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Vol.46 内部被曝通信 福島・浜通りから~目の前にあるおいしそうなキノコ

医療ガバナンス学会 (2013年2月19日 06:00)


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この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html

南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年2月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ひらた中央病院や南相馬市立総合病院では、ホールボディカウンター(WBC)検査で値の高い方に関しては、3~4カ月ごとに定期検査を行っています。南相 馬市立総合病院では、1mSvよりは大分に低いですが、セシウム137で20Bq/kg以上の値が検出された場合、外来受診していただくようお願いしてい ます。

ひらた中央病院に、70代の夫婦がフォローアップの定期検診にいらっしゃいました。以前このブログ(22回 http://apital.asahi.com/article/fukushima/2012111500061.html 、31回 http://apital.asahi.com/article/fukushima/2012111500077.html)でもご紹介させていただ いた方です。

去年の8月頃、合計2000Bq/body弱でしたが、その3カ月後には10000Bq/body、さらにその3カ月後となる今回、5000Bq/bodyと、ほとんど生物学的半減期の速度に合わせて減少していました。奥様も同様に低下していました。

どのように食生活を変化させたのでしょう。本人曰く、「スーパーの食べ物に変更した」というだけです。もう少し具体的に言うと、いつもの1)出荷制限のか かった食べ物を、2)未検査で、3)継続的に毎日食べること――をやめてもらったのです。この3つのことを全て兼ね備えなければ、WBC検査で値が高く なってくることは、今のところありません。

汚染食品のリスクは、地元の食べ物に均等に分散している状況ではなく、一部の食品に汚染リスクは集中しています。福島県産の何かの食べ物を食べたら、値が 高くなるという状況ではありません。39回 ( http://apital.asahi.com/article/fukushima/2012113000010.html )でもご紹介しています。

例えば山の中に入って行って、山菜とキノコを好きなだけとってくるのだけは控えることで、リスクの大部分を回避することが出来ます。
もちろんたまに検査漏れの食品が流通する可能性は完全にゼロではないのでしょうけれど、その検査漏れのものを「毎回」選んで買ってしまうリスクは、やろう と思っても難しいと思います。上記の3つの条件のうち、一番効いてくるものは経験上、「継続的に食べてしまう」ことです。

ひとまずは順調に値が下がってきていて、よかったとは思います。けれども、今回のような指導は、栄養面でも精神的な面でも総合して良いと言えるのか、ただ「値が下がったから良かった」とだけ言っていいのか微妙だと思うことも少なくありません。
例えば、ビタミンDです。相馬中央病院の石井先生も述べておられます( http://medg.jp/mt/2013/02/vol42-d.html#more )。
「キノコが……」と言い続けること、今まで行っていた食生活を変化させることにはデメリットがあります。キノコは山間部に住んでいらっしゃる方のビタミン Dの大事な補給源であったことは間違いないです。骨がもろくなるかは、最終的にはビタミンDだけの問題ではないですが、両方のバランスをとることが大事で す。

野菜をとらなくなれば、生活習慣病は増えるでしょう。塩をとれば、血圧は上がり、胃がんは増えるでしょう。脂肪分を多く取れば、コレステロールは上がり、 大腸がんは増えるでしょう。ヨウ素なども同じです。例えば山側に住んでいる方と、海側に住んでいる方で、そもそもの甲状腺がんの発症リスクは異なるはずで す。放射線の話ではありません。
そもそもヨウ素欠乏の状態だと、甲状腺がんのリスクは上がります。ヨウ素が少ないので、頭が甲状腺にホルモンを作るように頑張れ!と言い続けるからです。 それに対して、ヨウ素過剰の状態が続くと、今度は橋本病(甲状腺機能低下症)のリスクがあがります。ヨウ素がいつも供給されるので、甲状腺自身が頑張らな くてもよいからです。

上記は、非常に短絡的で非科学的な言い方ですが、今回の事故で食生活パターンが大きく変わった方々が外来に多くいらっしゃるのを見て、「食生活の制限」という影響の大きさを感じざるを得ません。

「魚は買わないのか?」「キノコは?」「山菜は?」という質問に、「スーパーで買うなんていうバカらしいこと出来ない。スーパーで買うぐらいなら食べない」という返事はよく聞きます。

今まで目の前に、明らかに素晴らしい、美味しそうな食材がゴロゴロとあったから、そして今もあるからです。立派なシイタケ。その辺のスーパーに売っているシイタケと比べ物にならないぐらいしっかりした大きさのキノコです。

浜通りの漁師さん達も、魚を食べて行かなければ生きて行けません。瓦礫撤去などの際に、あみを投げていればそこに魚はいくらでもかかります。「お米を炊く 際の水は、ミネラルウォーターを絶対に使用する」とおっしゃいますが、「魚は、そこで取れた物を絶対に食べる。食べないなんて選択肢は無い」とおっしゃる 方が多いことも事実です。

あちらを立てるとこちら立たずなので、結局のところ、人それぞれで、その人に併せてアドバイスを行っていくということになるのでしょうけれど、難しいです。試行錯誤が続いています。

*先日のブログ( http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013020100003.html )で、服の汚れからの空間線量変化について、私の計算ミスがありました。お詫びして訂正致します。学習院大学の田崎先生が計算し直してくださいました( http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/ContaminatedClothing.html )。ありがとうございます。

写真:

http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013021500012.html

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