医療ガバナンス学会 (2013年10月30日 14:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年10月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
第65回でも、紹介させていただきましたが、頻度と被曝量の関係をグラフに書くと、ほとんどの方が低い値を示しており、高い値を示す方はごく一部です。左 右対称に均等に分布することは無く、やや左側に偏ったグラフとなり、平均値、最頻値(一番人数の多い被曝量)ともに低い値に存在します。
これは、2012年の相馬市で行われた小中学生と妊婦さんに対するガラスバッジ検査の結果( http://www.city.soma.fukushima.jp/housyasen/kenkou_taisaku/glass/h24/index.html )です。この結果も上記で示したような左に寄ったグラフの形をしています。
そのような低い大多数の方に対して、ロングテール、一部に値の「比較的」高い方が存在しています。甲状腺の被曝量、セシウムの検出値、外部被曝の値、これれはだいたいどんなものであっても値の「比較的」高い方が少数ですが存在します。
ちょっときつい言い方をすると、全体の平均値や大まかな分布を知りたいだけであれば、全員を検査する必要は全くありません。サンプリングをすれば、ある程度の誤差が存在するとはいえ、そこから全貌を知ることができます。
でも、このような被曝検査はサンプリングだけで済ますわけにはいかないのです。大きな理由が2つあると思っています。
1つ目は、検査自体が、「調査」ではなく、「検診」であるから。住民の被曝量が全体としてXxxぐらいであるという情報ももちろん必要ですが、一人ひとり に対してできるかぎり、医療としてケアを行う必要があるからです。これは、様々な方が指摘されていますから詳しくは触れません。住民の方の中でも誤解され ている方が多いように感じます。全体像を見るサンプリングをするだけなのであれば、もう既にだいたい全貌は見えてきており、一人ひとりに検査を受けるよう 促したりする必要はないからです。
2つ目が、「比較的」値の高い方のケアをしっかりおこなうことが、その方自身そして、全体のために非常に有用であるからです。その「比較的」高い方をここでは、はずれ値と呼ぶことにします。
内部被曝の検査では、はずれ値を示す方の生活歴を長い時間をかけて詳細に聞くことにより、何に気をつけるべきかを知り、対策を打つことができました。この ブログでも紹介(第22回、第31回)していますが、この方をしっかりフォローすると同時に、どうすればこのような値になってしまうのか、逆にどうすれば このような値にならなくて済むのか、を皆さんに広く伝えることができました。
統計学でも、はずれ値の持つ意味は非常に大きく、様々な示唆を与えてくれます。検査の悉皆性(しっかいせい)を保とうとする理由の一つということもできます。これと同じことをガラスバッチ検査や他の検査でも繰り返し、繰り返し行う必要があります。
つまり、XXX人を検査して、99%がXXXだったという話も重要なのですが、既に全体像が見えてきているので、最大値の方の詳細はどうだったか、その方のフォローをしっかりできているか、というところに検査の重点を持って行かなければならない時期に来ていると感じます。
何をすると、値が高くなることがあるのか、この情報をみんなで集めて今後の知恵としていかなければなりません。各自治体がそれぞればらばらに発表してし まっている検査結果ですが、その結果も全体像と、最大値やごく少数の「比較的」値の高い方の情報とが両方示されていく必要があるように感じます。
写真: 南相馬市の福祉祭に行ってきました。福祉関係事業者が開催しているお祭りで、3年ぶりの開催です。放射線についてお伝えする機会をいただきました。園児た ちの元気な出し物があったり、出店があったりして、技師さんやリハさん多くの方がスタッフとしてがんばっていらっしゃいました。
みんな元気にがんばっています。僕自身がいつも元気をもらって、勉強させていただいています。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013102800005.html