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Vol.45 2035年の日本:高齢多死社会と老老医療の時代の到来

医療ガバナンス学会 (2013年2月18日 06:00)


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東京大学医科学研究所附属病院
内科 湯地晃一郎
2013年2月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【はじめに】
日本は近い将来、人類史上前例のない高齢化社会を迎えます。65歳以上の高齢者が占める割合は、2010年の23%から2035年には39%に増加し、先進国最高となります。
未曽有の高齢化社会を迎える我が国に、喫緊の課題があります。それは医師不足問題です。地方部、そして外科・救急科・産婦人科等のハイリスク診療科での医師不足は深刻であり、診療科・医療機関の休止、そして重症患者さんのたらい回しが相次いでいます。
高齢化がピークを迎える2035年の日本医療の姿を予測するシミュレーションを私たちの研究グループは行い、英文専門誌に発表しました(PLoS ONE 7(11): e50410, 2012. http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0050410) 。このシミュレーションは人口統計・医師数統計に基づいた厳密なものであり、ピアレビュー(査読)され英文専門誌に掲載された初のものです。
シミュレーションの結果、高齢医師・女性医師の増加、高齢死亡者数の増加、首都圏近郊・東日本での医師不足悪化、という3つの問題が将来生じると予測され ました (PLoS ONE 7(11): e50410, 2012. http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0050410 ) 。
本稿ではこの問題点について述べたいと思います。

【高齢医師・女性医師の増加】
まずは、高齢医師の増加です。人口1,000人あたりの医師数は、2010年の2.00から2035年には3.14に増加し、他先進国並の水準に達しま す。日本の総医師数は、2010年の27.1万人から2035年には39.7万人に46%増加します。これは、医学部定員が2008年以降16% (1,221名)増員された結果です。
しかしながらその内訳をみると別の姿が浮かび上がってきます。60歳以下の医師数は 21.6万人から25.5万人の18%増加にとどまるのに対し、60歳以上の医師数は5.5万人(医師全体の20%)から14.1万人(同36%)へと 155%の大幅増となります( http://www.plosone.org/article/info:doi/10.1371/journal.pone.0050410?imageURI=info:doi/10.1371/journal.pone.0050410.g001 )。医師数は46%増加しますが、高齢医師の増加分が大きく、実働医師数はそれほど増えないことが予測されるのです。
さらに男性医師数は22.2万人から29.7万人に34%増加しますが、女性医師数は4.9万人から9.9万人に103%の大幅増となります。60歳以下 の男性医師数は17.2万人から18.0万人と4%しか増加しないのに対し、60歳以下の女性医師数は4.4万人から7.5万人に72%増加します。妊 娠・出産・子育て世代の女性医師が増加するのです。ここでも、実働医師数はそれほど増えないことが強く示唆されます。
この未来予測を先取りしたような調査結果が最近日本産科婦人科学会から発表されました。産婦人科の常勤医師は近年4年間で600人以上増えたものの、多く は「妊娠・育児中」の女性で、負担軽減にはつながっていないことが示されたのです(CBニュース2013/1/27, http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130128-00000004-cbn-soci )。産婦人科医師数の増加分の630人のうち、521人が、妊娠中か小学生以下の子どもを育児中の女性医師であり、常勤医は増加していなかったのです。
妊娠・育児中の女性医師の就労支援のためには、医師の過重労働が大きな妨げとなります。日本の勤務医は、平均週あたり 70.6時間勤務しています。週20時間の時間外勤務が過労死水準ですので、日本の勤務医は全員過労死水準に達していることになります。医療安全と医師の 健康から、労働時間を制限することが重要であり、欧州・米国では若手医師の労働時間は制限されています。しかし、わが国では労働時間を制限した際の交替医 師要員が存在しないことから、過労死水準に達している医師の過剰労働は改善されることなく、法律違反が当然のこととみなされてきました。医師の過重労働に よる極度の疲労・突然死・自殺は以前より問題となっています。勤務医の平均労働時間は20歳代後半で85時間、60歳代で48時間ですが、女性医師は、同 僚男性よりも勤務時間が短く、20歳代後半で男性85時間に対して78時間、60歳代で男性48時間に対して40時間です。
この男女別の医師労働時間を加味してシミュレーションを行ったところ、労働時間を欧州並の週48時間に制限した場合には、医師数を50%増加することが必要だと試算されました。

【高齢多死社会の到来】
さらに、高齢死亡者数の増加が問題となります。我が国の人口は、2010年の1億2700万人から2035年には1億1000万人に13%減少します。減 少の原因は、出生者数の減少と、死亡者数の増加ですが、特筆すべきは死亡者数の内訳です。死亡者数は2035年に、2010年に比べ42%増加しますが、 74歳以下の死亡者数が現在より28%減少に留まるのに対し、75歳以上の死亡者数は88%増加します(http://www.plosone.org /article/info:doi/10.1371/journal.pone.0050410?imageURI=info:doi/10.1371 /journal.pone.0050410.g002)。
人口減少社会という言葉が喧伝されているが、実は人口減少社会は、高齢者多死社会なのです。
高齢者多死社会は、日本医療にどのような影響を与えるでしょうか。現在日本人の78.4%は病院で死亡していますが、高齢者死亡者が爆発的に増加すると、 高齢の死期の迫った患者さんが病院に入院できなくなることが予想されます。実はこの高齢者医療クライシスは、既に首都圏近郊で発生しています。昨年の12 月20日のNHKニュースおはよう日本で、「大都市 医療クライシス(1)高齢者の急増で病院は…」という特集が放映されました( http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2012/12/1220.html )。高齢患者が病院に殺到、必要な医療を提供できない事態が生じているのです。
未曾有の高齢化を迎える日本では、医療需給のバランスが破綻し、病院で死ぬことができなくなることを前提に考える必要があります。また高齢者の医療需要が 爆発的に増加することから高齢者に対する医療費制限が行われることになるでしょう。ただ医療費制限と、絶対的医師不足とは分けて議論すべきです。
さらに、老老介護という言葉がありますが、前述の高齢医師の増加を併せて考えると、我々の研究結果から得られた日本医療の未来像は、高齢医師が高齢患者を診療する、老老医療社会でございました。

【首都圏近郊・東日本での医師不足悪化】
最後に、首都圏近郊・東日本での医師不足悪化の問題です。私たちは医師不足の解析のために、人口1,000人あたりの実働医師勤務時間、実働医師あたりの 死亡者数、実働医師勤務時間あたりの死亡者数という指標を導入し、都道府県別にシミュレーションしました。すると医師増員にも関わらず指標の改善は 2035年に認められず、各指標は西高東低の傾向を有し、団塊世代が高齢化する首都圏近郊人口集中地域の埼玉・千葉・神奈川・茨城、そして愛知・大阪で急 激に悪化すると予想されました。この医師不足地域においては、実は看護師・理学療法士などのほぼすべての職種で医療従事者数が不足しています。それは実習 病院の確保、勤務先がないためです。結果的に教育や雇用や格差が生じていることになります。

【まとめ】
2035年にやってくる高齢者多死社会、老老医療社会においては、医師の絶対的不足は継続すると予測されます。現状の医師数増員でも60歳以下男性医師数 は4%増にとどまり、各種指標は改善せず、高齢者医療需要がさらに増大することが懸念されるのです。過去における医師供給予測は、人口あたりの医師数を予 測したもので、医師の高齢化や女性医師の増加を考慮に入れていませんでした。また、地域偏在は悪化し、東西格差の拡大・人口集中地域の指標悪化が顕著とな ります。
将来も安心して医療が受けられるためには、さらなる医療・介護従事者の教育・増員、高齢患者の看取り制度など、大胆な制度設計が必要です。この喫緊の課題 を解決するには、高齢者医療需要の増加を新たな教育・雇用・産業創出のチャンスとみなし、今から手を打たないと間に合いません。
私たちの研究が問題解決の一助となることを願ってやみません。

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