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Vol.311 医療事故調への院内準備 医療事故調に備えて医療安全管理指針の整備をすべき

医療ガバナンス学会 (2013年12月20日 06:00)


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この記事はMMJ (The Mainichi medical Journal 毎日医学ジャーナル) 12/15発売号より転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上 清成
2013年12月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. 医療事故調へのリスクヘッジ
田邉昇氏(医師、弁護士)の「訴訟リスクから見る日常診療の落とし穴」(2013年11月14日付けメディカルトリビューン17頁)では、「残念ながら医 療事故調査会関連の法案ができてしまいそうです。結局は、医師が自分の首を絞めるための縄をなわされるだけだと思われます。」「現在も、医療事故があった 場合、院内で委員会が開かれることがありますが、『改善点』などを書いてしまうと、あっさりと裁判所は有責を認めてしまいます。これを覆すのは至難の業で す。」など、的確な指摘がなされている。
医療事故調には、医師による医師に対する人権侵害の恐れ、診療ガイドラインの事実上の法規範化の恐れなど、諸々のリスクが伴う。
そこで、それらのリスクに備え、せめて各医療機関には院内で準備を進めておく必要がある。まずは、医療事故調の開始に備えて、医療安全管理指針の整備をすることが急務だと思う。

2. 整備すべき主要なポイント
医療事故調の本来の趣旨は、死因究明や責任追及ではない。再発防止や医療安全の推進である。医療事故調によって逆に、医療安全活動が後退することがあってはならない。そのためのリスクヘッジとして、院内規則の整備が大切であると思う。
院内規則整備の主要なポイントは、次の5項目である。
1)院内事故調は医療安全管理委員会の下部組織(系列)に位置付けられること
2)責任追及される恐れのある医師には事前告知を受け意見を述べて記録に残してもらう権利を保障すること
3)医療安全活動資料の患者家族への非開示(秘匿性の原則)を徹底すること
4)管理者も主治医も関係職員も医療安全活動の内容の内部告発を禁止すること
5)医療事故は院内での懲戒処分の対象から一律に除外すること(非懲罰性の原則)

3. 書式例の私案
11月16日に香川県高松市内で、「医療事故調査制度の在り方とその対応について」という医療法務セミナーが開催された。その際の客演講師を務めた秋山正 史医師が、その運営する医療法人福寿会藤戸クリニック(岡山県倉敷市所在の有床診療所)の医療安全管理指針を提供してくれたので、これをもとにして作成し た書式例の私案を参考までに提示する。
1)医療安全管理委員会下の院内事故調
「事故等発生時には、医療安全管理委員長が別に定める発生時の対応方針に基づき、院内事故調査委員会を組織して事故調査を行い、事故調査報告書を作成するなどして適切に対処する。」
2)利害関係医師の権利保障
「特に法的責任を追及されるおそれのある関係職員からは、あらかじめそのおそれを告げた上で、必ず意見を聴取する。」
3)秘匿性の原則
「医療安全活動資料は、いずれも当施設内部のためだけのものであり、管理者・委員会・委員・関係職員その他すべての当施設の職員は、患者・家族関係者も含め当施設の外部に開示することができない。」
4)内部告発の禁止
「医療安全活動資料は、いずれも当施設内部のためだけのものであり、管理者・委員会・委員・関係職員その他すべての当施設の職員は、行政機関・警察・報道機関も含め当施設の外部に開示することができない。」
5)非懲罰性の原則
「医療安全推進の目的を達成するため、当施設は、事故等発生の責任を理由とした関係職員に対する懲戒処分は行わないものとし、具体的な指揮監督を中心としつつ、厳重注意・訓戒、再教育・研修などの再発防止措置にとどめるものとする。」

4. 若干の注釈
1)医療安全管理委員会下の院内事故調
往々にして、院内事故調査委員会の院内における位置付けが不明瞭になりがちである。きちんと医療安全推進のためのものと位置付けておかないと、責任追及の道具とされかねない。
2)利害関係医師の権利保障
本来、利害関係医師の権利は手厚く明記したいところである。書式例の私案では、最低限度のものを掲記したに過ぎないので、各医療機関でさらに充実を図られたい。
3)秘匿性の原則
医療安全活動資料の非開示を定めたものであり、WHOドラフトガイドラインにも明示されている。法律用語では、証拠制限契約ともいう。前記のセミナーでや はり客演講師として講演した橋本岳衆議院議員は、独自の活動の中で、厚労省医政局総務課医療安全推進室より、証拠制限契約や秘匿性に関する前向きな回答を 引き出した旨を披露した。たとえば、「証拠制限契約の妥当性等については厚生労働省が判断する立場にないため、規制も含めて実施することは想定していな い。」「ヒアリング記録等については、調査の過程で生じる書類であり、調査結果報告書とは異なるため、遺族へ開示するものではないと考える。」などの回答 は貴重な成果である。
4)内部告発の禁止
医療安全活動の内容がマスコミ等にリークされる例が散見されるので、念押ししておくべき事柄であろう。
5)非懲罰性の原則
医療事故調は、医師法上の行政処分(免許取消、医業停止、戒告)拡大の契機となりかねない。医療過誤といった過失は、決して行政処分の対象とすべきもので はないことを、声高に主張すべきであろう。そのためにも、まずは各医療機関において、医療過誤に対する制裁的な懲戒処分を全面的に廃止すべきである。そし て、この方向性こそが、業務上過失致死傷罪の適用除外に向けた医療界での活動の真の第一歩となることと思う。

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