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Vol.61 在宅医療を潰すな!衆院予算委員会で厚生労働大臣に質す

医療ガバナンス学会 (2014年3月9日 06:00)


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ドクターヘリは「15分ルールで」

衆議院議員(日本維新の会)
松田 学
2014年3月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私の年来の知人で、いつもは穏やかな表情のY医師が、2月24日、今回は深刻そうな表情で議員会館の私の部屋を訪ねてきました。財務省在官時に東京医科歯 科大学の教授に出向していた頃から、主として財源問題を中心に医療改革について発言を続けてきた私は、近年、地域で医療と福祉の連携を組み立てる活動にも 携わってきました。
某在宅医療ネットワークの中核的な立場で活躍する若くて志の高いY医師は、この活動の同志です。彼は在宅医療に身を捧げる多くの医師を私に紹介してくれま したが、皆さんとは、よく、超高齢化社会の課題解決への夢を語り合ったものです。私も高齢者向け集合住宅への往診に同行し、明らかに通院することが困難な 患者の方々を回る診療現場を見せていただいたことがありますが、そこには、これこそが今後の日本で最もニーズが高まる分野だと思わせるだけの現実がありま した。
今回、そのY医師が私に伝えに来た話は、今般の診療報酬改定によって、自分たちが発展させてきた在宅医療モデルがもう継続できなくなったという内容でし た。私は翌々日の2月26日に、衆議院の予算委員会の分科会で、ドクターヘリの課題について田村憲久・厚生労働大臣に対する30分の質疑に立つことになっ ていましたが、早速、この件も質疑内容に加えることにしました。
国会で最もスポットライトを浴びるのが予算委員会です。特に、次年度政府予算の審議の冒頭に行われる「基本的審議」は、テレビでもよく放映される最重要な 場であり、経済財政畑の私は、昨年も今年もこの場では安倍総理以下全閣僚を前に経済問題を中心に議論をしました。これに対して「分科会」とは、予算審議の 過程で、より専門的で突っ込んだ審議をする場として、各担当大臣ごとに分かれて各議員が質疑をする場です。

●在宅医療が超高齢化社会のニーズに応えていくために。
まず、この在宅医療の問題ですが、今般の診療報酬改定で、最近、高齢者向けに増えている集合住宅への在宅訪問診療への診療報酬が突然、4分の1まで引き下げられることが決定されました。以下は、厚生労働大臣との主なやり取りです。
(松田)政府は、今国会に「地域医療・介護確保法案」を提出し、地域の医療連携の強化・拡充を図っているが、今回の診療報酬改定の中には、本法案の「入院中心から地域医療へ」という考え方に沿ったものなのか疑われる事例がある。
すなわち、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホーム等の施設向けの訪問診療に関して「同一建物」の項目が新設され、従前より報酬が大幅に、科目によっ ては4分の1まで引き下げられた。これにより在宅医療に関連する業界は大きな打撃を受けるとの声が出ている。これでは現実問題として、例えば24時間対応 の医療サービス付の有料老人ホーム、グループホーム、高齢者向け集合住宅などへの在宅医療サービスの担い手医師が集まらなくなる。約束した医療サービスを つけられなくなることから、高齢者向け住宅の業界側からも、約束違反といわれて困っているとの声も出ているようだ。事前に関係者からの意見聴取はしたの か。なぜ、このようなことが突然決定されたのか。
(田村大臣)新聞報道等で、医者と施設を紹介して手数料ビジネスのようなことが行われているという話があり、色々と調べてみると確かにそういう事例があ り、短時間のうちに何十人も診療して荒稼ぎをするような形態がある。しかも、それを手数料としてバックしているという報道もあり、国会でも色々なご指摘を 頂く中において、中医協の中でご議論を頂いて、その方針にのっとって決定をさせて頂いた。
確かに、言われる通り大きな変化なので、これからも丁寧に関係者の方々にお話をお聞かせ頂いて、場合によっては見直しも含めて検討させて頂く。
(松田)不適正事例があることは承知している。集合住宅で訪問診療をしている方々の中には、志が高く、住民である患者のニーズにもきっちりと応えている医 師も多い。不正は不正としてきちんと摘発していくことは必要だが、根っこからこれができなくなってしまうことについては、ご配慮を頂いた方がよいのではな いか。
外来患者が在宅医療に奪われているという開業医からの声が背景にあるのではないかという見方もある。ビジネスというと語弊があるかもしれないが、新しいビ ジネスに対して既得権益の壁ができる一つの例だということになってはいけないと思う。不正事例があるのは事実だが、一方で真面目にやっている人たちもい る。こういう関係者からも意見をお聞き頂くと大臣におっしゃって頂いたので、ぜひ、しっかりとお聞き頂いて、必要な措置を取って頂くよう要請する。
これは早速、在宅医療関係者の間で大きな反響を呼ぶことになりました。大臣から上記の答弁を引き出しましたので、今後も厚労省の対応についてフォローしてまいります。

●ドクターヘリと国松元警察庁長官
「救急ヘリ病院ネットワーク」の会長の国松孝次さんといえば、かつて警察庁長官として狙撃事件に遭って一命をとりとめたことで知られていますが、病院に早 く搬送されたことで得られた残りの人生をドクターヘリの普及に捧げておられます。私が現役の官僚だった頃、拙著の「競争も平等も超えて」をたまたま書店で 手にされて、私の考えにご共鳴いただいたことから私を訪ねて来られ、以後、何かとご指導をいただいています。
その国松さんから、ドクターヘリの搬送費用を診療報酬に入れることなど、かつて超党派の議連で決議した内容に即して政府がきちんと対応していないのではないかというお話を聞き、政府に質しておくべきだと考えました。
ドクターヘリの意義は数えきれません。救命率の向上、予後の改善、後遺症の激減、広域救急医療圏の確立、医療機関集約化の促進、地域格差の是正だけでなく、全体的な医療費の削減にも寄与するものです。
以下の質疑については、国松さんからは、ドクターヘリのことがこれだけ本格的に国会で取り上げられたのは初めてのことであるとのお言葉をいただいています。

●ドクターヘリのランニングコストを医療保険の対象に。
(松田)平成19年に議員立法で「ドクターヘリ特別措置法」が成立し、その附則ではドクターヘリを用いた救急医療の提供に要する費用のうち診療に要するも のについて、この法律の施行後3年を目途として、国は診療報酬の対象化も含めた検討を進めることと規定されている。また、超党派のドクターヘリ議連による 同趣旨の決議が出されているにもかかわらず、これまでほとんど検討された形跡が認められない。
ドクターヘリのランニングコストは年間で概ね2億円とされ、現状では、国が半分ぐらい出して、残りのかなりの部分を特別交付税で面倒を見ているということ で、財源面では国や自治体が主導権を握っている。志のある病院の判断で自主的な導入を促進していく上では、やはり診療報酬の対象にしたほうが良いという議 論がある。現に、ドイツやスイスなど、ドクターヘリの配備密度が高い国ほど、その経費負担は医療保険で賄っている。
また、ドクターヘリを使うと、救急車に比べて入院日数も入院点数も大幅に削減されるという試算もあり、医療財政にも大きく貢献する。現在日本では43機導 入されているが、もし、ドイツ並みに全国をカバーするとした場合でも(80機必要)、国民1人当たりで大体年間130円程度とされており、これは財診療報 酬全体の0.04%程度の金額である。
搬送費は診療の不可欠の前提であり、診療と一体のもの。それも含めて医療保険で面倒を見るべきなのではないか。
(田村大臣)私も議連の役員であり、そのような議論もさせて頂いたが、やはり保険者にも色々なご議論があり、難しいということで助成をしながら対応してい るところである。ただ一方で、救急搬送の診療料などに関して、附則も踏まえて引き上げをするなどの措置をさせて頂いている。
言われるとおり、ドクターヘリがさらに必要なところに増えて、全県配備されていけば、救われる命が確実に増えると期待をしている。議連のメンバーの一人としても、そういう思いの中で御質問にお答えをさせて頂く。

●配備の促進へ、15分ルールの法制化を。
(松田)ドクターヘリが一機体制の県にとっては、重複要請があった場合に十分応えられないこともあるので、できれば複数機のドクターヘリが配備されるべき と考えるが、この対策の一つとして、ほぼ全ての都道府県に最低1機配備されている消防防災ヘリを併用活用していくことが考えられるのではないか。
(赤石清美・厚生労働大臣政務官)
厚労省としても、必要に応じて消防防災ヘリも活用し、傷病者の搬送を効果的に進めることが重要と考えている。消防防災ヘリについては、平成24年度におけ る救急出動が3,246件と、全出動の5割以上となっており、必要に応じて、医師の同乗のもとで消防防災ヘリの活用が図られていると認識している。
また、厚労省としては、ドクターヘリの要請が重複した場合等に備え、ドクターヘリ及び消防防災ヘリの要請を受ける窓口を一本化し、一体的かつ効率的な運用 をしている事例を情報提供するなどの取り組みを行っている。引き続き、消防庁とも協力しながら、より効果的な傷病者の搬送が進められるよう、取り組んで参 りたい。
(松田)ドイツでは救急要請の通知を受けてから治療を開始するまでの時間(レスポンスタイム)が15分ルールとして各州で法制化されている。救急車であれ ば時速50㎞で走っても1時間を要する50㎞地点を、時速200㎞のドクターヘリだと15分で飛んで行けるため、それだけ救命率が上がることになる。日本 でも同じようなルールを法制化すれば、半径50㎞でコンパスを回したときにカバーできない地域があれば、配備せざるを得なくなる。計画的なドクターヘリの 推進、地域住民の安心といった点で効果がある。
同等の医療サービスを受けるのは住民の権利であるという考え方が背景にある。ちなみに、英国では8分、イタリアでは都市部は8分、米国のシアトルでは「777ルール」と言って、現場到着7分以内、初療終了7分以内、病院搬送7分以内がルールである。
(赤石・大臣政務官)日本航空医療学会による平成24年度の調査では、ドクターヘリ要請から現場着陸までは平均16分であると承知している。また、昨年 11月には、災害時などの緊急時において、消防機関からの依頼を待つことなく、迅速にドクターヘリを現場に着陸させることができるよう、運用の改善を図っ たところである。

●災害時の活用とパイロットの確保。
(松田)東日本大震災の時にはドクターヘリが大活躍をした。しかし、国が定める防災基本計画にはドクターヘリについての記載がない。近い将来、首都直下地 震とか東南海大地震などが予想される中で、ドクターヘリを防災基本計画に位置づけて、それを例えば防災業務計画や地域防災計画にブレークダウンしていくこ とが必要ではないか。
同時に、大規模災害時にドクターヘリを統一的、機動的に運営していくために、消防防災ヘリの場合は消防組織法に基づいて消防庁長官が出動指令をするという体制ができているが、ドクターヘリも同様な法的な仕組みが必要ではないか。
(田村大臣)今まで、東日本大震災のような大規模な災害のときにドクターヘリの運航をすることについてのルールというものが何もなかったが、昨年の11月 に、国の要請で各都道府県に対してドクターヘリを出して頂けるような、そういう派遣要請ができるようにしたところである。
(松田)議連の決議内容でいまだ十分に実現されていないものとして、将来、不足が懸念されているドクターヘリパイロットの確保について、現在の検討状況はどうなのか。
(赤石・大臣政務官)操縦士の養成、確保については、これまでの各運航事業者を中心とする取り組みのほか、防衛省の再就職支援による退職自衛官の活用や、 国土交通省による、民間運航事業者が実施する養成への技術的な支援が行われていると承知している。厚労省としても、引き続き関係省庁とも協力しながら、ド クターヘリの安定的かつ効果的な運用が図られるように支援をしてまいりたい。

●医療における共助のモデルづくりを。
ドクターヘリの問題をあえて取り上げたのは、例えばスイスなどでは、民間の寄附によって賄われている部分が相当程度あり、人口の30%程度が年間30フラ ン(3,000円程度)の寄附をすることで無償での提供を受けられるというように、民間の志というものをうまく医療システムに活用するモデルになるからで す。
日本では1,600兆円の個人金融資産の大半を高齢者が持っていますが、亡くなった後、財産を天国に持っていけるわけではありません。思い入れのある地域 のため、地域の救命率を上げるために、自らの資産を生きたおカネとして活用していこうという方は、日本にもたくさんいらっしゃるはずです。
そのような意味で、ドクターヘリのランニングコストも医療保険の対象にして、自己負担分については、そのようないわゆるパブリックな仕組みによって志で賄 われる部分を創っていくのが、これからの医療の財源を確保していく上でも重要なモデルになると思います。ドクターヘリは大変わかりやすい事例といえます。
政府も法案を出していますが、地域医療に対して地域の資源を活用していく上で、日本はいろいろなモデルを創っていかなければならないと思います。その面でのさまざまな知恵を出す必要があることを厚労大臣に申し上げて、質疑を締めくくりました。
超高齢化社会にあって持続可能な医療を組み立てることは、現下の日本の最大の課題の一つです。そのカギを握るのが地域医療の強化です。その上で、今回は2 つのテーマを国会で取り上げました。今後とも多くの医療関係者の皆さまからお知恵を賜りながら、日本の課題解決に政治の場で取り組んでいく所存です。

<ご参考>
経済財政や安倍総理の改革への姿勢を問うた、本年の予算委員会での私の基本的質疑については、こちら↓をご覧ください。

http://matsudamanabu.jp/archive2014/2014-0213-yosan.html

昨年の予算委員会分科会では、アスベスト問題を取り上げて石原伸晃・環境大臣に質疑をいたしましたが、その模様についてはこちら↓を、ご覧ください。

http://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-11515720779.html

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