医療ガバナンス学会 (2013年9月5日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年9月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
除染作業に従事された方に対する内部被曝検査結果がHealth physics誌に公表( http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23982615 )されました。
2012年にひらた中央病院で行っていた検査の結果をレビューしたものです。南相馬市立病院で行った検査結果については、このブログでも紹介しています( http://apital.asahi.com/article/fukushima/2012111500038.html )。
定期的に除染作業されていた方(いわゆる除染作業員の方)で、2012年3月から8月にかけて、ひらた中央病院を受診された方、83人の検査結果をまとめ たものです。除染作業を行っていた地域は、浪江町(20人)、飯舘村(19人)、大熊町(11人)、南相馬市(7人)などです。細かくはTable1をご 覧ください。
除染作業による内部被曝がどの程度かを調べるために、上記83人の方は、震災直後のころには福島県内にお住まいでは無く、今回の除染のために県内で従事し ていた方のみを対象にしています。検査はいつもどおり、Fastscanを使って2分間の計測、検出限界はセシウム134,137ともに 300Bq/body程度です。
結果は、83人全員が検出限界以下、放射性のカリウム以外を検出しませんでした。
この結果に対して色々な説明の仕方があるとは思います。一つは、いわゆる除染作業(原発内での作業とかを除く)は爆発的な内部被曝をするわけでは無いとい うことは言えると思います。もちろん、今回の調べ方は検診として行っているものでもあり、除染による内部被曝がいくらか?という問いに完全にダイレクトに 答える形にはなっていません。
検出限界以下の内部被曝が完全にゼロなんてことは無いのでしょう。83人の働いている期間や、検査を受けに来た時期も様々です。除染作業期間は1日8時間 で31日間、検査は除染作業の1日後というのが中央値ですが、より短期間しか従事しなかった方や、より時間を空けてから検査に来られた方もいらっしゃいま す。
ただ、土壌の汚染がセシウムでxxx万ベクレル云々だから、内部被曝はセシウムで何千、何万Bq/bodyに全員がなっているとする考えは、まず否定できます。実測でどの程度の桁感なのかは明らかになったと認識しています。
現在の検査で、セシウムを検出する方と外来でお話ししていると、「(検出したのは)お父さんが、庭で草むしりをやったり、農作業したりしているからよ」
とおっしゃる方がいらっしゃいます。ですが、まあまず違うのだと思います。
内部被曝は空気から吸うのでは無くて、ほとんどが食べ物からおこる。このことは除染作業をされている方を見ても大きく変わらないのだと思いました。すでに、ダストサンプリングの結果その他からも指摘されているような話ではありますが、実際の結果でも同様でした。
外部被曝のデータはありませんが、恐らくこのような作業を行う場合は内部被曝より、外部被曝が比較としては重要なのだと思います。
Reviewerからも指摘がありましたが、この報告は検診結果のレビューであり、そもそも除染作業中の内部被曝を正確に記載できるものではありません (そもそも、そのようにデザインされていません)。上記の桁感は分かるとはいえ、より長期間除染作業に従事した場合については何も言えません。原発内の話 まで踏み込むことはできませんし、除染作業中のガンマ線を出す以外の核種については、専門家のシミュレーションなどに頼るしかありません。
別件になりますが、今回のまとめを作っていて気になったのが、マスクを常時つけている方が、90%程度だったことです。熱中症のリスクなど、重労働は内部 被曝以外の別のリスクも併存する中で成り立っています。除染作業中のリスクを最小化するにはどのような装備とやり方がよいのか、きっと効率などと相反する のかもしれませんが、議論が必要なのでしょう。加えて、除染作業に従事される方に対しても、それを行う場所によって差があること無く、しっかり健康診断が 受けられたりする体制があればよいのにと感じています。
写真:2011年8月、除染作業にいくところ。ご健在だった高橋亨平先生のもとにみんなが集まりました。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013090200002.html