナンス学会 (2013年1月31日 06:00)


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この原稿は「医療タイムス 2012年12月10日」に加筆したものです

東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
特任教授 上 昌広
2013年1月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

11月23日、東大本郷の七徳堂に東大・京大剣道定期戦を応援に行った。数年前から現役部員を支援しているからだ。東大剣道部時代に二年先輩であった池上浩司さんに誘われたのがきっかけだ。

私が注目したのは樋渡公愛君(農学部)、齋藤宏章君(医学部)、前橋祐樹君(工学部)ら四年生だ。この数年、東大剣道部は低迷していた。特に四年生がぱっとしなかった。真面目に稽古をするのだが、なかなか結果が出ない状態が続いた。

追い込まれて、彼らはあがいていた。私も何とかしたいと思った。彼らと話していて感じるのは、真面目だが視野が狭いことだ。稽古はやるが、工夫がない。

私は何人かの専門家を紹介した。例えば、競輪の長塚智広選手だ。アテネ五輪の銀メダリストで、現在もトップ選手の一人だ。一緒に相馬市を支援している。コミュニケーション能力が高く、行動力がある。
東大剣道部の学生たちとの初回の飲み会で、「一度、稽古を見に行きます」と約束した。学生たちは「雲の上のアスリート」のフットワークの軽さに驚いたようだ。

翌週、長塚氏は道場にやってきた。そして、学生の稽古を見て「剣道は100メートル走のような瞬発力を競う競技なのに、やっている練習はマラソンと同じ だ。稽古を短くして、筋トレをすべきだ」と言った。さらに「私が一緒に筋トレをしてあげるよ」と提案し、長塚氏と学生たちの筋トレが始まった。長塚氏の友 人である古川功二氏や内田玄希氏らの競輪選手も協力してくれた。

また、ハーバード大学で栄養学を研究する内科医大西睦子氏を紹介した。彼女は大学生たちに、アスリートが必要な最新の栄養学の知識を教えた。大西医師も競技ダンスの全米トップアマの一人だ。学生たちとの話は盛り上がったようだ。

大西医師は、彼女の友人である虎石真弥氏(栄養士)の経験なども紹介した。虎石氏は徹底した栄養管理で、帝京大学ラグビー部を常勝軍団に育てあげた一人 だ。例えば、練習終了後の成長ホルモン放出時期に糖質の多い食事を与えている。また、ラグビー部員に献血を勧め、その際のデータに基づき食事も変えてい る。低タンパク血症や貧血の部員もいるようで、彼らには練習を禁止するそうだ。

この話を聞いた東大剣道部の学生たちも早速、取り入れた。例えば、斎藤君は献血に出向き、自分が低タンパク血症であることを知った。下宿で一人暮らしをする大学生の栄養が偏るのは当然だ。彼は大西医師に習ったとおり、食生活を改善したという。

話を東大・京大剣道定期戦に戻そう。対戦は東大の圧勝に終わった。特に活躍したのが、四年生たちだ。観戦した池上氏は「体格が一回り大きくなり、打突が強くなった」という。テクニックの不足を体力で補った形だ。短期間で彼らが急速に強くなったことに驚いた。

この経験は示唆に富む。スポーツ科学は急速に進歩している。栄養や医学の専門家との協働作業を求めている。問題はどうやって専門家がネットワーク化するか だ。従来の縦割りを越えるコミュニケーション能力が必要になる。実は長塚氏と我々が信頼関係を構築したのは相馬市支援を通じてだ。被災地が取り持ったご縁 とも言えよう。東日本大震災をきっかけに、我が国の教育・医療は大きく変わりつつある。

 

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