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Vol.217 訴訟使用禁止を定める医療安全管理規則

医療ガバナンス学会 (2013年9月6日 06:00)


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この記事は月刊「集中」9月号より転載です。

井上法律事務所
弁護士 井上 清成
2013年9月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.WHO患者安全カリキュラムガイド
「ねころんで読める WHO患者安全カリキュラムガイドー医療安全学習にそのまま使える これだけは知っておきたい」(日本医療マネジメント学会監修、相 馬孝博著、メディカ出版)という書籍がこの7月に出版された。表題通り、寝転んで読める本である(特に各ページのイラストにいる寝転んだ猫が可愛い)。た だ、その原書である「WHO患者安全カリキュラムガイド:多職種版2011」(大滝純司・相馬孝博監訳、東京医科大学医学教育学・医療安全管理学)はそう 容易ではない。監訳者も示唆しているところだが、自律的かつ公正な検討を継続して実践し、それを現場の実情に応じ創意工夫の中で積み重ねていくことが必要 であろう。「有害事象の報告・学習システムのためのWHOドラフトガイドライン」と共に、今後の世界標準となるものと思われる。

2.医療安全活動の内部資料
「医療安全活動の内部資料が訴訟に使用されてはならない」という原則は、医療安全の活動に携わる方々にとって常識と言ってもよいであろう。しかし、振り 返ってみると、そこには必ずしも法的バックアップはない。「内部資料」だから普通は訴訟には使われないという程度のことは、別に医療に限らず、どの業種の どの業界にも普遍的に存在するレベルのものにとどまる。大した保障はないに等しい。つまり、医療だから、医療安全だから、その性質に即して特別に、という レベルの法的なものは何もないのである。
このようなことでは、医療者は医療安全を推進すればするほど、法的責任追及の側面では自らで自らの首を絞めるという矛盾が広がってしまう。そもそも「有害事象の報告・学習システムのためのWHOドラフトガイドライン」の精神にも反している。

3.医療安全活動の法的バックアップ
矛盾を解消し、WHOドラフトガイドラインに沿う法的な方策は、「証拠制限契約」の導入しかないであろう。「証拠制限契約」というと純粋な法律用語であるので、イメージが浮かびにくいかも知れない。わかりやすく言い換えると、「訴訟使用禁止条項」とも言えよう。
院内規則として制定し、外部に掲示しておけば足りる。通常ならば、医療安全管理規則などに定めることになろう。そうすれば、医療安全活動の法的バックアップとなる。
一例を挙げると、
「医療安全管理委員会の収集情報・調査・議論等の一切は、いずれも本院内部のためだけのものであり、患者とその家族を含め本院の外部に開示するものではない。本院の関係者個人に対して民事・刑事・懲戒いずれの外部的責任の追及のためにも使われてはならない。」
「医療安全管理委員会の目的・免責は、いずれも本院来院の患者及びその家族の承諾を得ているものであり、その一切は本院も患者とその家族も民事訴訟法第2編第4章に定める証拠とすることができない。」
というような条項モデルが考えられよう。

4. 第三者機関への訴訟使用禁止
ところで、最近は、透明性という一般原則の大義名分の下で、外部委員会・第三者機関などといったものがブームである。もしも、医療安全(再発防止)のため の院外調査委員会や第三者機関が、院内の医療安全管理委員会とリンクするものとして組織化されるとしたならば、どうなるであろうか。院外調査委員会や第三 者機関に訴訟使用禁止が及ばないとしたら、いわばザルになってしまう。やはり院内の医療安全管理委員会の定めが、院外調査委員会や第三者機関にも効力を及 ぼさなければならない。先ほどの条項モデルをアレンジする必要がある。一例を挙げると、
「医療安全管理委員会の収集情報・調査・議論等の一切は、いずれも本院内部のためだけのものであり、医療安全の目的で連携する院外調査委員会や第三者機関 の収集情報・調査・議論等の一切も同様に本院内部のためだけのものとなり、患者とその家族も含め本院の外部に開示するものではない。本院の関係者個人に対 して民事・刑事・懲戒いずれの外部的責任の追及のためにも使われてはならない。」
「医療安全管理委員会及び医療安全の目的で連携する院外調査委員会や第三者機関の目的・免責は、いずれも本院来院の患者及びその家族の承諾を得ているものであり、その一切は本院も患者とその家族も民事訴訟法第2編第4章に定める証拠とすることができない。」
というような修正条項モデルが考えられよう。

5.第三者機関での訴訟使用禁止
しかし、これは本院(当該病院診療所)が院外調査委員会や第三者機関を規制するという法的テクニックである。本来ならば、院外調査委員会や第三者機関が自ら訴訟使用禁止条項を定めるべきであろう。一例を挙げると、
「院外調査委員会(第三者機関)の収集情報・調査・議論等の一切はいずれも、医療安全の目的で連携した当該医療機関の医療安全管理委員会内部のためだけの ものであり、当該医療機関の患者とその家族も含め当該医療機関の外部に開示するものではない。当該医療機関の関係者個人に対して民事・刑事・懲戒いずれの 外部的責任の追及のためにも使われてはならない。」
「院外調査委員会(第三者機関)の目的・免責はいずれも、医療安全の目的で連携した当該医療機関への来院の患者及びその家族の承諾を得ているものであり、その一切は当該医療機関も患者とその家族も民事訴訟法第2編第4章に定める証拠とすることができない。」
というような院外調査委員会や第三者機関自らの定める条項モデルが考えられる。

6.医療安全推進の両輪
医療安全活動を推進するためには、自律的かつ公正な検討の継続と共に、訴訟使用禁止という法的バックアップが必要不可欠であろう。この2つを両輪とするべく、各医療機関や院外調査委員会・第三者機関が、訴訟使用禁止を明示した規則を自主的に制定していくことが望まれる。

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