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Vol.125 プロフェッショナルを目指して

医療ガバナンス学会 (2013年5月27日 06:00)


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早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程
澤井 芳信
2013年5月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「あと1球!あと1球!」あの大歓声は今でも忘れられない。1998年夏の甲子園決勝。私はその舞台に立っていた。あの大歓声と大記録を前にしても表情一 つ変えることなく、キャッチャーへボールを淡々と投げ込む。マウンドに立っているのは、平成の怪物「松坂大輔」だ。私は当時、相手高である京都成章高校の 主将を務めていた。甲子園決勝でノーヒットノーラン達成という日本中が熱狂した1戦である。

今でも不思議に思う。なぜ私たち京都成章高校が決勝まで行けたのか。私たちは京都成章高校では11期生とまだまだ若い高校であった。実は進学校であり、1 年生の頃は、練習を途中で終わらせ、野球部とラグビー部は20~21時まで英語の補修があった。先生も夜遅くまで熱心に教えて下さり、校訓は「文武両 道」。授業中に寝ようものなら、練習に参加させてもらえない、そんな学校だったのである。しかも甲子園の決勝で戦ったレギュラーは、中学生時代硬式野球の 強豪チーム出身ではなく、全員軟式野球の出身だった。そんな私たちがあの舞台に立てたのはいろんな方々の支えがあったからだと思っている。グラウンドは両 横70m。その先には校舎があり、レフトは定位置で守れない。内野のグラウンドも球場のような黒土ではなく普通の校庭で、強豪校のような専用グラウンドで はないので、決して恵まれた環境ではなかった。しかもラグビー部と共用である。そんな中、当時の奥本監督は「強豪校に勝つには環境や伝統を補う取り組みが 必要だ」という発想から、日本のどのチームよりも早く、コンディショニングトレーニングとメンタルトレーニングを取り入れていた。

当時のコンディショニングのコーチをしてくださった中田佳和先生((株)ブライトボディ代表取締役)は今でも親交があり、何でも相談できる私の尊敬する方 である。中田先生から教わったことは、「体を整える」ことである。私たちは全国で戦えるような技術があったわけでない。しかし、自分の体の癖や歪みに気付 き修正することで、自分の体を整え100%使えるようにし、野球の能力を上げていく。このような取り組みであった。監督や部長は当時「姿勢」という言葉を よく使用していた。集合した時「姿勢が悪い。(立ち方が悪い)」とよく注意された。しっかり両足で立つことで「姿勢」がよくなる。そのしっかりと両足で立 つには股関節などのコンディショニングが大事なのである。しっかり立つことがきれば、身体の反応や、投げる・打つという動作も動きがよくなる。また「姿 勢」とは「姿」に「勢い」と書く。姿勢が良いと勢いが出てくるのだ。

「心技体」とはよく言われるが、「体技心」でもいいのではないかと思うこともあった。体が整えば、心も整うことがある。また「センス」がある・ない、とよ く言うけれども、体の感覚が良くなれば、「センス」も生まれてくる。そういったことも中田先生は気付かせてくれた。選手を支えてくれる人の力で、こんなに も変われるのかと選手時代に自ら体感したことだった。あの歴史的試合の裏側にはこのような取り組みがあったのだ。中田先生は現在もトップで活躍するアス リートをサポートし、そして後進の育成に力を入れているスポーツ界で働くプロフェッショナルである。

競技をして活躍した選手にスポットが当たる。それは当たり前のことだが、その選手だけの力ではなく、様々な人のサポートがあるはずである。監督やコーチは もちろんのこと、ルールを作る人、試合をする環境を作る人、集客や告知をする人、コンディショニングコーチやトレーナー、医者もそうである。スポーツとい うのは決して一人の力では成り立たない。スポーツの世界で良いものを作り出すには、最高の裏方が必要なのだ。

一つの目標に対し、それぞれが自分のカテゴリーでサポートする。私自身がそういった経験をしたことで、アスリートを支える仕事に興味を持った。現在私は トップアスリートをマネジメントする仕事をしている。現役選手の競技サポート、そして引退後のキャリアをサポートする仕事である。日本には世界で活躍する アスリートはたくさんいる。世界で活躍したい、またプロになりたいと日々練習に励んでいるアスリートは多い。私はアスリートを支える側の人間になって、 もっとスポーツを支える良い人材が増えてほしいと思うことがよくある。世界で活躍する選手とともに、世界で活躍できるスポーツを支える人間がもっと増えて ほしい。ただ単に「スポーツ好き」だけではなく、ビジネススキルも持ち、あらゆることを冷静に判断でき、しっかりスポーツに向き合い、アスリートに向き合 い、スポーツを支えるプロフェッショナルが増えてほしい。そうすれば今後の日本のスポーツ界はもっと活性化していくのではないかと考える。

私はまだまだプロフェッショナルには程遠いと思い、今年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の門を叩いた。入学して1ヶ月だが、学ぶことが非常に多い。 また同期生はそれぞれがスポーツに対する問題意識を持って来ているので、非常に刺激になる。近年、日本ではスポーツの学部を創設している大学が増えた。わ が母校である同志社大学にもスポーツ健康科学部が創設された。実は中田先生も同志社の卒業生であり、私と同窓である。母校からも多くのアスリートを支え る、またスポーツを支える人間が創出されることを期待している。私も後輩達に負けないよう、プロフェッショナルを目指したい。

<略歴>澤井芳信
京都成章高校では主将を務め、98年夏の甲子園準優勝。卒業後は同志社大学に入学し、硬式野球部に所属。3年時には関西学生リーグベストナインを取得。大 学卒業後は、社会人野球「かずさマジック」(元新日鉄君津硬式野球部)に入団。(株)新昭和に配属され、4年間の現役生活を経て引退。現在はアスリートの マネジメントを行ないながら、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程に通う。

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