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Vol.60  「消費税増収分を活用した新たな基金」の問題3:横倉基金と朝三暮四

医療ガバナンス学会 (2014年3月8日 06:00)


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小松 秀樹
2014年3月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


●医療における控除対象外消費税問題
税は公正かつ公平でなければならない。特に、消費税のような一般性の高いものでは、公正・公平性が強く求められる。ところが、消費税を最終消費者に転嫁で きない業種で、既に支払った消費税の扱いが不公平になっている。輸出した自動車については、仕入れ時に支払った消費税は還付されるが、社会保険診療では医 療機関が支払った消費税は還付されない。厚労省は、その分、診療報酬に上乗せされているというが、正しく反映されているかどうか、議論の基礎となる客観的 数字は存在しない。日本医師会(日医)は、控除対象外消費税が社会保険診療報酬の2.2%になっているとしているが、医療機関ごとに異なり、積極的投資を 行えば大きくなる。
財政赤字が続く中で、あいまいさを残しておくと、行政の裁量による診療報酬抑制幅が大きくなる。今後、消費税率が段階的に引き上げられると、医療機関の経営が脅かされかねない。その前に、投資が抑制され、医療の質が低下する。
現在、厚労省は、医療機関への財政支援のために「消費税増収分を活用した新たな基金」を創設しようとしている(文献1、2)。消費税率5%での控除対象外 消費税を日医が推定している2.2%とすれば、消費税率8%では、控除対象外消費税は3.52%になる。2014年度の社会保険診療の医療費総額を40兆 円と推定すると、控除対象外消費税は総額1兆4080億円にも達する。厚労省がこれまで上乗せ分としてきたのは、消費税3%導入時の0.76%、5%に引 き上げたときの0.77%、今回の8%への引き上げでの1.36%、合計2.89%である。厚労省と日医の主張の差額分だけで40兆円 ×(0.0352-0.0289)=2520億円になる。新たな基金の規模は、医療機関に還付すべき消費税の範囲を超えることは考えられない。すなわち、 医療機関に還付すべき消費税の一部が、基金として支配の道具に使われるだけのことである。基金は、医療機関が自由に使える利益を税金として取り上げ、その 一部を使いにくい補助金として、医療機関に戻すものである。再投資の経営判断の一部を、経営者から都道府県が恒久的に奪うことになる。

●横倉義武日本医師会会長
日医白クマ通信No. 1740(2013年12月26日)
「(平成26年度の診療報酬改定の厳しい結果は)消費税率引き上げと同じタイミングで、保険料・患者負担という国民負担が増えることがないようにという政府の強い意向を踏まえたもの」。
「国民負担を増やさずに医療を充実させるという配慮の下、診療報酬での底上げではなく、医療法等の改正により創設される基金に約600億円上積みされ、全 体で約900億円の基金で対応することになり、上積みされた基金のうち、特に約360億円は、地域包括ケアの中心を担うかかりつけ医機能を持つ民間医療機 関を中心に配分される」。「平成26年度予算概算要求要望において、—–『地域医療再興基金』の創設を要望してきた」。
日医白クマ通信No. 1747(2014年2月14日)
「『中医協委員の真摯なご議論にお礼を申し上げる』と述べた上で、平成26年度診療報酬改定について、診療報酬全体で0.1%増という厳しい国家財政の中、国民との約束である社会保障・税一体改革に基づき、その第一歩を踏み出したものであるとした」。

●鈴木邦彦日本医師会常任理事(中医協委員)
日医白クマ通信No. 1259(平成26年2月20日)
「今回の『新たな財政支援制度』は、社会保障制度改革プログラム法に盛り込まれた、医療・介護サービス提供体制改革のために創設されたものです」。「日医 では昨年5月、—-『地域医療再興基金』の創設を厚生労働省に対して要望しました」。「都道府県医師会に対しましては、昨年末の12月27日付で横倉 義武会長名により文書を発出し、民間医療機関の充実を中心とした計画の立案と、基金財源の確保に向けて、早急に行政と協議を開始して頂くようお願いしたと ころです」。「新たな財政支援制度では、—-法的に財源(消費税収)が安定的に確保されると同時に予算規模も拡大することになります」。「厚労省か ら、『シーリングの対象であったこれまでと違い、新たな財政支援制度では、しっかり財源も確保出来、むしろ補助金増額の機会とも言える』—-といった 説明を受けております」。

横倉・鈴木発言から想像される日医の真意
「日医は政府に追従することで利益を得てきた。診療報酬は実質1.26%の減額になったが、政府と対立する姿勢をとるつもりはない。逆に、政権との関係を 強固にするために、0.1%の増額を強調し、評価した。診療報酬が実質減額になった代わりに、日医の要望で消費税増収分を活用した新たな基金が実現した。 基金のうち、360億円はかかりつけ医に配分される。都道府県医師会は、補助金を獲得するための計画を早急に立案してほしい。新たな基金は、消費税という 財源があるので、今後も規模が拡大していく」。

●横倉基金:月刊『集中』2014年2月号より
「(診療報酬の実質1.26%減額決定後)自民党厚労族重鎮たちの関心は、『どうやって横倉会長のメンツを立てるか』に移った」。「考え出されたのが、診 療報酬とは別枠で設けられた医療提供体制改革のための基金を横倉氏の手柄にすることだった」。「これを『横倉基金と呼ぼう』ということになった」。「厚労 族の重鎮たちは『横倉氏の強い働き掛けで実現した』と説明して回った」。
「横倉執行部は実質マイナス改定という結果に頬かぶりし続けることができるのか。あるいは、地方からの不満の狼煙が広がりを見せることになるのか」。「横倉会長再選のシナリオが大きく変わることになるかもしれない」。

●中医協・森田朗会長
メディファックス2014年2月25日
「公益裁定した消費増税への補填について『合理的・公正に個別項目に付ける方法がなかったため、基本診療料にほぼ全額補填する裁定案を出した』と説明。 『率直に言って、個別の医療機関が負担した消費税を、患者個人が支払う診療報酬で還元するのは不可能だ。中医協の外で話を付けてほしい』とも述べ、10% 引き上げからは診療報酬以外の手法での解決に期待をかけた」。「増税補填については『診療報酬では制度的に不可能。中医協の外で決着してほしかったが、無 理筋の話をどう通すかということになった』と本音を吐露。『事務局も含め、補填すべき個別項目を特定する智恵が出なかったことと、時間的制約もあり苦渋の 決断をした』と理解を求めた」。

●ボストン茶会事件
アメリカ独立のさきがけとなったボストン茶会事件は、茶に課税するのと並行してイギリス東インド会社に茶の独占販売権を与えたことがきっかけだった。日本医師会の行動を当時に置き換えるとどうなるか想像してみる。

マサチューセッツ紅茶道協会会長談話(仮想)
「マサチューセッツ紅茶道協会は、茶税が課されるにあたって、紅茶道振興基金の創設をイギリス政府に要望した。これが認められ、茶税の一部が、紅茶道振興 のために使われることになった。補助金の多くは、マサチューセッツ紅茶道協会を通じて配分される。各植民地の紅茶道協会は早急に基金を使うための計画を提 出されたい。今後、茶税率が段階的に引き上げられるに従い、基金からの補助金も増額される。従来、イギリス政府からの植民地への補助金には、上限があった が、茶税という新たな財源ができたので、茶税率の上昇に伴い、補助金は増え続ける。イギリス政府に感謝するものである」。

独立自尊を旨とする当時のアメリカ人が、不当な税金を財源とする基金から補助金をもらって喜ぶことはあり得ない。実際、課税が不公正だとして、抗議活動が拡大した。これがイギリスに対する抵抗運動に変化し、独立戦争にまで発展した。最終的にアメリカ合衆国が独立した。
ボストン茶会事件までアメリカでは紅茶が広く飲まれていた。ボストン茶会事件をきっかけに紅茶が敬遠されるようになり、代わりにコーヒーが普及したとされている。

●朝三暮四
そもそも、消費税導入時に、非課税を強引に主張して、現在に至る控除対象外消費税問題を引き起こしたのは、当時の日医会長である。自分の主張が何をもたら すのか十分理解していなかったらしい。日医会長選挙は当時も今も変わらない。今も、認知能力が低いにもかかわらず、強引に主張を通す人物が選出される可能 性は否定できない。
朝三暮四とは目の前の差に惑わされて、本質が同じであることに気づかないことを意味する。中国の春秋時代、ある老人が、飼っている猿にとちの実を与えるの に、朝に三つ、暮れに四つ与えようと言ったら猿が怒った。そこで、朝に四つ、暮れに三つ与えようと言ったところ猿は喜んだ。朝三暮四はこの寓話に由来す る。
厚労省の「シーリングの対象であったこれまでと違い、新たな財政支援制度では、しっかり財源も確保出来、むしろ補助金増額の機会とも言える」という説明は、老人の言葉を思わせる。私には、この言葉を白クマ通信に掲載するセンスが理解できない。
原理的に、横倉基金の医療界にもたらすメリットが、控除対象外消費税のもたらしている損失を上回ることはありえない。私は、横倉氏が基金に惑わされて、控 除対象外消費税を容認することを危惧するものである。横倉氏が寓話の動物でないことを示すには、本気で控除対象外消費税問題に取り組み、結果を残すしかな い。

文献
1. 小松秀樹:「消費税増収分を活用した新たな基金」の問題1,民から奪い、支配に使う. MRIC by 医療ガバナンス学会. メールマガジン; Vol.18, 2014年1月24日. http://medg.jp/mt/2014/01/vol18-1-1.html#more
2. 小松秀樹:「消費税増収分を活用した新たな基金」の問題2, 私権論の現代的意義. MRIC by 医療ガバナンス学会. メールマガジン; Vol.26, 2014年2月1日.

http://medg.jp/mt/2014/02/vol25-2.html#more

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