医療ガバナンス学会 (2014年1月8日 18:00)
本稿では、私自身の卒後15年間のシュミレーションを元に、私にとっての「仕事の面で自己実現を果たしながら、家庭を充実させる」方法について述べる。そのための最低条件と想定した卒後15年間の物語は以下の通りである。
■条件1:将来子供ができたとしても、できるだけ常勤として医師の仕事を続ける
■条件2:子供と一緒に夜7時に夕食を取る時間を確保する
【卒後15年間のシュミレーション】
私は25歳で大学を卒業し、東京で初期研修を行うため上京した。東京にて3歳年上の会社員の男性と知り合い、27歳で結婚。夫は神奈川県川崎市出身、都内 の大学を卒業した後、外資系IT企業に勤めている。同年、2年間の初期研修が終了し、診療科を産婦人科に定め、後期研修先として都内の民間病院に就職し た。夫婦ともに職場が東京都港区にあるので、同区に住んでいる。それから3年後、30歳の時に妊娠、31歳で第一子を出産。出産後すぐ元の職場に復職し、 33歳で産婦人科の専門医を取得した。再び妊娠し、34歳で第二子を出産。すぐまた元の職場に復職した。卒後15年経った40歳では、9歳と6歳の二児を 育てながらも、仕事を続けている。
前編では、女性医師が常勤として仕事を続けながら子育てをする条件として、次の3つをあげた。
■条件1:夫の助けがある
■条件2:自分の実家、夫の実家の助けがある
■条件3:ベビーシッター・託児施設・家事代行サービスを利用する
この3条件のうちいずれかを満たす必要があるが、夫の仕事が忙しかったり、実家が遠かったり、身内のサポートが得にくい状況であればあるほど、条件3のベ ビーシッターや託児施設、家事代行サービスへの依存度が増すだろう。ただ、ベビーシッターや託児施設、家事代行サービスを利用するとなると、その費用が問 題となる。
中でも保育料の負担は馬鹿にならない。本例のように夫婦共働きの場合だと、家計にどのくらいの負担を課すのだろうか。以下に想定したケースの家計簿を示す。
夫婦の月収入合計(手取り)100万円
住居費 -17万円
食費(外食含む) -9万円
水道光熱費 -2万円
通信費 -2万円
駐車場代・ガソリン代 -5万円
生活日用品 -2万円
生命保険料 -1万円
その他雑費 -2万円
貯蓄 – 20万円
通常保育料 – 6万円
臨時保育料(月4回当直)-18万円
残高 16万円
想定したケースでは、第二子を出産し復職した頃(34歳)の私の収入は手取りで月45万円、夫の収入は手取りで月55万円である。東京都港区で暮らす場合 の住居費、食費、水道光熱費などを含めた生活費の合計(保育費除く)は月40万円である。また月20万円を貯蓄に回すとする。夫婦の手取り収入の合計は月 100万円(ボーナス除く)であるので、そこから生活費と貯蓄を差し引いた40万円を子供達の保育費に回すことができる。想定したケースにおいて、3歳と 0歳の二人の子供を東京都港区の認可保育園に預けた場合、保育料は月6万円弱かかる。平日の通常保育の他に、当直のために土日や夜間に子供達を預ける場合 はどうだろうか。都内のベビーシッターや託児施設は、1時間あたり2000円程かかるので、夕方から翌朝にかけて子供を預けると一人あたり約3万円かかる だろう。子供が二人いると、兄弟割引が効いても保育料は1.5倍となり、当直料のほとんどが保育料に消えることになる。本例において、月4回の当直のため にかかる保育料は18万円である。しかし、平日の通常保育料と合わせても、一ヶ月あたりの保育費は24万円であり、想定した夫婦共働きのケースだと十分に 支払うことができる。
ちなみに、離婚をして私一人で子供二人を育てる場合だと収入が半分に減るため、同じようにはいかない。(1)生活費を下げる、(2)保育費を下げる、 (3)収入を増やす。この3つの条件のいずれかを満たす必要がある。実家に住んで、実家の両親に子供達を預け生活費と保育費を下げるか、実家に頼れない場 合には、3つ全ての条件を満たせる地方の病院に移ることが考えられる。例えば、福島県いわき市にある財団法人ときわ会常磐病院のように、24時間保育所を 備え、福利厚生の面でも給与の面でも恵まれた病院もある。福島県いわき市の家賃は東京都港区の4分の1である。離婚した場合には、都心に住むことにこだわ らず、条件の良い地方の病院を探すことも手だろう。
最後に、先に述べた3つの条件に加え、女性医師が常勤として仕事を続けながら子育てをするための4つ目の条件について考えたい。
■条件4:働く病院を選ぶ
病院によって医師の待遇、福利厚生は大きく異なる。例えば、仙台厚生病院のように、時間外勤務や超過勤務を制限し、医師の「健康でゆとりのある生活」を保 証する病院もある。このような融通の効く病院の他、院内保育所、病児保育、24時間保育といった保育サービスを備えていたり、オンコールが免除されている 病院を選ぶことも考えたい。24時間保育のある病院では、患者が急変して夜間や早朝に急に呼び出された場合にも対応できる。オンコールが免除されている病 院では、夜間早朝の子供の預け先に悩むこともない。また、現実的には、後期研修を始める前に進む科を選ぶことも考えられる。子供を持った時により融通の効 きそうな科はどこか、科を選ぶ際に考える必要がある。
本稿を書くにあたり、30代前半の男性医師3人にインタビューをさせていただいた。どの方もまだ独身で子供のない方である。「普段は何時まで働いていらっ しゃいますか?」と尋ねると、「勤務は夕方6時か7時には終わるけど、10時くらいまで勉強してるかな。」。それぞれ空いた時間を仕事や医学の勉強につぎ 込んでおられた。彼らのような子供のない医師に比べ、子供を持つとどうしても時間の制限が生まれる。医師は技術職であり、少なくとも卒後10年間は修行期 間にあたる。女性医師は子供を持つまでは男性医師と変わらない働き方ができるが、高齢出産を避けようとすると、出産・育児の時期と修業期間が重なってしま う。また、女性は家庭の中で、家事・育児の両方を担うことが多い。家事も育児も一人で抱え込まず、夫や実家の両親などの周りの人の手を借り、適宜ベビー シッターや託児施設、家事代行サービスを活用することが大切である。本稿で述べたように、子供の保育費は馬鹿にならない。しかし、私はこれは将来のキャリ アのための必要経費だと考えている。子供はいずれ育つ。子供が小さい頃は、当直料の大部分が保育費に消えたとしても、いつまでもそれが続く訳ではない。私 自身は、結婚して子供を持った時、家族の手を借り外部サービスを活用しながら、常勤の医師として仕事も家庭も充実させていきたい。
【略歴】細尾 真奈美(滋賀医科大学医学部医学科4年)
西陣織の老舗「細尾」の長女として京都市に生まれる。現在、滋賀医科大学医学部医学科4年に在籍中。