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臨時 vol 126 「これ以上 千葉を崩壊させない」

医療ガバナンス学会 (2009年6月1日 10:47)


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     ~竜崇正・前千葉県がんセンター長 インタビュー~
           聴き手・ロハス・メディカル発行人 川口恭

 3月末まで千葉県がんセンター長を務め、この程『医療構想・千葉』というシ
ンクタンクを設立する竜崇正氏にインタビューした。
――『医療構想・千葉』とは何ですか。
 医療に関するシンクタンク的ネットワークです。医師や患者という立場を超え、
医療現場から声を出し合い、熟議し、実効性のある医療ビジョンや政策提言を打
ち出して、政治家、行政、マスコミに伝えていきます。政策提言するだけでなく、
もし医療をないがしろにする政治家がいれば、「選挙で落とすぞ」という強いメッ
セージも出していきたいと考えています。
――なぜ、つくろうと考えたのですか。
 銚子市立総合病院のことなど皆さんもご存じと思いますが、千葉県では全国を
先取りするような形で医療崩壊が進んでいます。私は、その大きな原因が過去8
年の堂本県政にあると考えたので、森田健作氏が当選した3月の知事選に出馬し
ようかと真剣に思い詰め、記者クラブで会見までやりました。会見後に全候補が
私の政策を取り入れると約束してくれたので出馬しなかったのですが、結局のと
ころ知事選で医療は争点にならず、しかも私の政策が実行に移されるメドも立っ
ていません。私を応援しようと集まってくれて、この間の経緯を眺めていた医師、
看護師、患者体験者、学生といった方々の間で、もはや自分たちで何とかするし
かないと機運が盛り上がってきて、結成することになりました。そういう学生さ
んやボランティアたちで、13日のシンポジウムの準備はどんどん進んでいます。
 問題を解決するには、内輪で文句を言っているだけではダメです。最終的には
政治を動かさなければならないし、政治は投票によってしか変えられない。投票
を変えるような国民的議論を起こすには、まずマスコミを巻き込まなければなら
ない、そういう連鎖を起こすにしても、最初に現場が声を上げない限り、何も始
まらないでしょう。
 現実問題として、何らかの組織のあった方がマスコミに取り上げられやすいと
いうのもあります。3月まで私は県の医療職トップとしてポジションパワーを持っ
ていたので、個人として情報発信できましたし、マスコミにとってニュース価値
もあったと思います。でも4月からは、そういうわけにいきません。一方、県職
員の立場では、県の方針に異を唱えるようなことは非常にやりづらかったのです
が、これからは自由に発言できます。裸になって、もう一度同士の人たちと一緒
にやっていきたいと思っています。
――何が根っこの問題ですか。
 医療の現実について、国民に正しく情報が伝わっていないと感じています。現
場を知らない厚生労働省の医系技官が、無責任に適当な通知を出して現場を引っ
かき回し、その結果として医療が崩壊への道をまっしぐら突き進んでしまってい
ます。
 彼らの政策の背景には医療費亡国論があるようです。しかし、あんなものは高
齢者が増えるから医療費が大変だ、という一つの仮説に過ぎません。仮説とそれ
に基づく政策がどのような効果を与えたのか、現状把握と検証とを繰り返しつつ
次の仮説と政策へと進むのが科学的に当然のあり方なのに、彼らは全く検証をし
ません。政策失敗の責任も取りません。
 最近では、臨床研修制度が非常によい例です。医局主導の研修の何が悪かった
のかも十分に検証しないまま導入して、結果的に特に千葉県では夜間救急が穴だ
らけになりました。研修医に当直もアルバイトも禁止したわけですから、夜間の
人が足りなくなるのは当たり前です。恐らく官僚たちは夜間救急を誰が担ってい
たか知らなかったんでしょう。そもそも医学部でOSCEなどやっているのに、
同じようなことを卒後にさせる意味がよく分かりません。さらに、その制度の何
が良かったか悪かったかも検証しないまま、また小手先で制度をいじり始めてい
ます。
 彼らが検証しないのであれば、現場から意見を出さないといけないと思います。
そうしないと、せっかく世界トップクラスに育っていた日本の医療が崩壊してし
まいます。
――なぜ、今まで現場から声が上がらなかったんでしょう。
 確かに発言しなさ過ぎでした。言ってもどうせ変わらないとあきらめていたの
が一つ。それ以上に、目の前のことを一生懸命やっていれば、医師は満足できて
幸せだった、社会も尊敬してくれた、ということなんだと思います。目の前の患
者さんに没入して週100時間労働する、それが医師として当たり前の働き方でし
た。
 そういった現場の状況を踏まえて官僚が政策立案していれば、随分と状況は違っ
ていたと思います。医系技官は医師免許を持っているといったって、患者さんを
看取ったこともなく、悲嘆にくれる患者さんと共に泣いたこともないわけです。
だから我々は、彼らが現場を知らないと言うのです。
――お話を伺っていると全国的な話で、千葉県で括る理由もなさそうですが。
 もちろん全国共通の課題ですから、よその地域とも連携していきたいと思って
いますが、千葉県に住んでいる以上、まず千葉県の問題からやろうということで
す。Think Globally Act Locallyです。先ほど申し上げたように、千葉なら
ではの状況もあります。
――千葉ならではの状況を、もう少し詳しく教えていただけますか。
 千葉県は620万人も人口があるのに、医学部が千葉大1カ所にしかありません。
隣の東京都は人口1300万人いても医学部も13ありますから、その差は大変なもの
です。その千葉大1つで地域医療の施設から高度先進医療の施設まで、県内の公
的病院ほぼ全部を支えてきました。ところが臨床研修制度開始までは、研修医が
毎年180~200人程度入っていたのに、制度開始後は80人も入らないようになって
しまったのです。卒業生も3割しか残りません。当然のこととして公立病院に千
葉大から人が来なくなった。それが5年間続いたことによって、公立病院は限界
近くまで人が足りなくなっているんです。
 銚子市民病院だけではなく、態勢縮小や崩壊の危機が論じられている公立病院
もいくつもあります。新型インフルエンザ騒動は、成田赤十字病院にもボディー
ブローのように効いているはずです。このままだと3年もたずに、悲惨な状況が
起きるでしょう。今のところ何の対策も取られていません。
 県立病院には病院事業管理者がいて、しかも雇用条件は県の規則で決められて
いるのに、医師を確保するのは病院長の責任なんです。県立佐原病院の院長だっ
た5年前、臨床研修が始まれば医師が減少することを見越して、医師定員26人の
ところ一時的に28人雇ったら、県から文句が出て苦労しました。雇える時に雇っ
ておくべきなのにねえ。その時、銚子市立総合病院には38人の常勤医がいて羨ま
しく感じた思い出があります。それが、あっとういう間にあの状態です。壊れ始
めたら早いんです。
――千葉県出身者として背筋が寒くなります。
 悪い話ばかりではありません。千葉県には医療資源はあるんです。亀田総合病
院と旭中央病院という全国から医師が集まる臨床研修指定病院が2つもあります。
それから、がん領域に関しては、国立がんセンター東病院、放射線医学総合研究
所という世界に冠たる施設がありますし、千葉県がんセンターも含めて研究施設
の集積もあります。国際空港も持っています。人口が多いですから、それなりに
税収もあります。きちんとした医療政策さえあれば、崩壊を食い止められると思
いますし、それだけでなく医療産業が興って経済を支えるような素地は十分にあ
るとも考えています。
 ただし、あまり時間的な猶予はありません。医療資源とは、設備ではなく人で
あり、単なる人ではなくチームです。医師や看護師だけいてもチームになりませ
ん。受付の人や会計の人や掃除の人まで全員引っくるめたものがチームです。そ
ういうチームを作るのには時間がかかる一方で、一度壊したら一気にゼロに戻っ
てしまいます。今頑張っているチームを維持できるよう早急に手当てをしないと
いけません。まずは、そこが一番大事です。
――お金が必要ですね。
 そうですね。政治を動かす必要があると考えています。以前は自治体が病院を
持っていると交付金をもらえて、それなりに財政的にも助かっていたと思うので
す。でも、診療報酬引き下げに続いて交付金ももらえなくなって、そうなると病
院の赤字がケシカランと言い出す政治家が多くて困ります。とにかく政治家に二
世かタレントしかいなくて、口先はともかく国全体のことを考えている人がいま
せんよね。
 それとマスコミ。自分たちで物を考えず、どこの誰が言ったのか本当かも分か
らない情報を垂れ流して医療崩壊を招いた戦犯だと思います。ただ、そうは言っ
ても彼らの力は大きいのです。福島県立大野病院事件にしても、草の根の運動、
ネットでの盛り上がりの後に大マスコミが続いたから、無罪判決が出たと思いま
す。彼らは権威主義的で、草の根から始める場合には興味を持たせるようにしな
いといけないので、上手に巻き込んでいきたいと考えています。
 ただ、どうしても納得いかないのが、これは特定の人の利害ではなく全国民の
利害に関連する問題ですよね。そもそも人類始まって以来、これだけ長寿の社会
になったことなんかないんです。医療とか年金とかの制度は、定年後5年で死ぬ
という前提で作られてきたものですから、定年後20年間負担したくありませんけ
ど社会で面倒みて下さいでやっていけるはずありません。制度を作り直さないと
いけないのは分かり切っているのに、どうしてマスコミの人たちはキャンペーン
を張ったりしないんでしょうか。自分たちの仕事が何かを忘れているんじゃない
かと思います。
――マスコミにとって、霞が関は大事なネタ元ですから、一緒に構造が硬直化し
てしまったというのはあるんでしょうね。
 霞が関の構造が限界なんだと思いますよね。別に彼らが悪人とは思いませんけ
れど、思いつきのような通知を出すと、皆が一斉に従う。しかも責任を取らなく
てもいい。一度味を覚えたら、止められないでしょう。
――政治家、行政、マスコミに伝えていくんだというお話で、まず13日にシンポ
ジウムがあります。どのような仕掛けをしましたか。
 主だった方々には案内状を出します。彼らが何に関心を持っているかによりま
すので、来てくれるかどうかは分かりません。まずは、その模様をネットメディ
アなどで報じてもらうことで、後日じわじわと効いてくるというのもあるのでは
ないですか。
 シンポジウムの演者である小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長には、日本の医
療崩壊の現状を話してほしいと頼みました。千葉の政治家や行政の人たちは、地
域だけを一生懸命見て地域だけで努力しても病院は守れないことを知らないと思
います。銚子がいい例ですが、みんな病院を守ろうと頑張ったんですよ。でも結
局、地域レベルではどうにもならないことだった。だったら県や国を変えようと
考えてもいいはずですが、まだそう発想が向かないところが今の限界なんでしょ
う。まず政治家に、日本全体の状況を知ってもらおうと思います。
 もう1人の演者の亀田信介・亀田総合病院院長には、医療崩壊の処方箋がある
かを聞くつもりです。私はあると思っている。チームが崩壊する前に救出するこ
とです。安房医師会病院は、亀田に救われて間に合いました。間に合わなかった
銚子との違いは何だったのか聞きたいと思っています。
――翌14日には、汚職で逮捕された千葉市長の後任を選ぶ選挙がありますよね。
何らかのアピールを狙ったんでしょうか。
 私自身は特に意識していませんでしたが、メンバーの中には、そう考えている
人もいるかもしれません。千葉市は、政令指定市で大きな市民病院を2つ持って
いるのに、ずっと県に頼り切りでした。新市長が本気で動いてくれるならインパ
クトはありますね。
 繰り返しますが、ここまで千葉の医療がひどくなった原因は、一貫性のない無
責任な堂本県政の8年間にあると思います。森田知事は、堂本路線を否定できる
立場ですから、なんとか地域に密着した政治家と協同して、県の医療政策に筋を
通したいと思っています。
(インタビューは、ここまで)
 竜氏が代表を務める『医療構想・千葉』の設立記念シンポジウムは6月13日に
開かれる。シンポジウムについて詳しく知りたい場合は、こちらの案内
(http://lohasmedical.jp/news/pdf/iryoukousoutiba.pdf )を参照のこと。
(りゅう・むねまさ)
 1968年、千葉大学医学部卒業。92年、国立がんセンター東病院手術部長。99年、
千葉県立佐原病院院長。2005年、千葉県がんセンター長。
(5月27日付『ロハス・メディカルweb』http://lohasmedical.jp に掲載された文章に一部手を加えたものです)

 

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