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臨時 vol 144 「薬害を防ぐのは組織ではなく人」

医療ガバナンス学会 (2009年6月24日 10:38)


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        ~薬害再発防止検討委員インタビュー(1)~
             聴き手・ロハス・メディカル発行人 川口恭

 薬害肝炎原告団との和解を受けて厚生労働省の設置した『薬害肝炎事件の検証
及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会』が2年目に入った。医薬
品行政のあり方を検討すると称して組織論が始まったのだが、不思議なことに
「薬害を起こさないために何が必要か」ではなく、「薬害が起きた時に誰が責任
を取るのか」を主に議論している。なぜこんなことになっているのか、当の委員
たちに聴いてみた。インタビューしたのは、ちょうどロハス・メディカル6月号
にご登場いただいたばかりで、しかも正反対の立場にいそうな2人。医薬品医療
機器総合機構(PMDA)審査官経験のある堀明子・帝京大学講師と薬害サリド
マイド被害者である間宮清氏の2人だ。まずは堀講師から。間宮氏の分は明日お
届けする。
――検討会は、医薬品行政の組織のあり方に検討課題が移りました。傍聴してい
て違和感を覚えたのですが、薬害を防ぐには何が必要だという合意はできたので
しょうか。
 それ以前の問題として、薬害とは何かの定義も不明確なまま、肝炎に特化して
議論が進んでいます。薬には副作用が必ずあるので、どこまでが副作用でどこか
らが薬害なのかを整理しないと、意味のある議論はできないと思います。
 薬害肝炎の場合、薬の品質そのものに問題がありましたが、現在の大多数の患
者さんが受けている医療では、少なくとも現時点の科学水準において品質は担保
されています。当時と時代も変わってますし、肝炎の事例で当時起きたことだけ
から導きだした教訓を、現在のあらゆる薬、あらゆる治療に一般化しようとする
のは危険だと思います。
 今後、本気で薬害を防ぎたいと思うのなら、当時の状況の中でこれとこれは既
に解決された、これはまだ解決されていないという切り分けや、逆にあの時代に
はなかったけど今はこういう問題があるとか、薬害肝炎ではなかったけど、他の
薬では、こういう問題が起こりそうだといった洗い出し、そういうことをする必
要があります。やってもやっても尽きないはずです。それなのに、そういう議論
が抜け落ちています。
 委員構成が、薬害の被害者と昔の審査官、被害者と医療者というように対立構
造にある人を集めた影響もあると思うのですが、冷静で具体的、建設的な議論で
はなく、ともすれば情緒に流れてしまっていると思います。事務局も優秀な人た
ちが入っているのに、今回は自分たちが俎上に上がっていることもあってか、まっ
たく交通整理できていません。
 結果として、薬害が起きたらその責任を誰が負うんだとか、誰が賠償するんだ
という話ばかり。どうやったら副作用を薬害にしないかという議論がスポっと抜
けたまま来てしまいました。
――やっぱりそうですよね。
 患者さんも含めて医療現場の方々が内容を知ったらビックリするような、日常
の医療行為を厳しく制限する話をしています。あれだけの影響のある話を、あの
会議で決めるのは越権行為と思いますし、決めても実効性はないと思います。も
し、どうせ実現しないんだから好き勝手なことを提言させようというつもりなら、
そもそも議論するだけ時間の無駄とも思います。
 現実問題として、この先に起こりそうなことは、誰のため何のためか分からな
いような組織やルールだけができることです。そして、大多数の普通の患者さん
が迷惑することになるんでないかと心配しています。
 もっと多くの医療者や患者さんに、この検討会に注目し、注文をつけてほしい
と願っています。
――では改めて、薬害を防ぐために何が必要と考えますか。
 副作用を薬害にしないためには、事前に分かっているリスクについてしつこい
位に、患者や医療現場へ情報提供することに加えて、以下3つの仕組みが必要だ
と考えています。(1) 現状把握 (2) 情報の収集・解析 (3) 公表、の3つです。
前提として、薬は、効果と引き換えに副作用が必ずあるという文化形成も必要で
すが、これは国が何か言ったぐらいで変わるものではないので、置いておきます。
――その仕組みをどう構築するのがよいと思いますか。
 やるのは人であって、組織ではありません。現状ではPMDAが担っていて、
そこに専門家も集まっているので、まずはPMDAに任せるのが妥当ではないで
しょうか。他に組織をつくって、一から人を育てるというのはあまり現実的では
ないと思います。
 国でやれと主張する委員も多いのですが、薬害が繰り返された時に医薬品行政
を担当していたのは国です。独立行政法人になったせいで薬害が起きたというよ
うな事実でもない限り、元に戻せという議論はあり得ないのではないでしょうか。
国にと主張する方々にその理由を尋ねると、責任の所在と財源を挙げた方ばかり
でした。それだけのために、薬害を起こさないような仕組みを捨てるのは釣り合
わないと思います。
 検討会の事務局に優秀な官僚も入っているのに、彼らは何も言いません。とい
うより言えない。国に置いたら専門家の良心が機能しない何よりの証拠だと思い
ます。
――舛添厚生労働大臣が、4月にPMDAの新人研修の席で「ドラッグラグをな
くせ、薬害も出すな」と訓示しました。
 メディアとか世論は今まで、抗がん剤の未承認薬問題のように、ドラッグラグ
があるなんてけしからん、早く承認しろだったと思います。それと薬害の問題と
は、シーソーのようなもので両者のバランスを取っていくしかありません。薬害
を出さない方にだけ注力すれば、どうしてもドラッグラグはできます。一方でド
ラッグラグを完全になくそうと思ったら、極端には、米国が承認した時に一緒に
承認してしまえばラグはほぼなくなります。その場合、薬害を出すなと言われて
も困ります。
 先ほども言ったように、患者保護のために、事前に可能な限り情報を集めて、
現場に知らせておくことが欠かせません。事前情報として、たとえラグができる
にしても、きちんと治験もやっていくべきだと思います。企業が日本で治験をし
ない、できないのはビジネス上の問題であって、欧米と同時に治験を始めればラ
グができることすらありません。これをどうやって実現するかが現在の課題のひ
とつだと思います。
 治験でリスクは全部分からないんだから、市販後調査だけでいいじゃないかと
いう意見もあります。たしかに治験だけで全ては分からない。だからといって、
やめてしまえというのは極論です。現実に、やってみたら、どうも海外と違いそ
うだということがあります。こういうことが起きるかもしれないという事前の注
意喚起があるのとないのとでは、実際の診療で患者さんを守ることや、市販後調
査の精度に大きな違いが出ます。
 この検討会で、本当は薬害防止のため、治験がどうあるべきかの議論があって
もよいと思うのですが、被験者の権利保護というような観点に終始してしまって
います。治験をやらないでいると、薬を開発するノウハウが失われます。自国で
は薬が作れないということです。他の国からニセ薬を売られた時の安全保障とい
うか、薬害防止にも密接に絡む話なんですけどね。
(この記事は、ロハス・メディカルweb http://lohasmedical.jp に6月16日付
で掲載されたものを一部改編したものです。)

 

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