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Vol.262 現場からの医療改革推進協議会第八回シンポジウム 抄録から(9)

医療ガバナンス学会 (2013年10月23日 18:00)


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セッション9: 論文ねつ造
11月10日(日)14:15~15:15

*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

2013年10月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


論文ねつ造
谷本哲也
大磯義一郎
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●論文捏造と科学者の自律性
谷本 哲也

医学関連の論文捏造が大きな社会問題になっている。基礎研究の分野で耳目を集めたのは、東京大学分子細胞生物学研究所の事件だ。また、臨床研究の分野で は、高血圧治療薬バルサルタン(商品名ディオバン)について、2013年2月の京都府立医科大学に続き(1)、東京慈恵会医科大学の論文がこの9月に撤回 された(2)。製薬企業ノバルティスの組織的責任が指摘され、薬事法違反の疑いや保健財政への影響に関する調査が求められている。

基礎研究では、複数の研究室が激しい研究競争を繰り広げるのが通例だ。結果の再現性が重要なため、結論を大きく変えるような捏造は少なく、一流科学誌に受 理されるよう、見栄えをよくし手早く論文の質を上げるための画像データ操作等が行われやすい。一方、臨床研究ではもう少し事情が複雑だ。捏造があったとし ても、患者の状態が異なるため結論が違うという反論が通りやすい。バルサルタン事件でも発表当初から論文のおかしさは指摘されていたが(3)、決定打と なったのは統計的矛盾点を科学的に衝いた京都大学の由井芳樹氏による指摘だった(4,5)。その後、実態の解明には毎日新聞や朝日新聞、フライデーなどマ スメディアが大きな役割を果たした。

これらの案件は氷山の一角で、不正の指摘が曖昧にされている事例が既に少なからずある。厚生労働省検討委員会の中間報告で計画しているような、通り一遍の 再発防止策だけでは不十分だ。例えば、東京大学の事例で実際に不正を行った研究者に対する処分、バルサルタン事件での千葉大学や滋賀医科大学、統計学的懸 念が新たに指摘されている名古屋大学(6)の論文の調査、論文捏造に関する匿名の告発ブログでの指摘の扱い等、捏造やその疑いに対し、科学者の共同体が自 律性をもって調査や処分を行う方策を築かなければ、捏造事件の本当の解決には繋がらない。捏造の申し立てに如何に対処すべきか、今回の案件からの教訓を考 えたい。

参考文献
1. Anon. Retraction of: Effects of valsartan on morbidity and mortality in uncontrolled hypertensive patients with high cardiovascular risks: KYOTO HEART Study [Eur Heart J (2009) 30:2461-2469, doi: 10.1093/eurheartj/ehp363]. Eur Heart J 2013;34:1023.

http://eurheartj.oxfordjournals.org/content/34/14/1023.long

2. Lancet Editors. Retraction–Valsartan in a Japanese population with hypertension and other cardiovascular disease (Jikei Heart Study): a randomised, open-label, blinded endpoint morbidity-mortality study. Lancet 2013;382:843.

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0140673613618474

3. Asayama K, Hara A, Staessen JA. Retraction of the Jikei Heart Study: misquotation of a comment. Lancet 2013;382:1173.

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)62054-1/fulltext

4. Yui Y. Concerns about the Jikei Heart Study. Lancet 2012;379;e48.

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)60599-6/fulltext

5. Tanimoto T, Kami M, Shibuya K. Research misconduct and scientific integrity: a call for a global forum. Lancet 2013;382:940.

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)61933-9/fulltext

6. Takagi H, Umemoto T; for the All-Literature Investigation of Cardiovascular Evidence (ALICE) Group. Concerns for the heart failure reduction in the NAGOYA HEART STUDY based on meta-regression from the evidence. Hypertension 2013 Sep 9. [Epub ahead of print]

http://hyper.ahajournals.org/content/early/2013/09/09/HYPERTENSIONAHA.113.02200.reprint

●医学研究における適正なガバナンスとは
大磯 義一郎

我が国の医学研究領域において、不祥事が相次いでいる。特に高血圧治療薬の臨床研究に関する事案については、マスメディア、国民からの批判を受け、厚生労働省内に検討委員会が設置され、再発防止を含めた議論がなされている。

医学研究の最大の特徴は、人の生命・健康に影響を与える点にある。すなわち、研究の成果物は、医薬品、医療機器等として患者に使用されることとなるし、そ の研究・開発段階においても、臨床研究・治験として被験者たる国民に使用されることとなる。したがって、人を対象とする研究を行うに当たっては、被験者・ 患者保護が十全にはかられなければならないこととなる。

一方、日本国憲法第23条は「学問の自由は、これを保障する」としており、国家権力が、国民の研究活動に介入することを禁じている。過去、ナチスドイツや 我が国において行われた非人道的な医学研究が、国家の主導によって行われたことの反省からも、本憲法の規定は十全に守られる必要がある。

したがって、医学研究のガバナンスを検討するに当たり、この二つをどのように両立またはバランスをとっていくかが重要な課題といえる。

そして、今回生じた高血圧治療薬の臨床研究に関する不正事件は、上記議論に加え、古くて新しい課題を私たちに提示している。すなわち、私人である営利企業 が、圧倒的な財力を背景に事実上の権力として研究内容に介入したことである。一般社会においては、1950年代より生じた公害事件や労働事件、消費者問題 など様々な問題が生じていたが、ついに医学研究領域にまで及んできたのである。

現在、医学研究、特に臨床研究・治験においては、国家、営利企業、研究者、被験者・患者という四者の登場人物が存在する。国家権力および営利企業による不 当な介入を防ぎつつ、医学研究の自由を確保し、同時に被験者・患者の生命、健康保護を図るにはどのようなガバナンスが必要か。来場の皆様と実りある議論が できれば何よりである。

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