医療ガバナンス学会 (2014年4月25日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2014年4月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
相馬市では2012年6月から検査が行われており、今回で4回目の公表になります。相馬市の検査は、市内の公立相馬総合病院と相馬中央病院で行われていま すが、今回は2013年4月〜2014年1月末までに検査を受けられた6981人(16歳以上4398人、15歳以下2583人)の結果が対象です。
引き続き、日常生活上の内部被曝は低く抑えられています。図1-1、図1-2にあるように、セシウムが検出限界以下に抑えられている率は高校生以上で 98.5%、中学生以下で99.9%でした。1日数Bqのセシウムをとり続けているというような状況ではなく、あったとしても体内に含まれる放射性カリウ ムより1桁以上低く、年間で胸のレントゲン1枚の数分の一以下です。日本人が他国に比べて多い、ポロニウムからの被曝(魚介類などの摂取によっておこりま す)からも一桁以上低い状況です。
日常生活で野菜を多く食べる日や、魚介類を多く食べる日があると思います。野菜を多く食べれば、放射性カリウムからの被曝量が増え、魚介類を多く食べればポロニウムからの被曝量が増えます。
現状の値だけで言えば、セシウムからの被曝はあったとしても、この日常の食生活が変化することによって変わる(揺らぐ)被曝量の中におさまっています。ほとんどの人において、(100mSvではなく)「1mSvどうこう」という議論さえ不要です。
とはいえ、検出限界は250Bq/body程度で、年間1mSvに到達する数万Bq/bodyと比較されても良いと思います。検出限界については第76回を参考にしてください。
それに対して、食品に対する不安度は徐々に下がってきているとはいえ(図4)、スーパーで産地を選ぶ方は多い状況です。米のみは検査済みの地元産の使用率 が高いですが、他の食品はまだまだと言ったところです。流通している県内産のものを摂取して高い内部被曝をする状況では全くありません。
全体としてはこのような状況ですが、図1-1にもあるように、成人ではポツンと外れた値として高い方がたまにいらっしゃることも変わりません。食品の汚染は産地で決まるのでは無く、どのような種類のものかが大事です。
漁業のデータであっても、種類によって汚染度が決まり、例えばタコ、イカ、貝、エビや回遊魚、生物濃縮の段階が低次の魚は汚染がほとんど無いことがわかっ てきています。( http://www.jf-net.ne.jp/fsgyoren/siso/sisotop.html )
相馬市で2014年2月現在、出荷制限を受けているのは、キウイフルーツ、栗、こごみ、野生たけのこ、ふきのとう、ぜんまい、タラの芽、原木椎茸、原木な めこ、野生キノコ、コシアブラです。出荷制限のかかっている食べ物を、継続的に未検査で食べ続けると、それなりの内部被曝をすることが分かっていますが、 それでもセシウムからの内部被曝は年間で1mSv前後になるかどうかということも南相馬市などでの検査から分かっています。
栄養のバランスや、放射線のことだけが健康を規定しません。食生活に対してどうするかは、個人の考え方によるところも大きいと思います。セシウムだけをなぜ測っているのかは第104回を参考にしてください。
そのような状況の中、検査受診率や関心は低下しています。2013年4月からは、2回目の検査が自由に受診できるようになっていますが、図6にもあるよう に、一度でも内部被曝検査を受けに来ていらっしゃるのは人口の40%弱、2回目を受診されているのは10%弱です。学校検診によってある程度の検査は行っ ていますが、今後の継続性をどう考えるかは試行錯誤の段階だと思います。第106回も参考にしてください。
初期の被曝、現状の被曝、および原子力にまつわる他の問題は異なって議論されるべきですが、少なくとも現状の被曝については方向性とやるべきことは見えてきているように思います。
写真:相馬中村神社の前、さくらがきれいです。野馬追いの騎馬隊はここから出陣します。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2014042100005.html