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Vol.20 輸血によるHIV感染~Solutionは何処に~

医療ガバナンス学会 (2014年1月28日 06:00)


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医療情報技師
木村 優子
2014年1月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


●最初
昨年11月の終わりに悲しいニュースを聞いた。60代の男性が輸血によってHIVに感染してしまったというニュースである。HIVに感染した献血者から提 供された血液で感染してしまったというものだった。一体どうなっているのか。助け合いの気持ちから行う献血という行為を己の安心のためだけに利用した献血 者に怒りさえ覚えた。私は医療者ではないがとてつもない痛みを感じたことを未だにはっきりと覚えている。

●消えたSolution
私がこの原稿を書かせていただく機会を得たのは全くの偶然だった。いや、今思えば必然だったのかもしれない。わたしは医療情報システムを扱う職業について いる。数か月前にある場で「輸血前検査を忘れることはそうそうないが輸血後の検査の実施件数が低く懸念している」とういう問題提起があった。多くの患者を 持つ医師が一人ひとりを把握するのは難しくまた検査部も人員の問題などでカバーしきれないという現状がある。それを聞いた私は「それこそシステムの得意な ところではないか」と考え電子カルテメーカーのSEに対して「輸血を行った患者が来院した際に輸血後輸血後三か月の検体検査を実施するよう医師を誘導する システムを作って欲しい」と依頼したばかりであった。HBV、HCV及びHIVを早期に発見するためである。ただその時はまさか後にこんな事態が起こるこ となど想像もしていなかった。それからは「あの機能はどうなった?」と事あるごとに尋ねていたが「いや、色々手続きがあるんですよ」「どうなったのか確認 してみます」など役所のような返事しか返ってこなかった。そしてこのような出来事が起こってしまったのである。私はこの事実が明らかになってからすぐに メーカーに対しこの機能を早急に開発、実装するように再度要望した。「後からわかってもしょうがないじゃないか」と言われる機能かもしれないがそれでも 「早く事実が判明することも重要ではないか」と考えたからだ。開発SEからは「かなり以前からの懸案機能にはなっているため、必要性は高いのだと認識して います。」という回答だった。そしてそこには気になる言葉があった。「やります!とすぐに言えない事情を察してください」の文字。現場の人間とは同じ問題 意識を持っていることは分かった。しかし認識しているはずなのに未だ実現していない。なぜこんなに重要な案件にすぐに着手出来ないのか。私は以前からある ことに疑問を感じている。実はこのメーカー「あったらいいな、この機能」や「このほうが安全性や利便性が上がるよね」等の意見をユーザーから吸い上げ投票 システム「いいね!」を導入しているのである。その後、その結果を元に「ユーザー会」なるものが判定するという仕組みらしい。平等で公平なシステムのよう に思えるが問題もある。例えば「フォントサイズを大きくして視認性を向上して欲しい」という要望が上がる。そこには同列に「輸血後三か月の検査」機能も並 ぶのである。あれ?と思う。そもそもフォントサイズを大きくするのに投票が必要なのか。それ以前にそんな問題と同列に扱うこと事態おかしいのではないか。 問題の切り分けも出来ない、何が重要なのか判断も出来ない、医療を扱う上でそんな組織って今時ある?と思ってしまう。常に変化し進化する「医療」の中で組 織として古い体質、古い体制を誇示することになんの意味があるのだろうか。「時計を合わせてください。今は21世紀ですよ」と声を大にして言いたくなる。 またそれを必死で擁護し守る彼らにどんな得があるのだろうか。「いったいどこを向いて仕事をしているんだ」と質問してみたくなる。病院という最前線の現 場、機能を開発するという現場でなぜそんなことが私たちの行く手を阻むのだろうか。「何かおかしいと」気づけない組織、そしてそれをマネジメント出来ない 組織自体に問題があるのではないだろうか。つい最近一人のSEがこう呟いたのを聞いた。「Solution ってなんなんだろう・・・」必死でがんばっている彼らにそんな情けない台詞を言わせないで欲しい。医療は遊びではない。どんな事情があるにせよ「医療」と いうものに携わっているのなら決して間違わず大事なことを見失わずにSolution という意味をもう一度噛みしめていただきたい。自分たちにしか出来ないという誇りを持って挑んでいってもらいたい。

●そして
私には最初の段階で問題を未然に防ぐような力はない。けれどもまたもし「万が一」が起きてしまった時に早い段階でわかるような仕組みを自分の得意な立場で考えることは出来る。
「このようなことが二度とおきませんように」と祈るだけではない。事実と現実と希望を書き綴ること。それが私の出来ることである。

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