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臨時 vol 145 「医師の計画配置論は荒唐無稽だ」

医療ガバナンス学会 (2009年6月25日 10:32)


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         2009年6月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
                 http://medg.jp
           武蔵浦和メディカルセンター
               ただともひろ胃腸科肛門科
               多田 智裕
  このコラムは世界を知り、日本を知るグローバルメディア日本ビジネスプレス
(JBpress)に掲載されたものを転載したものです他の多くの記事が詰まったサ
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 6月3日、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は、平成22年度予算編成
の基本的な考え方を発表しました。
 医療については、「地域間、診療科間、病院・診療所間における医師の偏在を
是正する必要がある」とされ、その解決策として「『経済的手法』と『規制的手
法』の両方を行なうべきだ」と提言されました。
 経済的手法とは、医療費の配分調整を行なうということです(前回のコラムを
参照)。
 私は、これについては本質的には配分調整だけでは不十分で、高齢化が進む以
上は医療費が増えるという当たり前のことを前提に議論すべきだと思っています。
 最終報告では経済的手法に加えて、「規制的手法を取り入れるべき」との文言
が入れられました。意味合いを考えると、これはとても見過ごしてよいものでは
ありません。
 規制的手法とは、具体的には「医師の適正配置」ということです。
 今回の提言では、こう解説されています
 「偏在是正の手法としては、規制的手法を活用することも必要である。規制的
手法の導入については、医師の職業選択の自由を制約するといった議論もある。
 しかし、国民医療費のほとんどが公費負担(保険料又は税金)であり、税金の
投入されている比重も主要諸外国と比較しても大きいことや、医師の養成 には
多額の税金が投入されていること等にかんがみれば、医師が地域や診療科を選ぶ
こと等について、完全に自由であることは必然ではない」(原文ママ)
 分かりやすく言うと、「医師は税金の恩恵を受けているのだから、働く診療科
や地域を自由に選択させる必要はない」ということです。
医師の適正配置が必要だという強引な根拠
 医師の適正配置が必要だというこの根拠は、かなり強引だと言わざるを得ませ
ん。
 6年間で5000万円以上の学費が必要となる医学部も確かに存在します。でも、
それは一部の私立大学の話です。国公立大学に通う学生が税金から5000万円の養
成費をもらっているわけではありません。
 医学部の専門課程は、6人程度の少人数グループによる授業がぎっしりと行わ
れます。そのため、他学部よりも教育費がかさむのは事実です。しかし、実費で
見るならば、医学部の学生1人当たりの教育費は、他学部の学生3名分程度ではな
いでしょうか。
 ちなみに、今回発表された膨大な参考資料の中に、1人当たりの医師養成金額
のデータはありませんでした。
 それと、もう1点。国民医療費に占める税金の割合が大きいとされていますが、
実際は約30%です。大半はみんなが支払っている健康保険料と窓口負担でまかな
われているのです。
 日本に住む以上は誰だって税金の恩恵を受けています。それなのに医師だけが
職業選択の自由を奪われるのは、やはり強引ではないかと思うのは私だけでしょ
うか?
 自由を奪う規制的手法で問題は解決するのか?
 昨今の医療崩壊には、医師の絶対数が足りないことよりも、きつい科目や僻地
勤務の医師のなり手がいないという医師の偏在が原因になっている側面がありま
す。
 しかし、「これでいいのか、研修医制度の改革」でも書きましたが、医師が偏
在する本質的な原因は、宿直問題やボランティアオンコールなどの厳しい労働環
境や訴訟リスクなどです。自由に診療科が選べるから偏在したわけではありませ
ん。
 そもそも、医師免許制度ができた50年以上前から、つまり、医療崩壊が始まる
よりもずっと前から、医師は診療科や働く地域を自由に選んでいたのです。
 百歩譲って、規制的手法で問題が解決するのであれば話は別ですが、自由な競
争を否定し、規制をかけてよい方向に進むとはとても思えません。
 何度も同じことばかりを言うようで申し訳ないのですが、本質的な問題である
厳しい労働環境の改善こそが、規制云々よりもまずやるべきことではないでしょ
うか。
 病院の勤務医たちが一斉に退職して、一部の科目が閉鎖されてしまうというニュー
スをよく耳にします。開業医にしても、廃業数が開業数を上回っているという現
実があります。
 現場を締めつけると、現場に立つ医師を減らしてしまうだけなのです。
■医師の計画配置は医療の質を高める改革ではない
 仮に診療科の選択を許認可制にして、どこも定員割れしないようにうまく配置
できたとしても、大きな問題が残ります。
 許認可制にすると、医療の質を高める競争を阻害することになるのです。規制
によって新規参入が制限されます。すると、基準以下の医療機関の統廃合が行わ
れなくなります。つまり、医療レベルの向上に寄与する改革にはならないのです。
 間違いないのは、許認可を握る新たな権力が発生し、それに伴う天下り先が増
えることだけでしょう。
 さらに問題なのは、医師の診療科選択と開業場所を規制するということは、医
療を利用する側にとっても、国が制限した範囲内でしか医療を受けられなくなる
ということです。
 実際に、審議会で適正配置の手本とされたドイツでは、病院や専門医への受診
に規制をかけざるを得なくなっています。医療提供サイドに規制をかける以上、
患者が医療機関を自由に選べなくなる(フリーアクセスに制限がかかる)のも必
然でしょう。
 適正配置を論じるならば、こういう予測されるデメリット部分もしっかり説明
しないとアンフェアというものです。
 現場の医師にとっても 許認可の維持のために書類の不備をチェックしたり、
許認可を巡る政治的な駆け引きなどに多大な労力を取られたりするようになりま
す。それよりも、受診に来る患者のために診療レベルを上げる努力をする方が、
よほど有益な時間の使い方なのではないでしょうか。

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