医療ガバナンス学会 (2013年2月1日 06:00)
~常駐型支援組織、相馬フォロアーチームのスタンス~
相馬フォロアーチーム
吉田 克彦
2013年2月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2. 常駐するけれど依存させない
一日単位の短期的な支援ではなく、少なくとも年単位の中長期的な支援を行なうことを目的にして、相馬市と星槎グループなどの協力により相馬フォロアーチー ム(以下、SFT)は出来ました。出しゃばらない支援を心がけています。理由は二つあります。一つ目は、「心のケアお断り」と言われるような押しつけがま しい支援にならないように、二つ目は、SFTが存在しなくても日常生活に支障が出ないようにするためです。常駐型とはいえ、SFTの活動もいつかは終わり ます。SFTの活動が続いていても、担当スタッフが入れ替わることもあるでしょうし、卒業や引越しで子どもたちがSFTから離れることもあります。そのよ うな時に、SFTがいないことによって、子どもの状況が悪くなってはいけません。矛盾するように思われるかもしれませんが、常駐型だからこそ依存させない 支援が必要なのです。極端な言い方ですが「自分(カウンセラー)が今夜死んでも、子どもたちに全く支障が出ない状況」を意識しています。
このような考え方の元に、今年度になり私がSFTの主任になってから、次のような活動方針を決めました。
(1)短期目標:現在の生活を充実させる
まずは、現在の生活を充実させること。健康な心身のためには欠かせません。ところで、人間は二つのことを同時に考えることは出来ません。つまり、何かに集中したり、一生懸命考えている間は、嫌なことを考えなくてすみます。
話は脱線しますが、大震災後、相馬市では4月18日、南相馬市では4月23日に新年度がスタートしました。震災から一ヵ月後4月11日にはいわき市を震源にM7の地震が襲っています。そのころ私は「夏休みまで学校再会は難しいのではないか」と考えていました。
しかし、通常の春休みから2週間ほど遅れただけで再開しました。当時は、県外に避難せずに学校を再開したことに対して批判もでましたが、私は学校の早期再 開こそが子どもたちのメンタルヘルス維持につながったと考えています。もし、学校再開が遅れれば、外遊びも出来ない状況でプライバシーもほとんどない避難 所の中、子どもたちはネガティブなことを考え、些細なことで苛立ち、わずかな体調不良が気になり、昼間からゴロゴロしているので夜も眠りが浅くなり、どん どん具合が悪くなっていったことでしょう。
学校生活が再開することで、勉強に励み、部活に打ち込み、友人関係を楽しむことが出来ました。そして、心地よい疲れによって、夜もぐっすり眠ることが出来 ました。日課や習慣を維持することは子どもたちにとって大きな保護因子になります。学校再開は大きな保護因子となりました。学校再開の裏には、先生方の努 力があったのですが、それはまた別の機会に紹介します。
話を戻します。カウンセラーの立場としては、子どもたちが勉強や部活動や友人付き合いを楽しめる環境づくりを行なうことが大切となります。カウンセリング やディブリーフィングは日常生活を妨げる要因になりうることも常に考慮すべきです。前回、部活を中断させて本人が必要としていないカウンセリングを実施し ている例を紹介しました。それでは本末転倒です。
大事なことは、日常生活を円滑に進めるような支援です。その中では、勉強のつまずきに対して学習心理学や教育心理学の観点から支援することも求められます。
(2)中期目標:あらゆる可能性を拡げる
勉強や部活動や友人付き合いに没頭できるということは、ネガティブなことを考える時間が減るだけではありません。学力向上や部活動の技術向上によって、成 績がよくなり、さらに活動に打ち込めるという好循環がうまれます。当然のことながら、成績が上がれば子どもたちの自信にもつながります。
もう一つ大きな意味があります。相双地区では、津波と原発事故によって漁業・農業・観光業に大きな影響が出ています。SFTが支援しているのは市の郊外の 津波の被害にあった海岸線沿いの学校です。したがって、漁業や観光業が盛んで田畑も多くありました。将来は漠然と家業を継ぐことと考えていた子どもたちに とって、津波と原発事故によりライフプランが大きく変わりました。将来が見えなければ不安になるのは当然です。学力を向上させ、進路選択の幅を広げること は、新たなライフプランを立てるためにも欠かせません。
SFTに星槎グループからは特別支援のプロフェッショナルがずっと学校に入り、学習面で教員に助言をしております。また、東京大学の学生ボランティアによる寺子屋事業のサポートもSFTが協力しています。これらの活動も子どもたちの可能性を拡げることが目的です。
(3)長期目標:人生に花マルを
このように、現在の活動を充実させ、あらゆる可能性を拡げるためのサポートを行なっています。そして、現在関わっている子供たちが数十年後に「東日本大震 災と原発事故があったけれど、自分の人生を自分なりに精一杯生きてきた」と振り返ってもらえることがSFTの最終目標です。その時に「カウンセラーがいて くれたから」とか「カウンセラーのあの一言があったから」などと思われる必要はありません。むしろ、カウンセラーの存在など記憶の中に存在しなくていい。 もし、覚えていてくれるのなら「そういえばあの時に変なカウンセラーがいたな。全然役に立たなかったけれど」と思ってもらえれば、私たちの活動も成功した といえるでしょう。
今回はSFTの活動方針について紹介しました。もちろん活動するからには「役立っている」と成果を示しつつ、子どもたちにはカウンセラーのお陰ではなく、 子どもたち自身の力でうまくいっていると気づかせる。その矛盾と上手に付き合っていくことも私の仕事だと考えています。次回はいくつかの事例を紹介したい と思います。