【喫煙者のインフルエンザリスクは2.4倍高い】
5月25日、NPO法人日本禁煙学会(理事長作田学氏)は麻生太郎総理、舛添要一厚労大臣、関英一 厚生労働省健康局生活習慣病対策室長らに当てた緊急声明を提出した。
その要旨は1.インフルエンザの重篤化・死亡リスク対策として「タバコ対策=禁煙推進」が重要です。2.来るべき新型インフルエンザ・パンデミックに備えて国民に禁煙を促してください。である。
「私たち日本禁煙学会は、タバコの流行をなくすことが、インフルエンザ・パンデミックの制圧にも大きく資することを強調したい。インフルエンザと喫煙の関係でいえば、喫煙者は非喫煙者の2.42倍インフルエンザに罹患しやすく、罹患すると重症になることが確かめられている。また、インフルエンザの死亡のリスク要因は動脈硬化を主とする心血管系疾患、糖尿病、呼吸器系疾患などであり、かつ喫煙及び受動喫煙は、これら疾患の予防可能なリスク要因である。従って、インフルエンザの死亡リスクを減らすためには生活習慣病対策、とりわけ禁煙推進が最も重要な対策のひとつである。すなわちタバコ規制は、新型インフルエンザ対策としても非常に有効である。
インフルエンザのみならず、呼吸器感染症全般(上気道炎、肺炎、結核、季節性インフルエンザを含む)の罹患・重症化の予防の基本が禁煙と受動喫煙対策であることはいうまでもない。
我々は日本政府・厚生労働省が、タバコのリスクを正当に評価し、FCTCに述べられているように「タバコの消費及びタバコの煙にさらされることが健康、社会、経済及び環境に及ぼす破壊的な影響」から人々を保護するために有効なタバコ対策を実施すると共に国民に禁煙を呼びかけられるよう要望する。」
インフルエンザ騒動と喫煙問題は決して無関係ではない。咳を主訴に受診してインフルエンザの簡易検査を希望する患者がこの10日間で急増した。喫煙者が半数以上を占めており、大半がタバコに関連した咳なのだが、時期が時期だけに患者さんも神経質になっている。必要でないと判断される患者さんでも、職場から簡易検査を強制されたと言って来院する。タバコとインフルエンザは無関係どころか、密接に関係しており、日本禁煙学会の提言は大変時期を得た行動だと思う。
【FCTCが守られていない日本】
先日の神奈川県の禁煙条例には全国から注目が集まった。小規模な飲食店などの完全禁煙化は見送られものの条例は成立した。骨抜きにされたという見方と大きな第一歩であるという評価がある。私は後者である、高く評価したい。
室内での完全禁煙を定めた国際条約(たばこ規制枠組み条約、FCTC)に批准している日本であるが、まだまだお寒い実態であり国際的に見ても大きく遅れている。大変恥ずかしい事態だ。
国会議員の中にもいまだにこの条約の存在自体すら知らない方も多いと聞くので、仕方がないのかも知れない。しかし、神奈川県の禁煙条例を日本国のFCTC遵守推進への弾みとしたい。
「タバコは嗜好品である」と思っている人がまだ多い。タバコは嗜好品ではなく毒物だ。多くの国民がまだそう思うのには理由がある。たばこが毒物であることを巧妙に隠す政策が実に見事に続けられてきたからだ。タバコ会社は多大な研究費を医学研究者に給付し、テレビドラマやスポーツイベントのスポンサーになり、本来なら正面切って真実を伝える専門家やマスコミの口を封じてきた。何故か。それはタバコ会社が財務省の天下り先であり、それは「不都合な真実」でもあったからだ。
FCTCに批准しながらも、本気で実行しようとしない。メタボ対策にもタバコは最後の最後で中途半端に加えられ、変な格好で一応入っているが、ポーズだけに見える。また、がん対策で最も急がれるのがタバコ対策であるはずなのに、一向に具体策が見えてこない。財務官僚のタバコ会社への天下り構造がある限り、本気で取り組めないのだろうか。TVコマーシャルを見ても分かるようにタバコ問題を、分煙やポイ捨て防止というマナーの問題に見事にすり替えてきた。タバコ会社だけが儲けて、喫煙者と非喫煙者の無用な対峙を生みだしている。はっきり言おう。日本の喫煙者は騙されているのだ。
【禁煙で人生を変えようー尼崎から禁煙宣言を―】
尼崎は公害喘息とアスベスト問題で有名な町だ。蛇足だがメタボ検診発祥も尼崎だ。しかしアスベストやダイオキシンよりタバコの煙の方が有害性が高いことは意外と知られていない。毎日、咳が止まらない患者さんや喘息患者さんを診ている尼崎の町医者なら知っている。タバコでどんなに人が死んでいるか。
私は在宅医療の現場で週に一人の割合で在宅看取りをしている。これまで約300人の在宅患者を看取ってきたが、満足死が多い一方、もっともやり切れないのがタバコ病による若い最期だ。これは予防できたはずの死だ。医師として一体何ができるのかと考えた時、一番に浮かぶのが禁煙指導だ。
校医をしている夜間高校で年1回、全校生徒を集めて禁煙指導をしている。また呼ばれるままに高校や大学で禁煙指導をしてきた。最近では「高校では遅い、中学、いや小学生からの防煙教育を」と言われている。こどもたちにタバコの話をした後に必ず聞かれる質問がある。「なぜそんな毒物を国が許可しているのか」。もっともな質問だ。しかしきちんと答えられない自分自身が悔しかった。兵庫県喫煙問題研究会に入り日本禁煙学会の試験も受け、自分なりに勉強していった。すると驚くべき国家的騙しの構造が見えてきた。一般の人や子供には分からないはずだ。巧妙に騙されているのだ。特にタバコ会社にとって上客である子供たちは、TVドラマなどのサブリミナル効果でしっかり騙されている。
そんな現実を周囲の人に伝えるべく、世界禁煙デイに合わせて本を出版することにした。
「禁煙で人生を変えようー騙されている日本の喫煙者たちー」(エピック社)http://www.epic.jp/
国民が巧妙に騙されているカラクリと喫煙者が最も知りたい情報であるバレニクリンによる禁煙補助療法の詳しい解説も加えた。
この春、公害の町、アスベストの町、尼崎から禁煙宣言を発信したい。インフルエンザ騒動で禁煙イベントが中止になった今の兵庫からタバコフリーを発信する意味はあると信じている。