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Vol.67 少子高齢化社会の経済成長の牽引役は医療・助産・介護と再生医療

医療ガバナンス学会 (2013年3月13日 06:00)


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この原稿は月刊集中3月号より転載です。

井上法律事務所
弁護士 井上 清成
2013年3月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. アベノミクスへの期待
アベノミクスに対する世間の期待が高い。長引くデフレ不況がもたらす暗く沈滞したムードをふっしょくしたい、という願望の現われでもあろう。アベノミクス は、財政政策と金融政策を総動員しようとするものである。ケインズ派の経済政策的でもあり、良いことだと思う。ただ、そこで最も重要なことは、現実に経済 成長を実現しなければならない点である。
もしも経済成長ができなければ、逆に、財政破綻とハイパーインフレーションなどのパニックをもたらす。

2. 有益な需要と供給なら連鎖する
一過性の景気刺激策や立て続けの景気刺激策で、最低でも一時的には景気は回復しよう。しかし、実のない需要喚起やハコモノの供給増大では、景気刺激策が尽きたと同時に、景気は失速する。つまり、経済成長は果たせない。
有益な需要とそれに対応する供給が必要である。有益な需要と供給ならば、そのサイクルは連鎖しよう。つまり、経済が成長する。
医療において、特にそのような有益な需給の連鎖を探せば、少子化社会に着眼すると、その代表例は産科医療・助産・小児医療であろう。高齢化社会では、リハ ビリ・介護・終末期医療となろうか。さらに、どのような部面でも医療を一新させかねない技術革新として、当然、再生医療・細胞医療も欠かせない。

3. 有益な需要と無益な需要
かつての経済政策では、購買力に支えられた需要(有効需要)という点が重視されたけれども、意味のある需要(有益な需要)という観点は薄かったように感じ られる。医療は全般的に、他の分野(たとえば建設)と異なり、有益な需要という観点が等しく満たされていると思う。有益な需要は、無益な需要と異なって、 一過性に終わらずに連鎖する。人は有益な需要を満たそうと、意欲をもって経済活動を連鎖させる。それゆえ、有益な医療は経済活動の牽引役たりうるのであ り、特に少子高齢化社会においてはなおさらであろう。だからこそ、有益な需要にマッチングした医療供給の体制を整えることが必要である。以下、いくつかの 具体例を述べたい。

4. 産科医療補償制度の無益部分
少子化社会の傾向として、産科診療所・開業助産所・小児科診療所への有益需要が大きいように思う。そこでは特に、供給量の増加が望まれる。
ところが、これに逆行する制度があるように思う。5年間で1000億円もの余剰金を退蔵させている日本医療機能評価機構が営む産科医療補償制度である。現 状では、実のない需要に対応するかのようなハコモノの供給体制と言えよう。無益な1000億円の余剰を吐き出して、6年目以降は見直して、もっと実のある ものに改善されることが望まれる。

5. 終末期医療の無益部分
高齢化社会においては、高齢者本人も家族も、リハビリ医療や介護に対する有益需要が大きい。しかし、リハビリも介護も行政が仕切り過ぎていて、質量ともに充実した供給にネックを生じさせているように思う。
甚だしくは、終末期医療においては、旧態依然とした刑法や民法に脅えて、まだまだ無益な医療が強いられている。無益な延命治療に対する需要もないのに医療 者がそれを供給せざるをえないとしたら、患者家族にとっても医療者にとっても無益で不幸と言えよう。真に有益な需要と供給のサイクルを築かねばならない。

6. 再生医療は牽引役
現在、有益な需要と供給の担い手として最も注目されているのが、再生医療である。臨床研究と自由診療の活発化が、特に期待されるところであろう。
再生医療は医療を一新させる可能性を持っており、まさに経済成長の牽引役の筆頭にふさわしい。当然、世界各国も含めた競争も激しく、自由な競い合いが必須である。
牽引役たりうるためには、自由闊達でなければならない。幸い、臨床研究においても自由診療においても、わが国には珍しく、小うるさい規制がないに等しい。 医師の研究の自由、医療の自由が確保されている。もちろん、再生医療に対する需要は、まさに連鎖する有益な需要にほかならない。このまま進むならば、経済 成長の牽引役たりえよう。

7. 再生医療規制法案は無益
ところが、再生医療にも懸念材料がないわけではない。それは、再生医療規制法案(通称)という一群の網羅的・包括的な規制法制定の動きである。
再生医療の名目で余り倫理的でない自由診療が行われているので規制が必要だ、という大義名分の下での立法らしい。しかし、もしも本当にそのような再生医療 が原因で因果関係のある医療事故死等を引き起こしたならば、現行法上の刑法による処罰や民法による損害賠償をすればよいであろう。消費者保護の観点から、 消費者契約法などに基づく取締りもありうる。つまり、医師法や医療法を超えて、医療内容に介入する特別法を制定すべき必要不可欠性や合理性に乏しい。
倫理は本来、医療者同士の内で厳しく議論すべきことである。もちろん、必ずしも直ぐに結論が出ず、倫理規制の実効性が十分でないと感じる向きもあるかもし れない。しかし、倫理はイコール法律ではない。倫理は法律をもって予防的に網羅的・包括的に規制されるべきこととも思われない。倫理を行政の規制にゆだね るのは、なおさら妥当でない。倫理は法律や行政によって予防的に強制すべきものではないのである。
そもそも、再生医療に対する規制に有益な需要が十分にあるとは思えない。軽々に再生医療に規制を導入するならば、医療事故死を業務上過失致死罪で処罰した り延命中止を刑法で処罰したりするのと同列の事態を引き起こすであろう。無益な需要に基づく行政のハコモノ規制となってしまうかもしれない。
再生医療に対する法規制は、くれぐれも慎重に議論をすべきである。臨床研究や自由診療を締め付け、牽引役を潰してはならない。

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