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Vol.74 男性が接種しても利点多い、子宮頸癌ワクチン

医療ガバナンス学会 (2014年3月24日 06:00)


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※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/

滋賀医科大学医学部5回生
山本 佳奈
2014年3月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン)に対する接種の副作用が社会の関心を集めている。2009年にワクチン接種が開始されてから、注射部位の腫れや痛み・しびれ・関節痛を訴える報告が相次いだからだ。報告数の累計は956件にも上る。
一連の副作用報告を重視した厚生労働省は、昨(2013)年6月に接種勧奨を中止し、時間をかけて副作用対策を議論してきた。1月20日、厚労省の検討会は一連の議論をまとめ、副作用の多くは「接種による痛みや不安に対する心身の反応が引き起こしたもの」と結論づけた。

●医学的に確立しているワクチンの有効性
これを受けて、厚労省は接種勧奨を再開する予定だと言う。果たして、このまま接種勧奨を再開してもいいのだろうか。私は、もう少し議論が必要だと思う。
まず、HPVワクチンの有効性について説明したい。世間では、様々な意見があるようだが、このワクチンの有効性は、ほぼ医学的に確立していると言っていい。
HPVは子宮頸癌の原因だ。HPVは性交渉により感染するため、我が国では20代から30代の女性を中心に毎年1万5000人が罹患する。現在、我が国で は、グラクソ・スミスクライン社の「サーバリックス」と、MSD社の「ガーダシル」の2種類のHPVワクチンが承認されている。
英国で実施されたPATRICIA試験では、健康な15歳から25歳の女性1万6162人を2群に分け、AS04アジュバンドを含むHPVワクチンとアル ミニウムアジュバントを含むA型肝炎ワクチン(対照群)を接種したところ、34.9カ月の間に子宮頸癌を発症したのは、HPVワクチン接種群で1人、対照 群で53人だった。実に、子宮頸癌のリスクを98.1%減らしたことになる(1)。
HPVワクチンの問題点は2つある。1つは費用だ。通常、HPVワクチンは3回接種しなければならず、自己負担の場合、総額4万5000円前後もかかる。 HPVワクチンが、2013年から予防接種法に基づく定期接種となり、小学校6年生から高校1年生の女子は全額公費で接種できるようになったことは、国民 にとってありがたい話だ。
これ以降、接種者は急増し、日本におけるHPVワクチン接種率は2012年で約67%、販売開始から2013年3月末までの接種者数は258万人に上る。
実は、私もHPVワクチンを接種した。ワクチン接種が始まってすぐ、子宮筋腫に苦しんだ母に、接種すれば子宮頸癌にならずにすむと説得されたからだ。同じ頃、大学の友人も、徐々に接種するようになった。
HPVワクチンを打った時、痛みが強かった記憶がある。痛みは、体に様々な悪影響を及ぼす。予防接種に限らず、注射や採血の際の痛みが迷走神経を刺激して、失神する人がいる。
なぜそうなるのかと言うと、注射や採血の際の痛みにより、交感神経が活性化され、血管が収縮し、血圧が上がるのを、副交感神経が抑えようとするからだ。
副交感神経の働きが強すぎると、逆に血管が拡張し、血圧が下がりすぎることで、眩暈や吐き気が生じ、稀に失神してしまうこともある。これを迷走神経反射という。古くから知られた反応だ。

●痛みや恐怖を感じやすい年代に限定した接種
1948年に米国で始まったフラミンガム(Framingham)研究によると、15歳前後と70歳以降に生じやすいことが分かっている。つまり、これまで我が国では、痛みや恐怖といった心理的要因よる問題が生じやすい年代に限定して、ワクチン接種していたことになる。
果たして、この年代にあえて接種する必要があるのだろうか。
世界を見てみると、HPVワクチンの対象年齢は9歳から26歳の女性まで幅がある。2007年から2008年に行われた National Survey of Family Growth の調査によると、HPVワクチン接種率は20~24歳の女性は15.9%であったのに対して、15~19歳の女性は30.0%であった(2)。何が何で も、中高生に打たねばならないという医学的な理由はない。
性交渉のパートナーが増加するのは高校卒業以降だ。2010年の国立・社会保障人口問題研究所の調査によると、18~19歳の未婚男女のうち性交渉の経験があるのは、それぞれ26%、28%だったが、20~24歳になると、それぞれ56%、55%に急増していた。
性交渉の有無を重視するのであれば、成人になってから接種しても遅くない。その年齢なら、予防接種のリスクとベネフィットを、自分で判断できるはずだ。
この際、HPVワクチン接種の公費助成年齢を、12歳から20歳に拡張してはどうだろうか。
さらに、HPVワクチンの接種は女性に限定する必要はないのかもしれない。性交渉を通じ、女性にHPVを感染させるのは、大部分の場合、男性だからだ。風 疹対策が成功している国では、風疹ワクチンを男女のいずれにも接種している。集団免疫の観点から考えれば、男性にも接種することが望ましい。
男性にHPVワクチンを接種するメリットは、それだけではない。男性の健康向上に寄与する可能性もある。
最近の研究により、HPVは子宮頸癌だけでなく頭頸部癌との関連も証明されている。オーラルセックスを介して、喉の粘膜細胞に感染したHPVが周辺の細胞 を癌化するためだ。英国の調査によると、オーラルセックスの頻度が、25歳から34歳の女性では79.7%、男性では80.0%であった(3)。
また、HPV陽性の頭頸部癌が近年急増しており、1985年の16%から2025年には90%にまで達すると推定されている(4)。HPVワクチンの頭頸部癌への予防効果については、今後の研究が必要だが、HPVワクチンの効果が期待できそうだ。

●頭頸部癌や肛門癌を予防できる
肛門癌も、HPVワクチンで予防できる可能性がある病気だ。近年、男女ともにHPV感染による肛門癌が増加している。特にゲイの男性で増えている。これは、将来大きな公衆衛生上の問題となり得る。
米カリフォルニア大学(サンフランシスコ校)のパレフスキー(Palefsky)医師とジウリアノー(Giuliano)医師らの研究は、HPVワクチン 接種により、HPV6・11・16・18型により感染したグレード2または3の肛門上皮内癌の割合を74.9%減らし、肛門内へのHPV6・11・16・ 18型の感染のリスクを94.9%減らすことを示している。
HPVワクチンは、肛門癌の予防に有用そうだ。つまり、HPVワクチンを接種することは、パートナーへHPVを感染させないだけでなく、男性もHPV感染による頭頸部癌や肛門癌を予防できるメリットもあるのだ。
あらゆる議論を通じ、HPVワクチンの副作用に痛みや心理的ストレスが関与していることが明らかとなり、さらにはHPVが頭頸部癌をも引き起こすことも分 かった。接種勧奨を再開するのであれば、HPVワクチンの接種時期の変更と男性への接種を検討してみてはどうだろうか。今後の議論がさらに踏み込んだもの となることを期待したい。

≪参考≫
(1)J Paavonenet et al. Efficacy of human papillomavirus(HPV)-16/18 AS04-adjuvanted vaccine against cervical infection and precancer caused by oncogenic HPV types (PATRICIA):final analysis of a double-blind,randomized study in young women,Lancet,2009,Vol374,301-314
(2)Nicole C.Liddon,PhD et al. Human Papillomavirus Vaccine and Sexual Behavior Among Adolescent and Young Women,American Journal of Preventive Medicine,Volume 42, January 2012 ,44-52
(3) Catherine H Mercer et al. Changes in sexual attitudes and lifestyles in Britain through the life course and over time:finding from the National Surveys of Sexual Attitudes and Lifestles(Natsal),Lancet,Vol 382,30 November 2013,1781-1794
(4) Megan Scudellari. HPV:Sex,cancer and a virus,Nature,503,21 November 2013,330-332
(5)Joel M.Palefsky,M.D et al. HPV Vaccine against Anal HPV Infection and Anal Intraepithelial Neoplasia, The New England Journal of Medicine,365,October 27,2011,1576-1585

【略歴】滋賀医科大学医学部5回生、四天王寺高校卒業

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