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Vol.278 全国レベルの相双地区吹奏楽への復活へ~吹奏楽の復興プロジェクト~

医療ガバナンス学会 (2013年11月11日 06:00)


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福島県吹奏楽連盟副理事長・相双支部理事長
福島県立原町高等学校吹奏楽部顧問
今野 貴文
2013年11月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


平成22年4月14日、福島県吹奏楽連盟相双支部総会での役員改選にて、僭越ながら36歳という若輩者の私が支部理事長職へご推薦いただきこれまでの4年 間、微力な私が地区の吹奏楽顧問の先生方をはじめ全国各地の音楽関係者や吹奏楽指導者、プロの演奏家からご支援いただいてなんとかこの役務を務めることが でき感謝しております。

平成22年度は一生忘れることのできない1年となりました。
1つ目は、過去に原町第一中学校、小高中学校、向陽中学校でたびたび全国一へ導いた当地区吹奏楽界の名指導者であり前理事長であった北野英樹先生が、4月 7日の向陽中学校体育館で行われていた新入生対面式の入場音楽の指揮中に、急性大動脈解離による心タンポナーデにより48歳で急逝されたことです。県吹奏 楽連盟の次期理事長候補として周囲の期待も大きく、そして向陽中学校での前途洋々たる状況下での悲劇でした。
2つ目は、平成23年3月11日の東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故による相双地区住民の平穏な日常が奪われてしまったことです。

福島県相双地区の吹奏楽のレベルは、吹奏楽コンクールで昭和48年度に相馬市立中村第一中学校が数少ない県代表枠の1つを獲得し東北大会へ出場したのを きっかけに、県内でも有能な指導者が好成績を収めてきました。その後、「吹奏楽の甲子園」とも言われる東京・普門館での全国大会に平成元年に原町第二中学 校が出場して以来、原町第一中学校、小高中学校、向陽中学校が出場、小編成の全国大会へは原町第三中学校、小高商業高等学校、原町第二中学校、鹿島中学校 が出場。アンサンブルコンテスト全国大会へは原町第一中学校、原町第二中学校、小高中学校、向陽中学校、原町高等学校、相馬高等学校、相馬東高等学校、小 高工業高等学校、マーチング・コンテスト全国大会へは浪江東中学校、原町第一小学校など、平成元年以来、20年以上にわたり毎年いずれかの学校が東北大会 や全国大会で好成績を収めており、福島県の田舎の地区で人数も学校数も少ないながら、吹奏楽のレベルが非常に高い地区です。

相双地区の吹奏楽については、当連盟ホームページをご参照ください。
福島県吹奏楽連盟相双支部HP http://suirensousou.web.fc2.com/

震災前の平成22年度までは小学校9校、中学校15校、高等学校9校、一般4団体の合計37団体の加盟があった吹奏楽連盟相双支部も、原発事故の影響によ り平成23年度からは原発が立地する双葉地区の小中学校が活動不能となり小学校5校、中学校10校、高等学校8校(のちに小高工業高が復活し9校)、一般 3団体の合計26団体へと減少しました。
平成23年度は昭和62年度以来、吹奏楽コンクールでどの学校も県大会を突破できないという年となってしまいました。地区で唯一のホールである南相馬市民 文化会館「ゆめはっと」も12月まで使用できず、7月の吹奏楽コンクール相双支部大会は全国で唯一の「開催中止」となり、県大会に出場できる学校の発表の 場を提供するために代替行事として、熱中症が心配される中、向陽中学校体育館にて発表会を開催しました。
南相馬市原町区、小高区は鹿島区内の小中学校を間借りしての授業のため、また、生徒数の激減により練習もままならない状況が10月末まで続きました。原発から40km以上離れた相馬市、新地町内の学校でさえも若干の部員の減少がみられました。
そのような中で、原町第一中学校が日本管楽合奏コンテスト全国大会A部門にて第1位となるグランプリを受賞したことをはじめ、アンサンブルコンテストから 原町区と鹿島区の学校をはじめ徐々に出場し復活の兆しが見え、平成24年度の吹奏楽コンクールでは向陽中学校が東北大会金賞を受賞、アンサンブルコンテス ト東北大会においては相馬高等学校サクソフォーン四重奏が全国へあと一歩の次点の金賞を受賞、原町第一中学校金管八重奏が銀賞を受賞、同・クラリネット八 重奏が金賞を受賞するなど、どんどん勢いが戻ってまいりました。そして今年度、原町第一中学校は吹奏楽コンクール全国大会へ返り咲き、原町第二中学校と鹿 島中学校は小編成の全国大会「東日本学校吹奏楽大会」へ出場し、好成績を収めました。鹿島中学校は創部以来、初の全国大会出場という快挙でした。

震災以降痛感したことは、相馬市の立谷秀清市長、東京大学医科学研究所の上昌広教授、そして私が尊敬する同級生・福島県立新地高等学校の高村泰広先生が おっしゃっていた「広いネットワークの大切さ」でした。皮肉なことではありますが、震災や原発事故がなかったら、福島県の田舎の一人の高校音楽教員の私が 東京大学の先生方や全国各地の吹連の役員、星槎グループ、各音楽関係者や他分野の方々との出会いはなかったと思います。高村先生が「星槎寮」に宿泊されて いる方々と私を幾度も繋いでくださって、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
各学校の部活動は再開しても、各自治体の財政の都合上、予算は通常の学校運営にかかる部分だけで精一杯。音楽等、部活動に補助いただける額は微々たるもの です。楽器別の講習、楽譜の購入、楽器修理費、震災で故障したり古くて修理不能になった楽器の購入等、お金の問題でできない状況が壁となり、家庭的な事情 がある生徒も多くなり部費も徴収できないという状況があります。そのような中、私のネットワークを最大限に活用できないかと考え、全国各地の音楽関係者に 電話をかけました。これまでに尚美学園の安西裕司先生、洗足学園音楽大学の山澤洋之先生、フルート奏者の市島徹氏が支援の手を差し伸べてくださり、現在も 相双地区の吹奏楽の支えとなってくださっている方々です。

震災から2年7ヶ月が経過した今、これからどのようにして元の相双地区の吹奏楽へ戻していくべきか、我々顧問指導者のスタンスが問われる時期となって参り ました。相双地区へ他地区及び他県から吹奏楽関係者に来ていただくという人的交流が必要であると感じ、毎回、理事長の私の一方的な交渉と判断で恐縮でした が、年に1度開催される相双地区吹奏楽の祭典「相双バンドフェスティバル」へ平成23年度は全国大会一般の部常連の名取交響吹奏楽団、24年度は全国大会 31回出場の秋田の名門・秋田市立山王中学校吹奏楽部、今年度は岐阜県より吹奏楽の可能性の追求に労力を惜しまない岐阜ミリオン吹奏楽団と、それぞれのゲ ストの団体が交通費、宿泊費、食費全てを自費でフェスティバルのために来てくださり、生徒たちに元気と意欲をくださいました。また福島県でも特に吹奏楽が 盛んないわき地区の2高校(磐城高等学校、湯本高等学校)の吹奏楽部員の皆さんと相双地区の高等学校吹奏楽部とのジョイント・コンサートが実現しました。 長い福島県吹奏楽連盟の歴史の中でいわき地区と相双地区の交流は実は初めてでした。その前日に相双地区の小学生と中学生を対象とした講習会を開催し顧問指 導者である根本直人先生(福島県吹奏楽連盟理事長・現いわき明星大学特任教授)と橋本葉司先生(湯本高等学校吹奏楽部顧問・前福島県吹奏楽連盟事務局次 長)からご指導をいただきました。全国レベルの先生方の指揮と指導で演奏できるという経験は、講習会やコンサート後、今日の生徒たちの活動の大きな励みと なっており、生徒を第一に考えるというスタンスをお持ちの根本先生から学んだことは多く、次の開催も考えてくださるとのありがたいお話もいただいておりま す。また、新地高等学校の高村先生のご紹介でギリシャ人でイギリス在住のピアニストであるパノス・カラン、ラウル・ヒメネス、フルート奏者のザカリアス・ ターパゴスの3名が昨年度は3度来日し、相馬市内と南相馬市内でのトリオ・コンサート。そして相馬高校、相馬東高校、原町高校吹奏楽部とのコンチェルトや アンサンブルの共演により、本場の音楽を生徒と共に勉強する機会にも恵まれました。
今年3月17日(日)に、吹奏楽連盟相双支部の行事ではなく当時私が顧問であった相馬高校吹奏楽部主催行事として、新年度を迎えるにあたっての新2・3年 生のための楽器別講習会を相馬高校で開催し、普段各校で招聘するのが困難な楽器パートの講師を招聘し、遠くは福岡から講師が駆けつけてくださいました。今 年は、愛知県吹奏楽連盟からのお申し出によりNPO法人Gハーモニーとの連携により、相馬市立向陽中学校と名古屋市立汐路中学校と植田中学校との全国大会 出場3校の合同練習会と交流会も行われました。10月には相馬高校と相馬東高校が松島で開催された坂本龍一ディレクションの「東北ユースオーケストラ~ル ツェルン・フェスティバル アークノヴァ松島」へ参加し、宮城県の吹奏楽部員と交流。そして今年度の講習会は第2弾を11月17日(日)に南相馬市内の学校へ声をかけ、ほとんどの パートに講師を招聘し、今年度ようやく活動を再開することができた南相馬市立石神第二小学校、原町第三小学校等、これからもっともっとレベルを上げて元に 戻すべく、南相馬楽器別講習会を立ち上げました。これらの講習会は通称「今野が私的に勝手に立ち上げた相双吹奏楽復興プロジェクト」として主に洗足学園音 楽大学、フルート奏者の市島徹氏、テューバ奏者の古山理樹氏の多大なるご理解とご支援のもとに行われます。来年度は(株)オリエンタルランド主催による 「We are ONE 心はひとつジョイントコンサートin 福島」を当地区が誇る音楽ホールである南相馬市民文化会館「ゆめはっと」にて、加えて8月にはサントリー・ホール企画制作部との連携による「みちのくウィ ンド・オーケストラ2014」を音楽に携わる者なら誰もが夢見る東京・赤坂のサントリー・ホールにて、それぞれの演奏会にて人的交流と相双地区の吹奏楽部 員へ夢のステージを体験させたい一心で準備を進めております。

今年3月の人事異動により母校である相馬高等学校での8年間の勤務を離れ、4月から原町高等学校へ勤務しております。相馬市内の中学・高校の吹奏楽部の状 況と見通しはだいぶ立っていましたが、原町高校に来て南相馬市内の小中高校吹奏楽部の現状は未だに深刻で、原町高校は常時60名程度吹奏楽部員がいた震災 前に比べ25名まで激減しており唖然としてしまいました。以前より、地区を盛り上げるためには各地区の高校が音頭をとらないと動けないという考えと、震災 後の支援をするためには理事長の私が相馬高校にいては南相馬の吹奏楽の支援は難しいと感じていて、今回、原町高校から沢山のことを発信し各校の吹奏楽部支 援の一助となれればと様々なアイディアを巡らせ、企画を練っている段階です。相馬市内は私の後任である相馬高校吹奏楽部顧問の鈴木謙太朗先生がバイタリ ティ溢れる活動をし、8年間苦楽を共にしてきた隣校の相馬東高校吹奏楽部顧問の萩原敬士先生も沢山の発想の豊かなアイディアをお持ちで盛んに活動しており ますので、連携をとって北と南の相馬でそれぞれ盛り上げていければと思います。同時に、いわき明星大学サテライトにて頑張っている双葉翔陽高校、富岡高校 にも声をかけ、各校顧問の先生方の意欲的な指導の下、バンドフェスティバルや音楽祭へ必ず参加してくださるので、今後も活動を支えていきたいと思います。

自分自身が何度も絶望感を味わいながら、それでもその都度、頑張ろうと心を切り替えることができました。今の私を相双地区が育ててくださったという気持 ち、私に沢山の恩恵をもたらし望みを託してくださった数々の恩師と友人への恩返し、そして相当年下ですが生徒達は自校他校を問わず「相双地区吹奏楽の私の 後輩である」という気持ちはこれからも変わることはないでしょう。
そして、これからもずっと音楽を楽しむはずだったのにいきなり人生を終わらせられてしまった北野英樹先生、3年間の練習を共にし、大津波で命を落としてしまった相馬高校吹奏楽部の教え子の南部琴美さんの無念を晴らすべく、これからも邁進していきたいと思います。

これまでに沢山の方々からの多大なるご支援に心より感謝を申し上げます。
まだ復興の入り口に差し掛かった相双地区の吹奏楽ですが、今後もスタッフ一同頑張って参りたいと思いますので、今後ともご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。

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