医療ガバナンス学会 (2014年2月20日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2014年2月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
現在作っている食べ物は大丈夫か? スーパーで食材をどう選んだらいいのか? 水はミネラルウォーターじゃ無いとダメなのか? 子供の外遊びは? ホールボディーカウンター(WBC)や甲状腺検査結果を、どう考えたらよいのか?
全体として聞かれる内容が、この1~2年で大きく変わったという印象はありません。ただ、内容は多岐にわたり、農業、流通、賠償のこと、自治体ごとの対応の細かい差異などを突っ込まれて答え切れないときもあります。
そのような外来を続けるにあたり、以前から気になっていることがあります。それは、非常にナーバスになり、精神的にも追い込まれてしまっている一部の住民のことです。
第83回では、精神的に参ってしまっているお母さんのことを紹介しました。同様の事例に幾度となくお会いします。放射線に関する意見対立がきっかけで、家 庭内の不和、別居したままの方。農業ができずに完全にふさぎ込んでしまった父と、国や行政への不満を外来で爆発させる母、その間で両親を一生懸命なだめよ うとする高校生ぐらいの息子。自分で自分のことを「放射線のことばかり考えて、おかしくなってしまった」と言いつつも、食品と水は西日本からの通販で無い と食べられないという方。
Babyscanが導入されてから、そのような方が外来にいらっしゃる傾向はさらに強くなっています。より不安が強い方が受診されている率が高いのだと思います。
けして現在の福島県内で、そのような方が多いわけではありません。むしろごく少数だと思います。ただ、そのような方を、行政が、医療が、そして周りの住民の方、全てが見放してしまっている場合があることに対して、何かできることは無いかと感じます。
そんなのは、医療のカバーする範囲じゃ無いといわれるかもしれません。行政は、そんなところまで面倒見切れんと言うかもしれません。地域の人もそんなの 偏った考えの人、いい加減相手にしたくないと言うかもしれません。ただ、誰かが話を聞いたり、相談したり、そばに居てフォローを続けることが少なくとも必 要だと思います。
残念ながら、その目的のためには、現在の外来はほんの小さな役割しか果たせていません。医師が30分間の対面で話をして、いくらかの疑問を解くことができます。とはいえ、この3年弱のねじれを解決するかというと厳しい。
放射線に関する「正しい」知識が無いから、そんなことになる。正しい知識をお伝えすればいい。その要素も無いとは言いませんし大事なのですが、それだけだと何か違うように感じています。
最終的には、誰がどのようにフォローを行うことができるのかということに尽きます。それは、保健師さんでしょうか、学校の先生でしょうか、医療者でしょうか、専門家でしょうか、何かカウンセラーのような人でしょうか、周りの地域の方でしょうか。
何か答えがあるわけではありません。きっと誰でもいいのだと思います。ただ、全員が他の誰かがやるべきだと言ってしまうと、解決はしないのだと思います。
とりとめありませんが、この辺で。
写真:3回目の3.11が近づき、それにあわせた取材などが増えてきています。残念ながら、このようなタイミングでないと、現地の状況を他の地域に伝える チャンスがありません。写真は海外からの取材。センセーショナルな形にしないと、視聴率が取れないのは市場経済の中で仕方ないのかもしれませんが、是非、 冷静に現状を切り取ってほしいと思っています。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2014021000009.html