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Vol.47 日本医学会の法人化と、全員加入で懲戒処分機能を持つ新医師会構想

医療ガバナンス学会 (2013年2月20日 06:00)


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健保連大阪中央病院
顧問 平岡 諦
2013年2月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ハンセン病患者や薬害エイズ被害患者など、「患者の人権問題」を取り上げない新医師会構想は、単に、現場の医師の管理統制強化のための医師会を構想しているにすぎないでしょう。これが結論です。
2012年5月の「日本医学会だより」は、日本医学会の法人化決定について次のように報じています。
―第79回日本医学会定例評議員会;平成24年2月22日に開催された。(中略)「日本医学会法人化の件」が協議され、法人格を持つことと各学会が負担金を支出すること等が了承された(「日本医学会だより」2012年5月、No.47より)。
日本医学会が法人格を持つことは日本医師会からの独立を意味するでしょう。なぜなら、社団法人である日本医師会の中に置かれている日本医学会が法人格を得ると、法人の中に別の法人ができます。これでは二重人格になるので日本医学会は独立する以外に無いのです。

なぜ、日本医師会から独立する必要があるのでしょうか。とりあえず法人化決定までの経緯を探ってみると、日本医学会年次報告につぎのように出ていました。
―日本医学会法人化準備委員会:日本医学会の法人化準備に向けて、本年度(平成23年のこと;筆者注)新設された委員会で、(中略)本年では2回開催し た。第一回委員会は平成23年9月13日に開催、経緯説明と今後の予定について意見交換を行った。第二回委員会は12月19日開催(「2011(平成 23)年度 日本医学会年次報告(2012.2.22)より)。

ご存じのとおり、平成18年6月に公益法人制度改革に関する三つの法律が公布され、現存の公益法人は平成20年12月から平成25年11月末日までの5年 間に、「一般社団(財団)法人」か「公益社団(財団)法人」へ移行しなければならないことが規定されました。現在、社団法人である日本医師会も期限内にど ちらかに決める必要があってその(おそらく「公益社団(財団)法人」に向けての)準備中です。このような時期に、二回だけの準備委員会開催、そして、わず か半年の間に日本医学会が法人化を決めています。それまでにそれ相当の準備を”どこかで”してきたに違いありません。それが日本学術会議・金澤一郎・元会 長の「全員加盟の医師職能団体」の構想ではないでしょうか。日本学術会議は日本の科学者全体の、国内・外を代表する機関です。内閣総理大臣の所轄の下、政 府から独立して職務を行う特別の機関で、その職務は1)科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること、2)科学に関する研究の連絡を図り、その能率 を向上させることとなっています。日本医学会のあり方を変えるために日本学術会議で検討することは、その職務上( 1)に相当)、理にかなっています。

金澤一郎・元会長は、日本病院会創立60年記念式典(平成24年3月)の記念講演「これまでの医療、これからの医療」の中で、次のように話しています(日本病院会雑誌、2012年10月号、12(1108)-24(1120)より)。
―科学者たる医師の「行動規範」を明確にし、それを厳守することが必要である。また、それを可能にするべく、全員が加盟する職能組織が必要ではないか?  つまり、組合組織ではなく政治団体でもない我が国全体の医療に対して責任を持つ「公的集団」を形成することが望まれる。例:公認会計士、弁護士。
―「全員加盟の医師職能団体」の機能:この団体が持つべき機能;1)医師の懲戒処分機能、2)医師の質保証機能、3)医師の管理機能、4)医療への提言機能。この団体が持つべきでない機能;1)労働組合的機能、2)保険点数算定機能、3)政治団体的機能。
―昨年(平成23年;筆者注)の6月まで日本学術会議の会長をしておりましたときに、その必要性(全員加盟の医師職能団体の必要性のこと;筆者注)につい て多くの人と議論いたしました。そして、確かにそうだというご意見がけっこう多く、分科会をつくって、議論を現在進めてもらっています。そう遠くない将 来、こういうことが学術会議のほうから提起されることを期待しております(以下、略)。

金澤一郎・元会長が講演したのが3月です。そして、その前月、2月に日本医学会は法人化を決めています。とても別々の動きとは思えません。また、金澤一 郎・元会長が「科学者たる医師」と言っているのは、日本医学会に加入している医師を意味するのでしょう。これらを一連のものと考えるとつぎのようになりま す。現在の日本医師会に取って代わり、日本医学会を母体として新たな医師会を作る。それは全員加盟制で、「行動規範」を持ち、懲戒処分機能を持つものとな ります。そしてそのような職能団体の例として公認会計士や弁護士を挙げています。

なぜ、新しい医師会が必要なのでしょうか。新しい医師会の特徴を裏返すと、現在の日本医師会の問題点を示していることになります。新しい医師会の特徴は、 「行動規範」を明確にし、強制加入させ、懲戒処分機能でその「行動規範」を守らせようということです。現在の日本医師会が自由加盟性で、「行動規範」が明 確でなく、懲戒処分機能を持っていない、(そのために医師が問題をひき起こし、医師が患者から尊敬・尊重されなくなっている)と考えているのでしょう。

金澤一郎・元会長は「行動規範を明確にし」と言っていますが、その内容は明らかにしていません。しかし「行動規範」を決めるには、これまでに医師が関与し た患者問題を反省し、今後そのようなことのないように「行動規範」に盛り込むことが必要でしょう。金澤・元会長はどのような事柄を挙げているでしょうか。 それが「医療界と社会との軋轢の問題」(スライド15)です。詳しい内容は省きますが、ここで挙げているのは脳死移植、医療事故、倫理問題です。倫理問題 で取り上げているのは「国循ゲノム無断解析事件」のみです。ここには「患者の医者に対する尊敬・尊重の念」を「今や、風前の灯」としてきた大事な事柄が抜 けています。それは「患者の人権問題」です。「第三者(製薬企業や国など)の意向が、医師を介して、患者の人権問題」になった事柄です。すなわち、ハンセ ン病患者の「要らぬ長期」隔離や薬害などです。

ハンセン病患者に対する隔離政策という国の意向が、医師の判断で「不必要な長期」になりました。そして「要らぬ隔離」という患者の人権問題になりました。 薬害といっても薬が勝手に患者を害する訳ではありません。第三者の意向を知っているか否かにかかわらず、医師が処方することによって患者に被害を及ぼして いるのです。薬害エイズでは受診拒否という差別問題も起こしました。医師が二重に関与した患者の人権問題です。

これらを反省するなら「医師が患者の人権の擁護者」になることを「行動規範」で明確にする必要があります。日弁連は「行動規範」である『弁護士道徳』に 「弁護士は人権の擁護者」であることを明記しています。一方、日本公認会計士協会の『倫理規則』や『独立性に関する指針』にはそのような規範はありませ ん。新しい医師会が見習うべきは日弁連ということになります。日本公認会計士協会を見習っても信用を回復することはできません。

それでは、金澤一郎・元会長が「全員加盟の医師職能団体」の構想で考えている「医師あるいは医療関係者のこれからの在り方」とはどのようなものでしょうか。以下の三点を挙げています(同上、記念講演より)。
―1)数十年前の日本の医療の基盤となっていた、患者の医者に対する尊敬・尊重の念は、今や風前の灯となっており、国民の「医療への参加意識」の高まりとともに、医師に対する「誠実さ」と「情報公開」が求められていることを知ることが、新しい医療には必須である。
―2)それを実現させるには、科学者たる医師の「行動規範」を明確にし、それを厳守することが必要である。また、それを可能にするべく、全員が加盟する職 能組織が必要ではないか? つまり、組合組織ではなく、政治団体でもない我が国全体の医療に対して責任を持つ「公的集団」を形成することが望まれる。例: 公認会計士、弁護士。
―3)我が国のこれからの医療を考える時、これまでの医療があまりにも専門志向一辺倒であったことを素直に反省する必要がある。総合的・全人的医療の普及を目指す必要があるだろう。

「在り方」1)の内容は、「自己決定の医療」を受けたい患者に対して医師は「患者の自己決定(人権)を尊重する」ことが必須と言っているにすぎません。こ れでは現在の日本医師会(「患者の自立性;autonomyを尊重する」と言っています)と同じことです。上述のように「患者の人権を擁護する」と言わな ければ、新しい医師会を作っても信用されないのです。「患者の医者に対する尊敬・尊重の念」を取り戻すことはできないのです。
医師・患者間だけで成り立っていた昔の医療に比べ、医療がより社会的になってきています。それだけ第三者(製薬企業や国など)の意向が医師を介して患者の 人権問題になることが多くなっているのです。これからの医師は「患者の人権の擁護者」として患者の方を向いていることを明確にしなければ、すなわち第三者 の意向の方を向く可能性があれば、患者・社会から信用されないのです。それだけ人権意識が高まってきているのです。

「在り方」2)の内容は、上述のように、組合組織か政治団体のような現在の日本医師会とは決別し、「科学者たる医師」、すなわち日本医学会が母体となって 新しい医師会を作ると言っているのでしょう。「行動規範」に「患者の人権を擁護する」ことを明確に謳わなければ、現在の日本医師会のように患者・社会から 信用されないだろうことはすでに述べました。

「在り方」3)については、専門志向一辺倒を反省するだけでなく、患者の人権問題をひき起こしてきたことを素直に反省する必要があります。
医師にとって、この新しい医師会はどのような意味を持つのでしょうか。新しい医師会は全員加盟(すなわち強制加盟)制で懲戒処分機能を持つとなっています。その懲戒処分の判断基準が「行動規範」の内容ということです。
「行動規範」の内容に関して気になるのは、例として公認会計士を挙げていることです。日弁連の『弁護士道徳』からは「人権の擁護者」という普遍的な基準を 設けることができますが、日本公認会計士協会の『倫理規則』や『独立性に関する指針』からはそのような基準を設けることができません。現在の日本医師会の 医の倫理と同様に「患者の人権(自己決定)を尊重する」だけでは、「患者の人権を尊重するが、時には他の意向を優先することもある」ことになって基準が恣 意的になり得ます。懲戒処分の判断基準が恣意的になり得ると、それは単に権力による強制処分になり得ます。強制加入の強制処分機能を持つ団体は、医師を管 理統制するための団体になるだろうと想像されるのです。
「行動規範」の内容が「患者の人権を擁護する」ことになれば、日弁連と同様に普遍的な基準を設けることができます。そうすると誰にたいしても同じ基準で判 断が下されることになるので、懲戒処分は「医師間の相互評価」となり、自浄作用が働くことになります。これが、世界医師会のいう 「Professional autonomy;医師集団としての自律」という医師会の「あり方」です。

「在り方」1)からは、「行動規範」の内容が「患者の人権を尊重する」ことになりそうです。そうならないように、日本学術会議の分科会を注意深く見守っていく必要があります。

「患者の人権問題」をなおざりにする金澤一郎・元会長の考えは、戦後直後から続いてきた日本学術会議、日本医学会の考え方と思われます。次のような証言があります。
―日本学術会議の発足に当たって、戦時中のわが国の科学者の態度については反省すべきか否かが問題になったとき、多数決で特に戦時中の態度については反省 する必要はないという事になった(中略)。この場合とくに医学部門の人たちは一致して強く、戦時中の反省を必要としないと主張した。その理由は、戦争に科 学者が協力したのは旧憲法によって協力したのであるから当然の事であるというのである。(武谷三男著『科学と技術』勁草書房1969、p.192)
「戦争に科学者が協力したのは法に基づいて行っただけ、だから当然のことである」と言い訳をして、「自らが行った非人道的な行為」に対する検証(反省)を しなかったのです。人道問題(倫理)よりも法を上位におくこの考え方は「悪法問題」と呼ばれるものです。「悪法(人道に反する法)も法である、だから法を 守っただけだ」という責任逃れの詭弁に利用されることが問題なのです。日本学術会議も日本医学会もこの考え方を変えたとは、いまだに表明していません。戦 後直後に作られた日本医師会の医の倫理は、実質上、日本医学会の考えの下に作られたようです(注;参照)。そして現在の医の倫理もその考えを引き継いでい ます。そのため、すなおに「患者の人権を擁護する」とは言えずに、「患者の人権を尊重する(が、他の意向を優先することもある)」と含みを持たせた表現に なっています。

「在り方」3)では、「あまりにも専門志向一辺倒であったことを素直に反省する必要がある」と述べていますが、反省すべきは「戦時中に、自らが行った非人 道的な行為」でしょう。この反省なければ「悪法問題」の解決にならず、「悪法問題」の解決なければ「患者の人権問題」に対応できず、「患者の人権問題」に 対応できなければ、新しい医師会を作る意味はないでしょう。
現場の医師の管理統制を強化するための強制加盟の医師会とするのか、あるいは相互評価による自律した医師会とするのか、それは「行動規範」の内容に「患者 の人権を擁護する」ことを入れるかどうかにかかっています。それを検討しているだろう日本学術会議の分科会の委員の責任は重大です。
戦後直後は、日本医学会・会長が日本医師会に乗り込んできて(会長となって)、「患者の人権問題」を避ける「行動規範」、『醫師の倫理』を作ってきまし た。今度は、日本医学会・会長が日本医師会を抜け出して、「患者の人権問題」を避けるとともに、現場の医師の管理統制の強化(全員加盟性による)を図ろう としています。「21世紀は人権の世紀」といわれるように、「人権意識の高まり」は歴史の流れです。「患者の人権問題」をどのように扱うかによって、高久 史麿・日本医学会・会長の歴史的評価は決まることでしょう。

(注)昭和23年から昭和38年まで日本医学会・会長であった田宮猛雄が日本医師会・会長を兼任したのが昭和25年です。その3ヵ月半後にGHQとの問題 で日本医師会・会長を退任していまが、昭和27年から昭和29年まで日本医師会・会長に再任されています。『醫師の倫理』が作られたのは昭和26年です が、実質上、日本医学会の意向に沿った内容になったものと思われます。
その内容(総則)は以下の通りです。
(1):医師は、もと聖職たるべきもので、従って医師の行為の根本は、仁術である。(2):医師は、常に人命の尊重を念願すべきである。:医師は、正しい医事国策に協力すべきである。
なお、「社会に対する義務」の項には、「医師の倫理に反する者は、これを善導すべきである。医師の倫理に反する行為ある者に対しては、医師会の裁定委員会 が善処すべきである」と記載されています。法が決めた国策に反することは倫理違反である、「悪法も法である」、従わなければ医師会の裁定委員会で倫理違反 として処罰(善導)すべきであると述べていることになります。
戦後、新制なった日本医師会は自由加盟性ですが、裁定委員会を持っていて倫理違反の会員医師を処罰していたようです。今回の新医師会構想が「患者の人権問 題」を扱わないのであれば、「行動規範」は『醫師の倫理』と同様となるでしょう。そして制裁委員会を持つのであれば、自由加盟制が強制加盟制に変わっただ けで、戦後直後の医師会以上に現場医師の管理統制を強化した医師会になるだけでしょう。

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