最新記事一覧

Vol.273  郷に入っても郷に従わず その19 ~遺伝子組み換え鮭、どう思います?

医療ガバナンス学会 (2013年11月4日 06:00)


■ 関連タグ

ハーバード大学リサーチフェロー
大西 睦子
2013年11月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


アメリカ食品医薬品局(FDA)は、動物では、初めての遺伝子組み換え食品である「遺伝子組換え鮭」について、食べても安全と評価し、環境への影響もないと発表しています。その「遺伝子組換え鮭」が、年内にも、米国で発売される予定なのです。

この、「遺伝子組換え鮭」は、米国マサチューセッツ州に本社があるバイオテクノロジー企業、アクアバウンティ・テクノロジーズ(AquaBounty Technologies)が開発したもので、市場にある従来の鮭のサイズになるまで、半分の時間で成長します。なぜなら、アトランティックサーモンに、別種の大型の鮭(キングサーモンChinook salmon)が持つ成長ホルモン遺伝子が導入されているため、成長がとにかく早いのです。

この鮭の発売に対して、米国内では反対運動が活発になっています。「アクアドバンテージ(AquAdvantage)」と命名されたこの遺伝子組み換え鮭は、消費者からは、フランケンシュタインにちなんで「フランケンフィッシュ」、あるいは「ミュータントサーモン」とも呼ばれています。この鮭は人体への安全性について不明な点が多く、たくさんの問題点が議論されています。

そもそも私たち消費者は、遺伝子組み換え魚とそうでない魚の区別はできません。そこで、遺伝子組み換えの表示を求める運動が展開されています。

ちなみに、遺伝子組み換え作物大国の米国では、遺伝子組み換え食品の表示の義務はありません。「米国だけ表示の義務が無いのはおかしい」「自分が食べているものを知る権利がある」と、消費者からの反発の声が上がっています。一方、日本やEUを始め世界60カ国以上の国では、遺伝子組み換え食品には何らかの義務表示規則があります。ただし、日本の表示や流通規制はEUのルールと違ってかなり緩いため、知らず知らずのうちに遺伝子組み換え食品を大量に消費しているのが現状です。日本は現在、遺伝子組み換え作物の輸入大国なのです。

「遺伝子組換え鮭」は、野生の鮭との接触を防ぐため、パナマにある、地上のタンクの中で育てられています。それでも万が一自然界に放された場合、従来の鮭への汚染が危惧されています。さらに、この鮭が販売されれば、遺伝子組み換え食肉・魚は、済し崩し的に次から次へと市場に出現するでしょう。EU議会は輸入禁止を求めています。輸入の鮭に頼っている私たち日本人の食卓にも、将来的に大きな影響を与えることになるでしょう。

ところで、遺伝子組み換え食品って何でしょうか?

私たち人類は、人類にとってより有用な品種を作り出すため、古くから食物や家畜の「品種改良」を行ってきました。その古典的な方法が、「交配」です。人為的に、同じ品種間でも違う性質の個体同士を、あるいは突然変異で発生した品種と掛け合わせることで、両者の長所を兼ね備えた新たな品種を作りだそうというものです。しかしながら思い描いた通りの品種を交配によって作り出すには膨大な時間と労力を費やしますし、生物の「種の壁」を越えることはできず、限界がありました。そこで新たに出現した技術が、「遺伝子組み換え」です。

私たちは、親とよく似た姿、形や性質を持って産まれますよね。それは、親から子へ生物としての情報が受け継がれること、つまり遺伝によるもので、この遺伝情報を担う主要な因子が遺伝子です。「遺伝子組み換え」技術は、有用な遺伝子だけを切り取って、動植物の細胞の遺伝子に組み込むもので、これにより既存の動植物に全くもって新しい性質を持たせることが可能となりました。特に重要なのはこの技術を応用することで「種の壁」を越えることもできるようになった点です。例えば、特定の除草剤を分解する性質を持つ細菌から、その性質の情報を担っている遺伝子を取り出し、大豆の細胞に挿入します。すると、その除草剤に強い大豆ができる、といった具合です。そうしてできた作物や、その作物を原料とした食品を、「遺伝子組み換え食品」と呼びます。

遺伝子組み換え技術が誕生したのは、1970年代のこと。1973年、コーエン博士とボイヤー博士は、大腸菌を使って初めて遺伝子組み換えに成功しました。その後、先駆的な遺伝子組み換え植物として、たばこやペチュニアが品種改良されました。そして1994年、遺伝子組み換え食品として初めて市場に、「フレーバーセーバー」と呼ばれる、日持ちのよいトマトが導入されました。これは、遺伝子組換え食品の商業化を予想させる出来事だったと言えます。実際、今では多くの作物に広がり、最も一般的なところでは、大豆、トウモロコシ、菜の花、ジャガイモ、トマト、綿などが挙げられます。

専門家によると、米国のスーパーマーケットに陳列された加工食品のうち、約70~80%が遺伝子組み換え食品と言われています。特に、豆やトウモロコシを使用した食品の約90%は、遺伝子組み換えと言われています。以前ご紹介した異性化糖の多くが、遺伝子組み替えのトウモロコシから生産されます。米国に続き、アルゼンチン、ブラジル、インド、カナダ、中国などでも、遺伝子組み換え食品が普及しています。それに対してヨーロッパ諸国はアメリカとは反対の立場にいます。遺伝子組み換え食品に反対する向きが強く、厳しい規制が敷かれているのです。

なお日本では、厚生労働省のホームページによると、現在までに安全性が確認され、販売・流通が認められているのは、食品8作物(大豆、じゃがいも、なたね、とうもろこし、わた、てんさい、アルファルファ、パパイヤ)と、7種類の添加物です。言い換えれば、日本には、遺伝子組み換え食品がたくさん流通しているということです。

こうして、この20年間に米国を中心に遺伝子組み換え食品が急増してきた一方で、欧米を中心に、この「遺伝子組み換え食品」に関して、長所と短所など多くの議論が繰り返されてきました。

遺伝子組み換え食品の長所としては、1) 低コストに食品生産、
2) 食糧難解決、
3) 特定の栄養成分に富む品種の生産
、4) 日持ちの良い品種の生産
、5) 寒さや乾燥など、厳しい気候条件の土地で栽培できる品種の開発
、6) 害虫に強い品種の開発
、7) 農薬使用量の減少などです。

一方、遺伝子組み換え食品のリスクは、1) ホルモン障害、
2) 臓器障害、
3) 不妊、4) アレルギー
、5) 毒性
、6) 農薬使用量の増加
、7) 遺伝子汚染、8) 環境問題
などの可能性です。1994年、遺伝子組み換え食品の本格的な発売が始まってから、まだ約20年しか経っていませんから、まだまだ長期的な影響はわかりません。

さて、賛否ある「遺伝子組み換え食品」ですが、皆さんは賛成ですか?それとも反対でしょうか?そして、「遺伝子組換え鮭」、どう思いますか?

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ