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Vol.134 医師卒後臨床研修が始まる

医療ガバナンス学会 (2013年6月2日 06:00)


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南相馬市立総合病院
金澤 幸夫
2013年6月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2013年4月1日より当院で研修医2名の卒後臨床研修が開始された。ことの始まりは東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門 上昌広特任教授からの1本の電話から始まった。2012年3月下旬、当院、及び公立相馬総合病 院の施設人員等の基準(年間の入院患者数、診療科、剖検の有無など)を知りたい旨の電話があった。4月に東北厚生局にこれらの資料を提出、6月に研修プロ グラムを提出した。上先生の手配で6月26日、公立相馬総合病院 熊佳伸院長、両院事務部長とともに厚生労働省に陳情に赴いた。ここで、研修病院指定の要 件として研修医の指導実績が24ヶ月必要と告げられた。近くの公園で4人はコーヒーを飲みながら話した。だめだったら、研修医を地道にとり研修実績を積み 上げましょうと。

2012年8月12日、医道審議会が開催され当院、公立相馬総合病院はいずれも条件付きで研修病院の指定を受けた。その条件は協力型臨床研修病院(当院で は亀田総合病院)からの全面的な支援が得られることであった。特例的に指定を受けた理由は、災害医療研修が行えるからであった。そのため、災害時医療に関 する研修内容、及び亀田総合病院からの支援内容の確認書を提出した。9月7日付けで厚生労働省より文書による研修病院の指定の通知を受けた。

しかし、医師研修マッチングは終盤に差し掛かっていた。9月1日、東大理Ⅲ卒業の藤岡将君より私宛にメールがあった。内容は当院での研修希望であった。藤 岡君は2011年9月より相馬、南相馬市に入り、実際に震災、原発事故の状況をみており、検診事業にも参加していた。15の研修病院を見学していたが、当 院が研修病院の指定を受けたことを知り応募してくれた。10月5日、藤岡将君が来院、亀田総合病院卒後臨床研修センター長の片多史明先生も同席し面接を行 いマッチングが成立した。

その後、藤岡君一人での研修は大変だろうと思い、相棒を探していた。半分諦めかけていた11月29日、河野悠介君が当院に見えた。河野君は2011年3 月、千葉大学医学部を卒業するも論文に集中するため、この年の医師国家試験は受けず2012年2月、国家試験受験・合格の経歴を持つ。興味のある分野は精 神科、小児科とのことであった。河野君は「この病院の魅力はなんですか」と私に聞いた。震災後の経過、県内外からさまざまな考えを持つ個性的な医師が多数 当院に入り、医療、南相馬市の復興を目指していること、残念ながら今は地上に積もったセシウムが魅力だが、これを乗り越え真に魅力ある病院にしたいと答え た。12月21日、当院で面接を行い内定、このとき事務部長が「どうしてこの病院を選んだのですか」と尋ねると、河野君は私の情熱が感じられたと答えた。 2013年1月11日、亀田総合病院で片多先生の面接を受け当院での研修が決まった。

この間、東北厚生局、堀内三郎先生、黒沼和仁様には大変お世話になった。7月29日、東北厚生局で面談、研修病院指定を希望するに至った経過を説明、8月 22日、当院で面談し研修を行う病院としての体制ができているか問われた。また、研修は医局員全員で行うものであることを教わった。10月29日、当院で 面談、研修手帳や研修の評価法など研修を行う上での具体的な事項の説明を受けた。12月17日、臨床研修病院の指定に係る実地調査が行われた。医療安全室 が未設置であり指摘を受け、今年3月末にこれを設置した。堀内先生より聖マリアンナ医科大学総合教育センター長の伊藤美幸教授を紹介いただき、その後、地 域医療研修医の派遣が決まった。

4月1日、研修開始。当院の全体集会に参加後、研修医は亀田総合病院に向かった。4月2日よりオリエンテーション、4月6日BLS実習。4月16日、河野 君がこの報告を行った。臨床関連のオリエンテーションの他、社会人としてのマナー(自己紹介、名刺交換、食事や車内での適切な席)など多岐に及んだ。4月 8日より当院での各科のオリエンテーションが開始され、私も昔のスライドを少し修正し消化器科について話した。4月15日より各病棟、外来、検査科等の各 部署、及び消防署での研修を行った。4月30日、「病院オリエンテーションを終えて」という内容で藤岡君の報告会があった。スライドは全て簡単なイラス ト、漫画?により構成されており自分的にはおもしろかったが、今後修正が必要を思われた。
5月1日より、藤岡君が小鷹先生の下で神経内科、河野君が神戸先生の下で呼吸器科の研修が始まった。臨床医が何気なくこなしている診療を、研修医が実際体 験し実践するのはひどく緊張し疲れるもののようである。病棟、外来で患者さんに直接触れ合うようなって彼らはまた少し変わった。

震災後、当院では常勤医が14人より4人に減少し病院の存続が危ぶまれたが、現在研修医を除き21名である。震災後、当院の果たすべきこととして1)2次 救急までの救急医療、2)小児科、産婦人科医療の整備、3)仮設住民の健康管理、4)放射能汚染に伴う内部被曝検診を上げてきた。昨年初めから、被災地以 外では震災、原発事故の記憶が急速に薄れつつあると感じた。当院の課題の達成、および震災、原発事故を風化させないため、これからを担う若い医師に南相馬 市に来ていただき、実際にその眼でみた情報を発信してほしいと考えた。そのためには、基幹型臨床研修病院として研修医を雇用し、協力型研修病院として地域 医療(災害医療)の研修に全国から多くの医師にきていただくことが必要だった。亀田総合病院から、昨年は3名、木村和秀先生、藤澤、学先生、谷川朋幸先生 が地域医療研修のため当院を訪れた。今年3月には広島大学から豊田有可里先生、澤田桐子先生においでいただいた。今年4月、5月には亀田総合病院から山﨑 信太郎先生、山本紘輝先生においでいただいている。今後、亀田総合病院、聖マリアンナ医科大学、広島大学、JA広島総合病院、長崎大学から月に2名ほどの 研修が予定されている。彼らにはぜひ自分の目で見た南相馬市の状況を多くの人に伝えてほしい。

参考文献
1. 金澤幸夫:東日本大震災以降の当院. MRIC by 医療ガバナンス学会.メールマガジン;Vol.463, 2012年4月17日
2. 金澤幸夫: 初期研修1期生募集. MRIC by 医療ガバナンス学会. メールマガジン; Vol.608 , 2012年10月9日

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