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Vol.100 臨床研究不正関与事件ノバルティス社外調査委員会の調査報告書:後編

医療ガバナンス学会 (2014年4月22日 06:00)


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ノバルティス社と東大病院、危機対応時に現れる実力

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/

関家 一樹
2014年4月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


この記事は「病院に出入りしているMRは景品表示法違反!?(臨床研究不正関与事件ノバルティス社外調査委員会の調査報告書:前編)」の後編ですが、独立した記事としてお読みいただけます。

●はじめに
4月2日、製薬会社のノバルティス社は『「慢性骨髄性白血病治療薬の医師主導臨床研究であるSIGN研究に関する社外調査委員会」のご報告を受けて』と題して一通の調査報告書を公開した。
この報告書は今年1月から報じられている、東京大学医学部附属病院(以下「東大病院」)血液内科と同病院に事務局を置く研究会組織 Tokyo CML Conference(以下「TCC」)が主導して行った、白血病治療薬タシグナに関する医師主導の中立的臨床研究「SIGN研究」に、当該薬の製造元で あるノバルティス社が不正に関与していた問題につき、同社が独自に立ち上げた社外調査委員会が作成したものだ。
報告書は96ページにわたる大部であるが、一般的に問題となるであろう法令や問題点を列挙した上でSIGN研究の事案に適用し判断しているため、全ての製薬会社とMR(医薬情報担当者)が病院や臨床研究に関わる上で参考になる内容となっている。
前編では、この調査報告書の注目点や新たに浮上した問題を解説した。この後編では、この調査報告書と先行する3月14日になされた東大病院の中間報告との比較、社外調査委員会や調査報告書自体の検討、4月3日に行われたノバルティス社の記者会見、を取り上げていく。

●東大病院の中間報告との比較
SIGN研究については、4月2日に公開されたノバルティス社外調査委員会の調査報告書に先立ち、3月14日に東大病院の予備調査委員会が中間報告を行っている。
そこで両報告を比較し検討する。

●ノバルティス社の社外調査委員会の東大病院に対する恨み節
SIGN研究に関しては現在東大病院側でも予備調査委員会が調査を進めている状況である。そこでノバルティス社が組織した社外調査委員会と、東大病院側が時間稼ぎと口裏合わせをするのではないかとも考えられた。
しかし報告書を見る限り、そうした行為は行われていないものと考えられる。
「東大病院が公表した2014年3月14日付「慢性期慢性骨髄性白血病治療薬の臨床研究『SIGN研究』に関する国立大学法人東京大学 特別調査 予備調査委員会(中間)報告」(以下「東大病院中間報告」という)によれば、東大病院による突合の結果、ノバルティス社による研究データの改ざんは確認さ れなかった模様である(なお、当委員会として東大病院に突合作業に関する情報提供を求めたが、詳細は開示されなかった)」(略語につき筆者修正、以降同 様)
以上のような一文がある上、以下で検討していくがこの報告書は東大病院の中間報告にとって都合の良い内容ではないからだ。
報告書のできを見る限りではノバルティス社の社外調査委員会の方が、東大病院の予備調査委員会よりも何枚か上手である。
ここからは推測であるが東大病院の方はノバルティス社の調査にコミットしたかったが、ふられたのではないだろうか。利益相反や関与形態など東大病院の調査と一致しない点がこの報告書に多いことからもうかがえる。
むしろノバルティス社の社外調査委員会が本格的な調査をしていることを知った東大病院は、ノバルティス社の社外調査委員会に情報の提出をせず、自分たちの 最終調査報告を後にしようとしたのではないか。うかつに東大病院側が最終報告を出してしまうと、このノバルティス社の社外調査委員会の報告書と矛盾してし まいそこを指摘される可能性があるためだ。

●役務提供と利益相反
SIGN研究では利益相反について「倫理委員会の承認時」「患者の臨床研究参加同意取得時」「学会発表時」に説明がなされており、いずれも「利益相反がない」と述べられていた。
東大病院の中間報告では、MRの役務提供が利益相反に当たるかについては一切触れられておらず、極めて不自然な学会発表時の規約をもって、全体に「利益相反はなかった」と結論づけている。
他方この報告書では既に見たとおり、役務提供が利益相反にあたるかを検討した上で、MRの関与につき患者さんに開示されるべきであったとしている。そして 患者さんに虚偽の説明をしてSIGN研究に参加させた点につき、最終的に責任を負うのは医療機関の側としつつも、責任の一端がノバルティス社にあることを 認めている。
したがって両報告では利益相反の有無について見解が異なっている。

●個人情報の流出
個人情報の流出について東大病院の中間報告では、患者ID全件の流出を重視して個人情報流出があったと発表していた。
他方でこの報告書では「患者IDは医療機関にとっては個人情報そのものであるが、外部の者はIDのみをもって患者個人を特定することは困難であるから、外 部の者にとって直ちに個人情報に該当するものではない」として、患者IDそのものが個人情報と言えるのかには慎重な姿勢を示している。
むしろ患者ID以前の、アンケート記載のイニシャル・性別・年齢等の個人情報と病院内を出入りするMRのリサーチにより、個人情報の不正取得を行ったものと評価している。
したがって両報告において何を個人情報として評価しているのかは微妙に異なっている。

●東大病院血液内科の黒川教授がどこまで関わっていたか
東大病院の中間報告では臨床研究が進められる過程で、ノバルティス社との関わりを持っていたのはもっぱらA医師(報告書では「医師B」と記載されている が、報告書内の「医師A」を「黒川教授」と記載する都合上、この記事ではA医師とする)であり、研究代表者の黒川教授は研究の中心となっているTCCにノ バルティス社が関わっていることは認識していたものの、昨年12月に同社MRがアンケートの運搬をしていたことを知ると、SIGN研究を中断するよう判断 した、ということであった。
まず黒川教授がTCCの代表世話人であることは客観的な事実として認められる。
そしてこの報告書ではそのTCCはノバルティス社が丸抱えする組織であったと結論づけている。したがって黒川教授はSIGN研究に当初からノバルティス社のMRが深く関与していたことを認識・認容していたと考えるのが自然である。
そしてノバルティス社のMRと東大病院血液内科で黒川教授の部下に当たるA医師が共同で作成したプロトコールは、以下のようにノバルティス社のイベントの合間に黒川教授とA医師から発表されている。
「完成したプロトコールは、2012年5月10日、Tokyo Hematology Meeting の演目の合間の時間を使って、黒川教授およびA医師から発表された。この Tokyo Hematology Meeting はノバルティス社が主催したものであった」
この事実からも黒川教授自身が当初からノバルティス社と積極的に関わっていたことが認められる。
一方、東大病院の中間報告によると黒川教授は昨年12月にノバルティス社のMRがアンケートの運搬をしていたことを知ると、SIGN研究を中断するよう判断したとして、黒川教授が研究への不正関与に対応したとの評価をしている。
このような東大病院の中間報告のストーリーは、この報告書で示されている事実からすると違和感を覚える。以下根拠となる部分の引用である。
「A医師は、2013年3月頃、後記第2章3.(2)の抄録案作成の経緯において参加施設から研究事務局に直接FAX送信されたアンケート用紙等のコピー がMRⓐに交付されていることを知った。もっとも、A医師が、前記(10)のアンケート用紙等の運搬や研究事務局からのアンケート用紙等のコピー交付によ り、患者の情報がMRⓐを介してノバルティス社に流出している状況を認識した後も、MRⓐ、研究事務局担当者あるいは参加施設への注意等、情報の流出を阻 止する特段の手立ては講じられなかった」
「2013年の年末頃、多数のMRおよびMSAが、SIGN研究についてマスコミが取材していることを察知し、証拠隠滅のため、SIGN研究関連の紙媒体 の資料または電子ファイルを自宅に持ち帰ったり、削除したりした。証拠隠滅としての資料の持ち帰りや削除等が本格化した時期は、2013年12月24日頃 以降と考えられる」
「ノバルティス社は、2014年1月7日、上記のNHKの参加施設への取材活動を契機として、SIGN研究にノバルティス社の複数の従業員が関与している 可能性があることを知り、情報を収集および整理し、同月17日、ノバルティス社の従業員のSIGN研究への関与の有無およびその態様について社内調査を開 始した」
つまり黒川教授の部下であるA医師はMRによるアンケートの運搬を2013年3月頃には認識していた。これに対して東大病院の中間報告で黒川教授が研究中断を判断したとする同年12月に起きていた出来事は、NHKの取材によるノバルティス社の証拠隠滅の開始である。
そして別の資料から判明している、参加施設に研究中断が通知された2014年1月10日は、ノバルティス社自身が不正関与を知った日以降ということになる。
以上のこの報告書が認めている事実からすると、研究代表者としての黒川教授がノバルティス社のMRによるアンケートの運搬を理由として昨年12月にSIGN研究を中断した、との東大病院の中間報告で示されたストーリーはにわかに首肯し難いのである。

●SIGN研究以外の東大病院の臨床研究に対するノバルティス社の不正関与件数
東大病院の中間報告では、東大病院において行われたすべてのノバルティス社の医薬品に関する臨床研究につき調査したところ、対象となった研究の件数は28 件で、そのうちSIGN研究を含めた5件においてノバルティス社の不正関与があり、その5件はいずれも今回のSIGN研究を主導した東大病院の血液内科に よるものであったとのことである。
つまりSIGN研究以外に、あと4件ノバルティス社が不正関与した臨床研究があるということになる。
これに対してこの報告書では「TCCは、造血器腫瘍の診療の発展に貢献し、特に造血器腫瘍のCML治療に対する問題点や最新の知見などを共有化することを 目的として2008年7月25日に設立された医師の研究会である。TCCの事務局は東大病院の血液・腫瘍内科学教室に設置される。SIGN研究の症例登録 期間当時のTCCの代表世話人は、東大病院の黒川教授であった。これまでのTCCの主な活動は、年1回のノバルティス社との共催による造血器腫瘍に関する 講演会の開催および臨床研究である。TCCでは、従前、SIGN研究以外に3件の臨床研究(中止になったものを含む)を行っているが、いずれもノバルティ ス社が製造販売するTKIを対象とする臨床研究であった」としてTCCにおいてSIGN研究以外に3件臨床研究が行われている事を述べるにとどまってい る。
したがってTCC以外の臨床研究の件数については、まだノバルティス社側からは明らかにされておらず(今後同社は調査を行う予定)、SIGN研究以外のTCC分を含めそれが不正関与に当たるのかの評価についてもまだ行われていない。
このようにノバルティス社と東大病院の、SIGN研究以外の他の臨床研究に対する不正関与については、両者の報告内容が最終的には整合する可能性があるものの現段階では微妙に異なる状況である。

調査体制の検討
●社外調査委員会について
調査報告書内でノバルティス社が今回調査を依頼した社外調査委員会のメンバーが公開されている。
「委員長:原田國男(弁護士・田辺総合法律事務所、元東京高裁部総括判事)、委員:大澤孝征(弁護士・大澤孝征法律事務所、元横浜地方検察庁検事)、委 員:近藤純五郎(弁護士・近藤社会保障法律事務所、元厚生労働事務次官)。調査の実施においては、調査補助者として、田辺総合法律事務所の弁護士28名が 関与した。また、電子データの整理・復元について、外部のフォレンジック業者(AOSリーガルテック株式会社、株式会社UBIC)の支援を受けた(後記 2.(2)参照)」
委員はいずれも弁護士であり、かつ元職において裁判官・検察官・厚労省事務次官と、法曹三者+行政を全て揃えた構成になっている。また下で働くスタッフ28人も弁護士という極めて豪華な布陣だ。社外調査委員会にかかった費用はおそらく数千万円規模であろう。
ノバルティス社と社外調査委員会は別組織である。もっとも社外調査委員会はあくまで会社が任意で依頼し費用を支払う関係にあるため、その実態はピンキリだ。
悪い社外調査委員会の場合だと、委員自体に調査の熱意が無く会社も調査に協力しない場合がある。会社からの独立性が不十分だと、会社を擁護するだけの調査 をしたり、社外調査委員会自体が証拠隠滅に協力することになるパターンもある。また刑事捜査やマスコミへの時間稼ぎや口裏合わせ機関とされる場合もある。
今回のノバルティス社の社外調査委員会は、内容についてかなり広範かつ深く掘り下げたうえで、客観的に見ても公平と言える立場からノバルティス社の行動に ついて評価していると言えるだろう。この点については率直にSIGN研究の調査を社外調査委員会の調査に任せ、また自らも調査に協力したノバルティス社を 評価できる。
したがって今回のノバルティス社の社外調査委員会は成功例と言ってよく、今後の同様事例の参考になるだろう。もっとも、これだけ重厚な調査を行える社外調 査委員会を組織するには、先述の通りかなりの予算が必要である。社外調査委員会が成功するかどうかは、会社・委員の姿勢と同時に、資金力に依存する側面が あることは否定できないだろう。

●調査報告書の内容と信憑性
内容については全体的に非常に広範かつ緻密に調べているとの印象を受けた。
社員の主張を単純に信用せずに、証拠と相互の証言から信用性の判断を行っている(いわゆる裁判的手法を採用している)点は高く評価できる。すなわち、なぜこの発言が信用できるのか・できないのかが、理由を持って述べられているのである。
また調査報告書内で述べられている「事情聴取を行った後は、原則として聴取結果を報告書にまとめ、対象者にこれを閲読させたうえで署名捺印させた」との手法は刑事手続きを連想させるが、後々の訴訟を見据えての証拠保全としては有効な手法だろう。
他方で限界もあったようだ。「ノバルティス社の規則上、メールデータは原則として60日しか保管されないため、問題行為が行われた期間の電子メールが殆ど 残っていなかった」とのことから、東大病院を含むメールを受信した側での調査が、今後の実態把握に当たっては重要となってくるだろう。

●ノバルティス社の社外調査委員会のメンバーが下した判断の意味
今回の調査報告書では、MRの役務提供が景品表示法に違反する可能性があるという指摘、医薬品の広告において薬事法以外に不正競争防止法と独占禁止法も問題になるとの指摘、など複数の法律的な指摘と判断がなされている。
既に確認したようにノバルティス社の社外調査委員会の委員はいずれも弁護士であり、かつ元職において裁判官・検察官・厚労省事務次官と、司法と行政におい ていずれも処分権限を持っていた人たちである。このことは今回の社外調査委員会の委員の判断が、司法判断や行政判断になる可能性が有るという事を意味して いる。
これは検察官であれば起訴することができ、裁判官であれば判決を下すことができ、行政官であれば処分することができる、ということである。
今回のSIGN研究が訴訟や行政処分に発展するのかはまだ未知数だが、先述の通りこの調査報告書は製薬会社の様々な活動と医療機関の臨床研究に妥当する内 容となっている。したがって今後、他の事案でこの調査報告書で指摘されている法律問題が展開していくことも十分に考えられる。

●東大病院側の予備調査委員会の問題点
ノバルティス社側の調査報告書が出たので、ここで東大病院側の調査体制を振り返って比較してみたい。
3月14日付の「東京大学『SIGN研究特別調査 予備調査委員会中間報告書』」では「特別調査委員会と予備調査委員会の設置」として「2 月19日、総長の判断により、大学本部に特別調査委員会を、医学部附属病院にその予備調査委員会を設置することが決定された」として現在は予備調査委員会 が活動しているとの報告がなされた。
この予備調査委員会は東京大学の内規に従って設置された東大病院の内部調査であり、委員の構成や氏名も現在のところは明らかにされていない。また3月14 日の中間報告の記者会見の際、今後の予定や調査の目途に関する質問に対して、文部科学省からの天下りである竹田幸博事務部長が「一切未定」と答えている状 況だ。
ノバルティス社が当初から一元的な社外調査委員会を組織し、委員名も公表し、日程の目途も付けて調査を行い、既に調査結果を受け取っていることに比べると雲泥の差である。
そもそも予備調査委員会と特別調査委員会の権限分配が、内規上は明らかなのかもしれないが、はたから見ているとよく分からない。
日程や処分の目途などを確認しようにも、大学本部の特別調査委員会の概要が明らかにされていない以上、確認のしようがない。記者会見で竹田事務部長はたびたび「上で決める」と発言していたが、決めてくれる上がどこにあるのかさえ分からないのだ。
この問題については、制度設計自体は悪くないのだが運用に問題があると考える。すなわち役割分担は責任転嫁と堕し、本来迅速性を求めるシステムを利用して物事を遅延させている。したがってシステムの変更ではなく、趣旨に沿った正しい運用を求めたい。
内容については既に他の記事で指摘させていただいているが、評価できる点もあるが全体として不合理な部分もあり、今回のノバルティス社の調査報告書に比べ れば、身内である東大病院に甘い、そして立場が下の人間にばかり責任を押し付けようとしている思惑が見て取れる。もっとも東大病院側はあくまで中間報告で あるので、この点は最終報告に期待したい。

●調査報告書の利用方法
ノバルティス社は粛々とこの調査報告書に従って、処分や改善を進めていけばいい。何が問題でどのように改善されるべきかが調査報告書内で具体的に指示されており、社外調査委員会にカネをかけたことによってノバルティス社は今後の活動がかなり楽になったと言えるだろう。
また訴訟になったとしても、基本的にはこの調査報告書の範囲内で物事が展開していくことが予想される。つまり争いになった場合もノバルティス社自身がある程度先の展開を予想でき、和解などを含めた早急かつ戦略的な解決が可能となってくる。
逆に東大病院側としてはこの信頼性の高い調査報告書の登場によって、この調査報告書と異なる事実の主張が難しい状況になっている。最終報告の作成にあたってはこの調査報告書に引きずられる形になるのではないだろうか。
そしてこの調査報告書の利用はノバルティス社だけに止まらない。最初に指摘したようにこの調査報告書の内容は、他の不正関与をしているであろう製薬会社に も妥当する内容がほとんどだ。多くの製薬会社や臨床研究を行っている機関はこの調査報告書を参考にすることで、何が問題なのかどう改善すべきなのかを発見 することができる。今後の積極的活用を期待したい。

●ノバルティス社の記者会見を受けて
4月3日にノバルティス社は前日に社外調査委員会から提出された調査報告書を受けて記者会見を行った。
まずSIGN研究に対して不正関与をした社員の処分と、日本法人の役員の交代を早々に決定している。ノバルティス社はどうやら調査報告書を実行していく腹があるらしい。
そして注目したいのは、ノバルティス社が2011年以降に行われた自社が関わる臨床研究をすべて調査するとしている点である。
記者発表でノバルティス社自身が「調査によって、他の医師主導臨床研究の問題が明らかになる可能性があると考えています」と述べており、調査報告書内での指摘からも明らかなように、今後SIGN試験と同様の臨床研究への不正関与事案は多数明らかになるだろう。
もっともノバルティス社はこれで膿を出し切り、脛に傷を持つ人間を経営陣からなくすことで、安心して新経営陣の下、他の製薬会社や不正な臨床研究を行っていた医療機関を攻撃することができるようになる。
他方で東大病院の側は、依然として製薬会社とのつながりの深い人物として知られ、SIGN研究が問題となっている時でさえ、製薬会社のイベントに出演していた門脇孝病院長がトップとして残留している状況だ。
もちろん東大病院側はまだ予備調査の中間報告の状況であるから、最終的な報告を受けて処分が行われる可能性はある。しかしノバルティス社側が既に処分まで 到達してしまった以上、「現状での報告の出来」そして「調査のスピード感」で東大病院は大きく水をあけられてしまっている。
問題が発生した時にこそ、多額のカネをかけて自社に厳しい内容で徹底的な調査を行い、調査結果に従って速やかに人事や内部体制を構築するというのは、いわゆる外資系のステレオタイプであるが、やはりこれは有効な危機対応と言えるだろう。
脛に傷を持つ人間が残っていては、自らの傷を押されるのを恐れて、上への改善提案と、下への統制というガバナンスの基本をすることができない。
ノバルティス社のこの記者発表によって眠れなくなった研究者も多いかもしれない。
多かれ少なかれどこの製薬会社でも行われているであろう臨床研究への不正関与が、日本中の製薬会社で違反事例として火を噴く可能性もある。
ノバルティス社は今まさにパンドラの箱を開けようとしている。
もっとも、最初にパンドラの箱を開け切った者が、最初に希望を手に入れることができるのだろう。

【略歴】
1986年東京生まれ。2009年3月法政大学法学部卒業。現在は企業で法務担当

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