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Vol.259 震災と共に歩んだ私の日本での2年間

医療ガバナンス学会 (2013年10月22日 06:00)


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ロンドン公衆衛生大学DrPH(公衆衛生博士)の候補生
杉本 亜美奈(MSH)
2013年10月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2013年10月4日、Virgin Atlantic航空 VS901便 成田発 ロンドン行き。

ドイツの大学卒業後、修士課程へ進学の為日本に帰国してから早もう2年半が発ち、私はまたやっと住み慣れ始めた東京を離れ、ロンドンに戻ろうとしていま す。London School of Hygiene & Tropical Medicine(通称:LSHTM)で、DrPH(公衆衛生博士)の資格を取るためです。私は物心ついたころから、父の仕事で世界各国を移り住む日々を 送ってきました。2年前の私だったら、少しでも暮らした国を離れる時のあの根拠のない虚しさと寂しさを感じ、目を真っ赤に腫らし、いつまた見られるかわら ない飛行機の窓の外を眺めていたと思います。でも不思議な事に、今回は自分でも呆れるほど、寂しくも悲しくもありません。逆に落ち着きすぎて、「今日のラ ンチはなんだろな?」とか考えています。この心境の変化はなんなのだろう?と一人考えに耽ってみるも、答えは見つかりません。ただ、私は無意識のうちにこ の日本が自分の帰るべき国だと認識してしまったのではないか?とは思います。たぶん、私は、日本で過ごした日々の中で、出会った人々の中に、自分の居場所 を見つけることができたのだと思います。

2011年3月。震災が起きた時、私はまだヨーロッパにいました。4月からの日本の大学院への進学が決まり、帰国への準備の真最中でした。当時のヨーロッ パでは困惑した情報が錯乱していて、反対する家族や友人を押し切り帰国を決めたことを覚えています。成田空港が原発事故の影響で封鎖されていた為、名古屋 空港から新幹線で東京に向かいました。そうして、私の初めての日本での生活は、嵐のように始まったのです。

東京大学国際保健政策学教室に進学した私は、渋谷健司教授のもと、国際保健の勉強に励む予定でした。しかし、4月には健康調査隊に加わり宮城へ、その後5 月には強制避難前の飯舘村へと、震災支援活動の一環で現場を走り回る日々が始まりました。そこで初めて、上昌広教授、坪倉正治医師、松村有子医師をはじめ とする東京大学上研究室の皆さん、宮澤保夫会長をはじめとする星槎の皆さん、南相馬市立総合病院の及川友好医師に出会ったのです。あれからあっという間に 過ぎたこの2年間は、私の手の届かないところで、目まぐるしくプロジェクトが進んでいく日々でした。

毎週末のように、東京からレンタカーで福島を訪れ、上研究室や星槎の皆さんと健康診断をして回った日々。当時まだ日本語が弱かった私は、福島弁は50%、 先生方の話は70%ぐらいしか理解しておらず、よく問診などしていたなと今更だですが不思議に思います。9月から南相馬に足を運ぶようになり、坪倉医師の 後をちょこまかついて回りながら、WBC導入・データ解析などに飛び回った日々。病院の会議室を乗っ取って、一晩中WBCデータの打ち込みを行ったことも ありました。地域医療を目指す原澤慶太郎医師や作業療法士の方達と一緒に雨の中仮設住宅を回ったり、公民館で運動指導もしました。番場塾の番場さち子先生 や新地高校の高村泰広先生と一緒にイギリスからプロのピアニストを相馬・南相馬市に招待したり、番場洋平君の紹介で、ゴールデンウィークには「みんな共和 国」で子供達と思いっきり遊んだりもしました。南相馬に訪れる度、いつも暖かく迎えてくれる現場の皆さん。お食事をご一緒して、現場の話を聞けるのが何よ りも楽しみでした。東京では、星槎の皆さんや上研究室の皆さんがいつも気にかけてくれて、多様な方々を紹介して下さったり、様々な会にも招待して下さいま した。

私がロンドンに留学する事を決めてからは、いつも気にかけ、協力をして下さった上研究室の皆様や宮澤さん、南相馬の皆様には本当に心から感謝をしていま す。「同士」「仲間」「また世界のどこかで仕事をしよう!」と言ってくださった事、本当に嬉しく思います。日本に帰国した際に会いに行ける人、待っていて くれる人がいる、帰りたい場所がある。そんな当たり前なことでも、そんな場所が今まで無かった私にとって、とても大切な、そして強い見方、強みとなりまし た。

私は将来、日本を代表し、国際保健を先導する一人でありたいと考えます。従来の受け身の国際医療・支援の形を、国民参加型の人口レベルでの健康増進を追及 する新たな国際保健の位置づけに携わる研究者兼実務家になることが私の夢です。民間セクターに眠る創造力に富むアイディア、技術や技能を新たなスタイルの 支援に繋げ、また国際保健に関わる全ての機関のパートナーシップの質を上げることにより、医療サービス・物資を末端の人々に届ける、そんな仕事に付きたい と思います。この2年間は、公衆衛生を志すものとして、多くのことにチャレンジをし、教科書では知ることのない、現場の知恵と経験を学びました。これから のロンドンでの3年間は、日本でお世話になった皆様に恩返しができるよう、夢を叶えられるよう、精進して学びに励みたいと思います。

そして、当時あの渦の中にいた一人として「私が見てきた福島原発事故」を世界に伝え発信することにも勤めたいと思います。これまでお世話になった、上研究室の皆様、星槎の皆様、福島県相馬・南相馬市の皆様には心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

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