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臨時 vol 128 「新型インフルエンザ対策と医師法違反報道;ここにも「医療崩壊」の構造が。」

医療ガバナンス学会 (2009年6月4日 10:01)


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               健保連 大阪中央病院
               平岡 諦

      舛添厚労相が厚労省内の会議で「診察拒否は医師法違反」と発言したとす
る内容が、共同通信社を通じて全国のマスコミにばらまかれた。以下にその内容
を示す。
  「(2009.5.6.15:55共同通信)舛添要一厚生労働相は6日、新型インフルエ
ンザ発生国への渡航歴がないにもかかわらず、発熱などした人が病院で診察を断
られたケースが相次いでいることについて『医師法違反だ。医者の社会的義務と
して対応してもらいたい』と、不快感を示した。新型インフルエンザ対策に関す
る厚生労働省内の会議で述べた。
 発熱などの症状を示した人への診療拒否については、東京都が5日までに92件
を確認しており、厚労省も全国の実態把握に乗り出している。」
 この報道内容に対し特に病院勤務医の間で物議を醸しているが、これは厚労省
が意図的にリリースしたと考えるべき報道内容である。以下にその理由を述べる。
 発言があったとする5月6日付けで、厚労省から地方自治体への「事務連絡」
が発表されている。すでに届いた病院も多いことであろう。以下にその内容を示
す。
 事務連絡  各都道府県衛生主管部(局)医務担当者宛
 「国内未発生期における発熱外来を置かない医療機関への発熱患者の受診につ
いて」
     平成21年5月6日  厚労省・新型インフルエンザ対策推進本部
 1.まん延国への渡航暦や患者との接触歴が認められる発熱患者が、発熱相談
センターを通じずに発熱外来を置かない医療機関を受診したり、電話による相談
があった場合には、まず発熱相談センターに電話で相談し、必要に応じて紹介さ
れる適切な医療機関を受診するように勧めること。
 2.発熱相談センターの指導に従って発熱者が発熱外来を置かない医療機関に
受診した場合は、患者にマスク等を使用するように指導するなど、感染予防に必
要な指導を行った上で、当該医療機関が診察すること。
 この一枚の文章の意味するところは、すなわち、厚労省から地方自治体へ、地
方自治体から管轄の病院の管理者への、「事務連絡」という名で行われる圧力で
ある。すなわち、「医療法」に基づいた圧力である。「事務連絡」を受け取った
病院のなかでは病院の管理者から病院長へ、病院長から病院幹部へとその圧力は
浸透していく。しかし「医療法」に基づく圧力はせいぜいここまでである。これ
では「事務連絡」が実効性あるものにならない。
 発熱患者が病院外来を受診した場合、実際に対応に当たるのは病院の勤務医で
ある。「医療法」は病院のあり方を規定する法律であり、勤務医に圧力をかける
ことはできない。そこで厚労省が意図的にリリースしたのが、最初に述べた「医
師法違反」に関する報道である。すなわち「事務連絡」という上からの「医療法」
に基づく圧力と、マスコミを利用した「医師法(医師法は医師のあり方を規定し
ている法律)」に基づく圧力、この二つが合わさることにより実働隊である勤務
医への圧力となるのである。その結果は、勤務医への過重労働の上乗せとなって
いく。もちろん、ここでの医師法違反の意味するところは、いわゆる「応招義務」
を規定した第19条違反を指していることは言うまでもない。
 「事務連絡」という厚労省からの病院への圧力と、マスコミを利用した「医師
法に規定された応招義務」による勤務医への圧力、両者が合わさって勤務医への
過重労働の上乗せが進んでいく。まさにこれこそが医療崩壊の構図である
(http://www.ahiraoka.com/コラム欄の(1)および(3)を参照)。新型イン
フルエンザという救急医療において、厚労省が示した見事な(金のかからない、
あるいは金をかけない)対応策であるが、厚労省はこのようにして医療崩壊の元
凶となっているのである。
 5月6日に出された「事務連絡」と、時を同じくして「意図的にリリースされ
た報道内容」は、国内において新型インフルエンザが多発していない時点での厚
労省の対応策である。それでは国内で多発するようになった時点での対応策はど
の様になるのであろうか。
 現在の疲弊した病院の状況を考えると、新型インフルエンザの患者を診察する
ことも、入院させることもほとんど不可能であろう。多くの病院にそれだけの余
裕がない。先日のNHKテレビが放映したように、別途新設された新型インフルエ
ンザ診療場所で、各地域医師会が所属の開業医にお願いして外来診療を行うこと
になるのであろうか。その場合、「医師法」に定められたいわゆる「応招義務」
に基づいて、開業医に診療を強制することが出来るのであろうか。あるいは厚労
省は「医は仁術なり」を期待しているのであろうか。テレビ放送の中では、新型
インフルエンザ診療場所で診療した場合、もし自身が感染した場合の補償に対す
る質問をする開業医を映し出していた。「応招義務」にも、「医は仁術なり」に
も期待できるとは思えないのである。
 本来「応招義務」規定は、新型インフルエンザが国内に広がったような時にこ
そ必要な規定である。しかしながら、現在の「医師法」に定められている「応招
義務」規定には、開業医に対する実効性があるとは思えないのである。現実に必
要な場面で実効性を発揮しない「応召義務」規定ではあるが、存在するがために、
勤務医への圧力として利用され、勤務医への過重労働の上乗せへと機能している
のである。このような「医師法」の「応招義務」規定は一刻も早く廃止しなけれ
ばならない。「応招義務」規定を利用した勤務医への圧力、このような構造を無
くさなければ、勤務医「立ち去り型」の医療崩壊は進むばかりである。
(http://www.ahiraoka.com/コラム欄(4)に発表。)
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