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Vol.101 南相馬市の高齢化問題について

医療ガバナンス学会 (2014年4月23日 06:00)


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雲雀ヶ丘病院
NPO法人 みんなのとなり組
堀 有伸
2014年4月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


震災後3年が経過した。平成24年4月に私が福島県南相馬市で暮らし始めてからも、2年の月日が過ぎた。
やはり、復興が進んでいるとは言えない。さまざまな課題が山積しているが、現場で動ける人の数は限られている。そのような状況であるから、今後は重要な課題に対して、優先順位を意識して実効的な介入を行う努力が必要となるだろう。
現在、行政の施策では広い面積で除染を行い、外部被ばくを低減化することが重視されている。しかし、地域に暮らすことを安心・安全で魅力的と感じ、事故を 起こした原子力発電所から近い場所に、これから定住する若者を増やすためには、除染の他にも取り組まれるべき課題が複数存在している。
その中の一つとして、地域の高齢化対策を指摘したい。

被災地の医療現場で働いているが、震災後に急速に進行した高齢化が地域のコミュニティーに与える影響の大きさを実感している。このことへの対策は喫緊の課 題である。南相馬市の人口は震災前には72000人弱であったが、平成23年3月29日前後に9000人程度にまで減少した。その後は徐々に回復し、緊急 時避難準備区域が解除された2013年の9月30日で、震災前の約3分の2に相当する48000人程度であった。その後も人口数は緩やかに増加を続けてい る。
その過程において、南相馬市で65歳以上が人口に占める割合で示される高齢化率は急速に増大した。平成23年3月11日で25.9%(18547人 /71561人)であったが、平成26年1月23日には住民基本台帳ベースで29.4%(19072人/64941人)、実人口ベースで33.2% (16485人/49664人)となった。

もちろん、地域に生まれ育った人々の地元への愛着は強い。しかしながら、その強さには年代によって差が生じている。特に高齢者ほど地元での生活を熱望する 人が多いが、若い世代では避難した先の土地での生活再建を選択する人も少なくはない。元来南相馬市では、一世帯に三世代6~7人の家族が暮らしていること が平均的だったという。ところが震災後には、高齢者夫婦が2人の世帯や、単身世帯も珍しくなくなった。
このことは、高齢者に認知症の悪化などの健康上の問題が生じた場合に、一気に生活が成り立たなくなるリスクが高い世帯が増加したことを示している。南相馬 市によると、要支援・要介護認定者数の合計は平成22年9月で2747人、平成23年3月に2613人であった。それが、震災後の平成23年9月には 3036人、平成24年9月には3327人に増加した。これをもとに市では、平成25年9月に3553人、平成26年9月には3666人になると推計して いる。
ここからは当然、介護施設の増床や介護ヘルパーの増員が必要となることが予想される。そして、建物の増設については不可能ではない。しかし、問題は人手不 足である。地域を支える介護の人員は震災で減少した。残った介護職員たちは震災発災から現在にいたるまで増加した業務への対応を続けている。そして今後に ついては、介護を必要とする高齢者の増加が予想されるにもかかわらず、地域で介護にかかわる人員が増加することは容易に期待できない。現在、南相馬市で施 設入所が急に必要になった高齢者が、市内の施設に入所するのはほぼ不可能な状況である。
この様子はメディアでも取り上げられた。平成26年3月4日には、NHKのEテレで『頑張るよりしょうがねぇ‐南相馬・瀬戸際の介護現場で‐』という番組 が放送され、介護施設が新設されても介護職員が集まらない様子が報告された。市は無料のヘルパー講習会を開く対応を行ったが、実際に施設に就職した人は少 数だったのである。
また番組では、認知症の妻の介護を行う85歳の男性が、介護の環境が整わない状況に憤り、抑うつ傾向のある妻を叱咤激励する様子が描かれていた。結局この男性は、自力で妻の介護を行うために、自分たちの家を新築することを決断した。

地元の精神科病院を、認知症の進行にともなう行動異常で新規に受診する患者は、減少することなく着実に一定の数を保っている。病歴をうかがうと、何段階かに分けて生活上の負担が重なり、その中で認知症を悪化させた場合が多い。
高齢者が震災で住みなれた家から仮設住宅などに移住した場合には、その影響が大きい。震災前の被災地の住環境は都会より明らかに恵まれていた。そこからの 移住は、単に場所を移動させて建物が狭くなっただけではない。農作業などを中心とした健康的な生活習慣が失われることであり、毎日のおしゃべりや情報交換 を楽しむ地域の仲間とのつながりが断たれることであった。震災前から同じ建物への居住を続けた場合でも、「周囲の人たちが避難してしまった」ことの影響を 受けることがある。
元来、高齢者では転居のような生活環境の変化への対応能力が限定され、そのこと自体が健康状態の悪化の引き金となりうる。そして、震災後に一般的な疾病を発症したり悪化させたりするケースも少なくない。脳血管障害を発症して、認知症が悪化するのは典型的であろう。
避難生活等の負担は大きく、災害関連死の増加と関連していると考えられる。平成26年2月19日まで、認定された福島県の震災関連死は1656人で、南相 馬市は447人である。Nomuraらは南相馬市の5つの高齢者施設を調査し、避難後の死亡率を避難前5年間の死亡率と比較して、2.68倍という結果を 報告した。
震災後の3年間で、自分の子ども世代や孫世代が避難を開始したり、家族が健康を害したり死亡したりして別離を経験したケースも存在する。そして、それをきっかけに認知症が進行することもある。

ここまで述べてきたように、南相馬市の高齢化問題は深刻である。そしてこれが放置された場合には、状況はさらに深刻化し、介護負担が大きい郷里に戻ることを躊躇する若年世代が増えることが予想される。
この状況がもたらす葛藤が、さらに当事者となった人々の苦難を増している。地元に残る人々は他地域に避難した人々に対して複雑な思いを持つことがある。避 難生活を継続している人、あるいは一時避難を行った人が、垣間見せる地元への罪悪感や申し訳なさの思いは、とても重く、苦しい。

復興は遠く、被災地の苦難は続いている。

新しい考えが求められている。地域の問題を、地元の人々の愛郷心と努力に過剰に頼って解決しようとするばかりでは、あまりにも当事者となった人々の負担が大きい。
地方の人口流出と人口の高齢化は、日本全体の問題である。そして、南相馬市のような被災地は、震災の影響で猶予なくその課題への対応を求められている。もはや「震災復興」という枠組みにとらわれ続けるべきではない。
日本社会が抱える問題に先進的に対応し、他の地域と客観的に比較しても魅力的な地域を構築していくこと、その困難な課題に取り組むことが求められている。これは言うは易く行うは難い、大変に困難な事業である。
日本中が一体となってそれに協力するべきだ。国家的な課題に対しての先駆的な取り組みのモデルが提示されることは、日本全体の利益にかなうことでもある。

≪参考文献≫
・NHK ハートネットTV:頑張るよりしょうがねぇ―南相馬市・瀬戸際の介護現場で―,シリーズ被災地の福祉はいま,2014年3月4日
・及川友好:福島第一原子力発電所事故による地域社会と医療への影響.保健医療科学 62(2), 172-181, 2013-04
・福島県南相馬市:改訂版 南相馬市高齢者総合計画 2012年
・福島県南相馬市健康福祉部:災害復興推進本部会議 2013年3月5日
・日本経済新聞:福島の震災関連死、直接死超す 避難長期化で1656人,2014年2月20日
・Nomura, S., Gilmour, S., Tsubokura, M et al.: Mortality Risk amongst Nursing Home Residents Evacuated after the Fukushima Nuclear Accident: A Retrospective Cohort Study PLoS ONE 8(3), 2013

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