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Vol.122 医療事故調査の改正法律案について

医療ガバナンス学会 (2013年5月24日 06:00)


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細木ユニティ病院精神科
吉岡 隆興
2013年5月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


厚労省が医療事故調査に関して「予期せぬ死亡事例の第三者機関への届け出」方式による改正法律案を上程する予定とのことである。
精神科勤務医(認知症の専門医。300例以上の経験がある)としての意見を述べる。
結論は「医療費の増大と介護家族の疲弊にて社会混乱が起きる」である

●この法律の施行により、精神科認知症病棟で起こることとその結果
1)認知症の患者は高齢であり、またほとんどの場合、入院前より多系統臓器の機能不全があり、予備力がないため、予期せぬ死亡がかなり多い。原因不明で老衰としか言いようがない場合もある。
2)慢性期であっても死亡前後は急性期症状を呈し内科医師が必要となるが普通は同じ病院に内科医はいない。
3)精神科医は受持ち患者が多く(30人から40人)、また内科的能力は低レベルである。しかも内科等のある他病院への転院はほとんど拒否される。
4)死亡原因は精神科医の力では家族全員が納得できる説明は不可能となることが多い。

結果としてこの法律が施行されれば以下のことが起こる。
一般の老人医療も含め、(三親等の範囲でも10人以上存在する)家族の中の一名でも第三者機関に調査を依頼すれば、一部の家族との了解ごととしての終末期医療、家族の考え、思考過程もすべて公になる。
「最後まで先生でお願いします」が不可能になり、「もうこの辺りで結構です」は(特に認知症患者は意思決定能力、意思表示能力がないため)、殺人教唆罪になる可能性もあり家族は一切言えなくなる。医師も常に説明可能な領域までしか診なくなる。
その結果
1)認知症患者を精神科で入院させることが不可能になる。
2)全国の救急病院、総合病院が高齢者特に、認知症患者で一年以内に満杯になる。
3)今まで可能であった「その人なりの最後」が全く出来なくなる。
4)家族は仕事量を半減させ自宅で重度認知症患者をみることになる。

●業務上過失致死罪について
この法律はある意味で日本人が受けいれ易い法律である。なぜなら、すべての行為の責任の所在を明らかにし、その行為の当事者個人を罰せられるからである。
法律家も全的、統一的あるいは平等的に律するために、なくてはならぬものと考えているようである。日本の法曹界が真摯であることの証ともいえる。また日本人の潔癖性から、次第に範囲を拡大させてきたものとも思われる。
しかし医療に関してこの法律が施行されれば次には、警察官、消防士、さらには自衛隊員の業務に関しても誰でも第三者機関に調査を依頼できることとなろう。 自衛隊員が、敵から日本人を守ろうと命を投げ出す覚悟で行動していても、守り方が不完全である、国民の期待通りでなかったといって、債務不履行として、そ の隊員の行動、思考を公にしあるいは、業務上過失罪を適応することになろう。

現在この法律策定に関わる、医師、法律家、政治家、官僚のそれぞれにとって、基準となる思考方法は整合性、統一性、全体性等の「量的拡大」であろう。しか しその行き着く先を考える時、「質的変化」も考慮に入れるべきである。それぞれの領域だけでなく、より広い領域への影響を考慮すべきである。別の言い方を すれば、部分最適でなく全体最適を考えるべきである。
いま日本は衰退するかどうかの最後の賭けに出ている。この法律がいかなる影響を与えるか、社会的視点あるいは、経済的視点等、より広い視野に立って考える べきである。また財務省、経産省がもっと意見を述べるべきであろう。現実的に経済が行き詰まるということが、理想も、良識もどれだけ減殺していくか。世界 を見れば一目瞭然である。
国民も、「先生に最後までお願いします」と言えなくなること。「その人なりの終末」が
不可能になることをどこまで理解しているのか?
多くのアンケートで「自分の時は延命はしてほしくない」と出ているが、それがまったく不可能になり胃瘻、人工呼吸器が必須となることを理解すべきである。

●経済的観点からいえば
終末期医療に当人とその家族の意に反しての莫大な医療費が必要となる。また若年層、壮年層を、生産場面から撤退させることになる。グローバルに人材を派遣していく必要がある現在、高齢者の介護のためそれが不可能になることは致命的である。
このままでは我々は後世、「平成25年度のこの法律により日本の衰退は決定的となった」と言われるかもしれない。このことをよく認識したうえで事に当たるべきである。

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