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Vol.135 アラフィフ・クライシス-40にして惑い50にして危機を迎える-

医療ガバナンス学会 (2013年6月3日 06:00)


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つくば市坂根Mクリニック
坂根 みち子
2013年6月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


男女雇用期間均等法が施行されたのが1985年、今の50歳が第一期世代である。その50歳前後が苦しんでいる。四面楚歌なのである。
仕事面では言わずと知れた日本の男女間格差、男女雇用機会均等法が施行されても、結局今日に至るまで実行力のある政策は施行されてこなかった。その結果が 昨年発表された世界経済フォーラムの報告書で、日本の男女間格差は135カ国中101位という結果である。安部首相になって盛んに女性の活用が言われてい るが、現実はといえば、例えば東芝は女性管理職の目標を2015年には5%にする(!)と 発表した。つまりそれでも95%は男性で占められている、ということである。日産は多様性(ダイバーシティー)推進に熱心な会社である。社長のカルロス・ ゴーン氏は、「(日本の)会議で会うのは、40代以上の男性ばかりで、皆同じように発想し同じような意見だ。ダイバーシティーの推進は企業の社会的責任で はなく、経営戦力として推進するのだ」と述べたそうだ。ゴーン氏による日産の再生を考えるとき、今までこのように考えるリーダーは日本にはほとんどいな かったということがわかる。

男女雇用機会均等法という器は出来ても中身は変わらなかった。この世代の女性は、男性同様に働くことを求められたが、社会での役割は従前通り、管理職比率も先進国最低で意思決定機関に到達することはなく家庭内での役割も変わらなかった。
総務省が発表した2011年の社会生活基本調査によると、共働きの家庭における家事参加は、男性40分に対して女性は5時間にもなる。この統計によると45-54歳の女性は、仕事と家事に割く時間が長く男性より睡眠時間も少ないということが統計上も明らかにされた。
40代から50代は、仕事問題に加え、自分は更年期、子供は思春期、親は老年期に入り介護が必要ということも多い。
もともと更年期は個人差があるもののとにかく体調が崩れやすい。睡眠時間が短いのに加えて睡眠の質が落ちる。ホットフラッシュや動悸など更年期に典型的な症状以外にも頚椎症による肩こりや手のしびれ、50肩等にもなりやすい。
次に子供が思春期に入り、いきなり「素直ないい子」は消えてどこかへ。朝起こした時から不機嫌、口を開けば、「くそばああ」「うざい」。 思春期VS更年 期戦争勃発。他人から見ればどこの家庭でもあること、と軽く見られがちだが、最近は深刻な例も多い。携帯依存になっている子供の携帯を取り上げようものな ら、家庭内暴力まで行く場合もある。子供が人間になるために必要な原体験を十分にさせずに育ててきた弊害は思春期から出てくるが、カルチュラル・ラグがあ り新しく出てきた問題は、親もどう対応していいのかわからなくなっている。
助けを求めようにもそもそも子育てに協力してこなかった夫に思春期だけ協力を求めてもかえって逆効果なこともある。子供との信頼関係が構築されていない父親が思春期からいきなり介入しようとすると状況がさらに悪化しかねない。
また最近は晩婚化で、更年期VS思春期どころか、更年期に入ってまだ子供が小学生という家庭もたくさん見受けられるようになってきた。この場合は直接子供 とはぶつからないが、とにかく体力的に付いていけず心身の疲労が子供に対する小言となって出てくる。子供にはいい迷惑である。小言を言い続けて子育てする のはいびつな状態であると認識したほうがいいが、母親を助けてくれるはずの親たちはとうに高齢者となっている。
そして親の介護問題も加わってくる。親が元気で「いくじい(育爺)」をしてくれたころは良かったが、その先には必ず介護問題が待っている。高齢化社会となり夫婦2人の両親4人、皆存命中ということはざらであるが、一人、また一人と病を得て、介護が必要となってくる。
これら、すべてのことを一人で背負わざるを得ないアラフィフが苦しんでいる。精神状態は日々ジェットコースターに乗ったように変動する。今まで出来ていた ことが出来ない。夜中に息が吸えなくなる。めまい、動悸、不眠、恐怖感、自分の身に何が起きたのか把握できず、パニックになり外来で泣き出してしまう女性 がたくさんいる。

さてどうしたものか。これを通常の外来で対処するのはかなりの困難を伴う。今のアラフィフは伝統的な価値観を持っている人が多い。周囲にも家の中のことも 外のことも何とかこなしているスーパーウーマンが多いので、自分だけ声を上げるとこが出来ない。男性側もイクメンなんて意識のなかった世代である。
まずパートナーと話すように伝えるが、妻も長年家の中のことは一人でやってきて細かい日常生活を夫と共有していないとどこから話していいのか、まったく もってお手上げ状態なのだ。筑波大の精神科の教授であった小田晋先生はかつて、遅くに帰ってきても話を聞くとことは出来るはずだと言っていたが、男性側も どうも聞き下手のようである。会社での地位を家にも持ち込み、上から目線で言われると妻は2度と話さなくなると知って欲しい。

確かに日本の長時間労働は、男性の家事参加を妨げている。ただし、日本の労働生産性はOECD34カ国中20位(2010年)で、働いている割には効率が 悪い。アイルランドの知人が、電化製品保有率など生活レベルは同じでも向こうに行けば5時には仕事が終わり皆で集まって食事を楽しめるのに、日本に来ると なんだか忙しくていつも追われていると言っていた。筆者が2年間アメリカにいた時も同様に感じた。至れり尽くせりの日本型サービスは素晴らしいが、それが サービス残業と低い労働生産性の上に成り立っているものなら、夜間やお正月にお店が閉まっていても良しとした方が庶民の幸せ度はアップするだろう。最近都 営交通の24時間営業を検討しているという報道があったが、ばかも休み休み言って欲しい。便利な生活は結局自分たちの首を絞めているのだ。「足るを知る」 ことも必要であろう。
主婦の視点、マネージメント能力こそ今の日本社会で必要とされているものである。日本の女性の優秀さは、世界でトップクラスだと思う。仕事も家庭も両方こ なすには、際立ったマネージネント能力が必要なのである。言っては悪いが、仕事だけしていればいい諸氏とはマネージメント能力に大きな差がある。仕事が終 わった後もだらだらと残り、飲みニケーションに費やしている暇などない。終業と同時に、何処に寄ってなにを買いなにを作るのか、子供の習い事の送迎はどう するか、洗濯機を回しお風呂を入れて翌日の準備をし、出来るなら子供ともなるべく会話をして学校の様子を聞いてあげたい、親にも電話を入れて様子を聞い て、そして寝る前の一瞬くらい本も読みたい・・・これを一人でこなすには段取りがすべてなのである。
専門家(職人)としてやれる能力とマネージメント能力は全く別のものである。職人にはマネージャーが必要なのだが、何とか会議や審議会と名のつくものは大 抵男性の職人ばかり集めて単一化している。多様性を生かすためには、色取りに女性を一人入れても生きてこない。ゴーン氏の例を上げるまでもなく、日本の男 性社会は多様性を拒否してきたといってもいい過ぎではないだろう。女性の登用という視点だけでなく、男性社会の中でも出る杭は打ち、画一的なものを求めて きた。これに限界が来たことに気付いたのなら速やかに変えて頂きたい。労働生産性を高め、生活にゆとりを持つ時間を与えて欲しい。

次に出来ることはアラフィフももう少し権利を主張しようということである。
例えば医療は人のために働くのを基本としている。それは、労働基準法を無視した滅私奉公の労働体系と結びつきやすい。
今年の2月に出た、奈良県立奈良病院の産婦人科医が当直は時間外労働であると訴えて認められた判決は、医療界としてはエポックメイキング的な出来事であっ たが、「法の世界では、権利は主張して初めて問題になる」という当たり前のことが、医療界では当たり前ではなかった。これと同じことが、日本の女性に関し ても言える。周りに言わなければ伝わらないということである。私達は声高に権利を主張する教育を受けていないが「謙譲の美徳」は現代においては成り立たな い。

アラフィフ・クライシスでつぶれてしまうのはもったいない。
私はクライシスに陥ってしまった人には、「優先順位を決めてしばらく今までの8割方でやってください」と話している。その状態で無理しても潰れるだけであ る。大抵の人はよく話を聞いた後に現状を客観的に話して「苦しいのは当たり前だから無理しなくていいですよ」と伝えると、2回目に来るときは随分気持ちが 楽になったと言ってくれる。
最近になりようやく、メディアで「女性の活用」「ダイバーシティ」という単語を見ない日はなくなってきた。出来ることは少しずつでも進めていこう。会社だけでなく、家庭においても自分をプレゼンテーションをすることが必要な時代なのだ。

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