最新記事一覧

臨時 vol 146 「企業との癒着断つのが大前提」

医療ガバナンス学会 (2009年6月25日 13:33)


■ 関連タグ

        ~薬害再発防止検討委員インタビュー(2)~
               聴き手・ロハス・メディカル発行人 川口恭

 『薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会』
の委員に聴く2回目。薬害サリドマイド被害者の間宮清氏は、PMDA(医薬品
医療機器総合機構)の外部運営評議会委員も務めている。
――組織の話が始まりましたよね。
 組織の話には皆興味があって、ついついそっちに話が行っちゃうんですけれど、
その組織で何をするのかということは私たちも疑問に思っています。昨年夏の中
間とりまとめの時にも、PMDAを300人増員するんだ認めてくれと言われて、
増やして安全対策に何をするのかと質問したら、具体的な新しい取り組みはとく
になく、中間とりまとめの時に突然出てきたのがファーマコゲノミクスです。あ
れは将来活用できるかもしれないものの準備ということであって、安全対策に直
結する話ではない。そこを指摘しても、納得のいく回答はありませんでした。
 そもそも我々は、PMDAのように医薬品行政部門を独立行政法人化して非公
務員型にすること自体に反対してきました。なぜならば、国民の生命や健康を守
る仕事は、当然に国が責任を負うべきことであり、非公務員型では何かあった時
に責任取れるのか心配だからです。それが、何をするのかも不明確なままPMD
Aの人数だけ増えていく。問題だと思います。
 前回検討会で出されたペーパーも乱暴だと思いました。組織の形によって、国
の賠償責任が変わるなんて議論は全くありませんでした。大臣が責任を負うと言っ
ている以上、国家賠償の対象になるに決まっている。考える余地すらなかったの
に、○△で出されて何だこりゃという感じです。そんな議論になるんであれば、
いったん白紙に戻せと言いたいです。
――公務員型にこだわる理由が、今ひとつ分からないのですか。
 過去の薬害は、問題が指摘された時に、まず企業が否定して売り続けて被害が
拡大する。国も企業を守るようなことを言って販売中止や回収などの対処が遅れ
る、そういうものばかりでした。国と企業が癒着すると、薬害の起きる可能性が
高まると思っています。だから、まず医薬品行政に企業の意思が入りこまないよ
うにすること、これが大切です。
――非公務員型より公務員型の方が、企業と切り離されているということですか。
 PMDAは、製薬業界と連携してゆきたいというようなことを言います。一部
の専門業務について、大学にゼミもなくて人材確保が大変だ、優秀な人材は企業
にいるから彼らの能力を生かしたいと言うのです。だけれど、そんなことは発足
した5年も前から分かっていたのに、人材育成に最大限の努力をしてこなかった
し結果を出せなかっただけのことじゃないですか。
 もし、そんなに民間と人事交流したいなら、どの薬に誰がどうやって関わった
かオープンにすべきだと思います。でもそういう提案をすると、オープンにした
ら個人へのアプローチが行われるからダメだと言う。やっぱり働きかけがあるん
だって語るに落ちている。怪しい、危うい感じがします。
 そもそも企業と患者とでは、根本的に薬に関わる目的が違います。企業は究極
は金儲けのためですから、皆が同じ方向・同じ目的でできるかといったらできな
い。企業の利益や発展がイコール国益であるというような考え方になると問題が
起きる可能性は高くなります。
 既に癒着の起こりそうな前兆として、審査料によってPMDAの審査システム
が左右されるという問題も出てきています。審査料というのは大学の受験料のよ
うなもので、払うのは当然であって、お金を出してるからといって、受験生の方
が大学に対して早くしろとか問題を事前に教えろとか言いませんよね。でも、薬
の審査ではそういう類のことを企業側が要望しているのです。このまま流れが進
むと、PMDAがお金を出す側を向いて仕事をするようなことが起きるのではな
いかと心配です。
 審査官経験のある方たちは、専門家は余計なことを考えず誠実にやっていると
言いますけれど、何か問題が起こった時にPMDAが独自に見解を出すようなこ
とはなくて、必ず行政と相談して、口を開くのは厚労省です。行政と相談してか
らしか見解を出せないなら、余計なことを考えているのと同じです。タミフルの
大部分が日本で消費されていた問題とか、薬に関してあれ? と思うようなこと
を、今までPMDAは国民に対して積極的に教えてくれてないですよ。
 現状しょせん国の一部に過ぎないわけです。じゃあ、なぜ公務員じゃないかと
言えば単純に公務員定数の問題でしょう。薬害を反省して切り離したわけではな
い。そのまま国に戻して、企業との結び付きを切った方がまだよいと思います。
――癒着を問題視するのは分かったのですが、薬害を防ぐにはどういう仕組みが
必要と思われますか。
 担当者が、もっと現場へ出て行って、情報収集して安全対策につなげるような
ことをすべきと思います。承認されてしまえば、医師なら誰でも必要のない時に
すら使えるというのが大問題だと思います。医療機関に対して使用実態をきちん
と書面で保管させると同時に、現場まで出て行って監視指導すべきです。税務署
が帳簿を調べに来るようなもので、完全に監視することはできなくても、現場に
出てくる可能性があるというだけで医療機関もいいかげんなことはできなくなり
ます。不適切な使い方、適性のない使用者に対する抑止力になります。それと書
面保管を義務付ければ、今も記録がなくて救済されずに苦しんでいる被害者は多
いので、そういう人が速やかに救済されることにつながります。
 そのうえで、そういった医薬品行政を外部から監視する。企業からも国からも
影響を受けないような第三者的な組織を設けて、ちゃんと仕事をやっているか見
るわけです。そういう組織をつくることは決まりましたよね。具体的に誰が何を
するかは、これも今後きちんと詰めないといけません。
――専門家のやることを監視するとなると、やはり専門家が必要ですよね。
 そうですね。専門家でないと見られないから、サイズは小さくとも、PMDA
と同等の職種を揃える必要はありますね。専門的な知識を持った人が外部から、
開発、承認、安全対策の全てを監視する。組織の置き場所は、また議論が分かれ
るところなんでしょう。
――ところで医薬品行政の課題は、薬害とドラッグラグと2つあって、あちら立
てればこちら立たずだという意見もあります。
 その説には、ウソが隠れていると思います。国民も言葉に惑わされて本質を分
かってないのでないでしょうか。
 他に薬がなくて患者さんは待っている、そんな事例なら早く承認するための努
力を惜しんではならないと私も思います。でもPMDAの運営評議会で、そうい
うもので承認待ちになっているような薬、それこそドラッグラグだと思いますが、
そういうものの事例を示してくれと言っているんだけど出してきません。
 彼らが出してくる資料は、世界の売り上げ100とかです。全体を早くすれば、
本当に困っている分野も底上げされるとかいう理屈ですけど、よく売れる薬が日
本でまだ承認されてないということは、単純にビジネスの問題じゃないですか。
視点が、いつの間にかすりかわっているんですよ。日本が最初に治験をしないで、
欧米の患者さんのデータに乗っかって後出しジャンケンしていてケシカランとい
う声もあるらしいです。でも、国民の命に関することなんだから、それで構わな
いじゃないかと私は思います。審査を早くするかどうかより、未承認薬を使って
いる人の副作用情報を取ってないことの方が問題と思います。治験と違って統計
処理できないかもしれませんが、貴重な生データじゃないですか。それを安全対
策に生かすべきです。
 医薬品産業を振興しようというのは国益としては大きいのかもしれません。し
かし薬害の防止に関して議論している以上、それとこれとは別問題です。その意
味で、臨床試験や治験に関しても、現状は被験者の人権面で問題があると考えて
います。本当にちゃんとした手法で説明を受けているんでしょうか。知らずに命
を預けちゃっている人も多いのでないかと思います。これに関しては、医師、企
業側の考え方とだいぶ開きがあります。
――インフォームドコンセントでも何でも、医療者は説明したつもり、患者は聞
いた覚えがないというのは問題になりますね。
 理解度の差と言われてしまえば、それまでのことですけれども、治験には企業
が関わってくるわけです。一方で、患者会と企業とが密接になりつつある。お世
話になっている企業の治験に協力するのが当たり前という風潮になりはしないか
というのを心配しています。がんの患者会なんかだと、患者さんたちはどんどん
入れ替わる。でも患者会は存続し続けていて、その事務局は一体誰がやっている
んだということを考えてしまいますよ。企業がどれだけ誠実に安全性や患者さん
のためと思って仕事をしているか。全面的には信頼できません。
 開発段階で既に企業の影が色濃く出ている。承認後も、医師に対してMRが説
明をしています。たしかに企業の製品について国が税金を使って説明するわけに
はいきませんけど、今のような専門をかじった営業職というあり方では、患者第
一になるか心配です。野放図に薬が使われないようにルールをきちんと定めて安
全監視することが大切です。
 それによって少しでも被害を食い止められればと思います。大きな薬害は今後
ないかもしれませんが、個々に被害を受ける人は必ずいます。被害を受けた時に
は、元の体に近づけるようにというのが第一で、もし戻れなくても確実に救済さ
れる。長い時間戦わないと救済されないというのではなくて、すぐに対策をやっ
てくれること、それが大事です。
――質問の仕方がマズくて散漫になってしまい申し訳ありませんでした。最後に、
検討会の今後の進め方に関してご意見をお聞かせください。
 一つひとつの問題が深く議論されないまま、なぜか組織論になってしまう傾向
にあります。でも既に第一次提言は出されていて、「個人輸入」とか「宣伝」と
か「薬害教育」とか、今すぐ動けることがあるのですから、厚生労働省はまずそ
こをどう実現するのかに集中してほしいと思います。提言を出すところまでしか
求められてないのかもしれませんが、しかし提言が実行されないのなら、我々は
何のためにこれだけの時間かけて議論しているのかと思います。
(この記事は、ロハス・メディカルweb http://lohasmedical.jp に6月17日付
で掲載されたものを一部改編したものです。)
MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ