最新記事一覧

Vol.236 「急性心筋梗塞の新しい地域連携クリティカルパス、ハート手帳。」

医療ガバナンス学会 (2013年10月4日 14:00)


■ 関連タグ

〜 安心する連携パス 〜

仙台厚生病院 心臓血管センター
宮坂 政紀
2013年10月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は2013年の4月から宮城県仙台市にある仙台厚生病院の心臓血管センターで循環器内科医として勤めている。仙台厚生病院は地域の循環器、消化器、呼吸 器分野の専門中核病院としての役割を担う病院であるが、働き初めて驚いたのが仙台厚生病院と開業医との連携が非常に円滑なことであった。医療連携を円滑に 進めるための工夫や仕組みは多岐にわたるが、ここではユニークな地域連携クリティカルパスであるハート手帳を紹介したい。

一般的に急性期病院を退院した患者さんは地域の開業医で継続して治療されるが、かかりつけ医ごとに治療方針が異なることがある。異なった治療方針で良い場 合もあれば、統一された治療方針が望ましい場合もある。後者の例としては心筋梗塞に対する冠動脈ステント留置後の抗血小板剤の服薬期間がある。

冠動脈ステント留置後の早期に抗血小板剤を中止することは心筋梗塞の再発(ステント血栓症)のリスクを増大させるため慎重な対応が必要である。抗血小板剤 の服薬期間のようなケースでは急性期病院とかかりつけ医の間で治療方針の共有が重要であり、治療方針の統一と共有を目的として地域連携クリティカルパスが 存在する。

地域連携クリティカルパス(以下、連携パス)とはカテーテル治療などの急性期治療を行った専門病院と地域の開業医の間の「共同診療計画書」のことであり、都道府県や拠点病院が中心となり、地域ごとで作成される。

地域ごとに連携パスの内容にはばらつきがあるものの、従来の連携パスには欠点があった。従来型の連携パスの多くはA3版程度の大きさの表形式の書類であ り、表計算ソフトで作成した名簿や保険の契約書を連想させるような文字が細かくて視覚的に把握困難な代物であった。加えて「検査結果などの書き込み項目が 多く手間がかかる」という欠点もあった。時間の限られた外来診療中に連携パスに記入することは困難であり、連携パスは書類として存在するだけで記載されな いことも実際には多くあったとのことだ。記載されず利用されない連携パスはさらに利用されなくなるという悪循環に陥る。

それらの欠点を解消するべく仙台厚生病院は「ハート手帳」という連携パスを作成した。手帳タイプで「患者が携帯する」という点が従来の連携パスとはまず大 きく異なっている。ハート手帳は40ページ程度のA5版のカラー冊子であり、手帳本体はビニールのホルダーに包まれ、ホルダーには診察券や保険証を入れる ことができる。

従来型の連携パスにありがちであった開業医に書き込みを強いる項目は除外された。書き込み項目の除外による不都合は生じておらず、開業医の負担は軽減して いる。さらに「大きい文字」、「イラスト」、「明確な治療方針」「仙台厚生病院への連絡のタイミングと連絡先」「複数回のカテーテル治療の記入欄」「冠動 脈ステント名、サイズの記入欄」「食事、運動、嗜好品など生活習慣に関する注意点」などが40ページ程度の冊子に盛り込まれている。書き込む項目は必要最 低限としつつ、内服中の抗血小板剤などの重要な情報は大きな文字やイラストを用いて強調する構成となっている。

ハート手帳を携帯するのは患者さん自身であるため、旅行先や出張先で緊急で病院を受診する必要が生じた際にはそのまま診療情報として利用できる。いつでも 自分の治療経過を知ることができ、自身の病気への理解や治療意欲の向上にもつながる。私は数ヶ月ぶりに仙台厚生病院に受診したにもかかわらず、カテーテル 治療を行った日付やステントの種類を覚えている患者さんが多いことに驚いた。

また利用されない連携パスはさらに利用されなくなると先に述べたが、予想以上に患者さんはハート手帳を携帯している。アンケート調査ではハート手帳携帯率 は7〜8割にも登った。手帳を携帯する理由は「いつでも仙台厚生病院に紹介してもらえるから」「病院とつながっている感じがして安心だから」ということら しい。利用されることで価値が高まり、さらにハート手帳の携帯率が向上するという好循環が生まれている。

ハート手帳は2012年に導入以来、現在7版となり改訂を重ねている。仙台厚生病院と地域開業医の地域連携のネットワークの中で生まれたハート手帳は両者 の対話通じて最適化され、今後も改訂される予定だ。診療情報だけで無く、つながっている感じを与えるハート手帳。私はハート手帳が地域の心疾患死亡率を下 げるツールとして活躍することを期待している。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ