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Vol.108 事故調、調査報告書面は必須でない

医療ガバナンス学会 (2014年5月9日 06:00)


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この原稿は月刊集中4月末日発売号より転載です

井上法律事務所
弁護士 井上 清成
2014年5月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. 厚労省検討部会取りまとめからの進化
この2月12日に閣議決定された医療事故調の法案は、現在、国会で審議中である。5月下旬から6月上旬頃に医療法改正が国会で可決成立したら、次は、医療 法施行規則(厚生労働省令)の改正とガイドライン(通達など)の作成が焦点とならざるをえない。その規則とガイドラインの内容こそが、医療機関・医師の命 運を左右することになるからである。
当然のことであるが、規則もガイドラインも、法律である改正医療法の内容に従わなければならない。これを「法律による行政の原理」という。規則もガイドラ インも、医療法からの逸脱や濫用的な制定があってはならない。決して厚労省検討部会取りまとめが改正医療法から離れて一人歩きしてはならないのである。
現に、厚労省検討部会取りまとめ(2013年5月29日「基本的なあり方」)から、国会議員の調整、社会保障審議会医療部会の了承(2013年11月8日 「論点」)、国会議員の再調整、自民党社会保障制度に関する特命委員会・厚生労働部会合同会議の了承(2014年1月30日)などといったプロセスを経 て、かなりの修正が施されて、法案の閣議決定(2014年2月12日)に至った。既に、医療事故調は、厚労省検討部会取りまとめよりも、大幅に進化してい る。そこで、規則もガイドラインも、厚労省検討部会取りまとめに回帰してはならないし、固執してもならない。あくまでも進化した社保審医療部会の「論点」 や閣議決定された法案の趣旨・内容に沿ったものでなければならないのである。

2. 進化して行ったプロセス
2013年5月29日の検討部会取りまとめの後、保岡興治衆議院議員(死因究明推進議連の会長、元法務大臣)は事故調への造詣を深め、2013年9月13 日には「医療事故調査制度の創設に当たって、再発防止と責任追及の仕組みは、峻別しなければならない。これらを切り分けるにはどうすればいいか、厚生労働 省(検討部会取りまとめ)の案をしっかりと議論を」すると表明した。その後、日本医療法人協会なども交えて、厚労省とも摺り寄せていく。
その結果、検討部会取りまとめを修正した「論点」が作成されるに至り、社保審医療部会の委員でありそれまで反対をしていた日本医療法人協会の日野頌三会長 が「今回の案は、運営のあり方をきちんとしていただければ、いいものになると思う。医療安全に重点を置いて、この案をうまく育てれば、病院のレベルが上が る。」との支持を公式表明したことによって、社保審医療部会で了承された。
その後も、橋本岳衆議院議員(死因究明推進議連の事務局長、自民党死因究明推進PTの座長)が厚労省との調整や質疑応答を続けている。たとえば、「『基本 的なあり方』では調査目的を『原因究明及び再発防止』としており、特に『再発防止のために』ということを強調していると思うが、『再発防止のための原因調 査』など、再発防止を主眼に置くように表現を検討してはいかがか。」という要望に対し、厚労省は、「本制度における原因究明とは、あくまでも再発防止に資 するために分析・整理して情報を得ることであり、」11月8日に開催された社保審医療部会において、「『医療の安全を確保するため、1) 院内調査を行うこ と、2) その調査報告を収集、分析することで再発防止に繋げること』についてご審議いただいたところ。今後、法制化を進めるに当たっては、ご指摘や医療部会 での意見等を踏まえ、検討して参りたい。」との回答を寄せた。
さらに、自民党の合同会議でも橋本岳衆議院議員や石井みどり参議院議員(歯科医師、参議院厚生労働委員会委員長)から要望が出され、医療事故調査・支援セ ンターが個別事案の調査結果を(産科医療補償制度の原因分析報告では公表されているけれども、)公表しないことなどが、厚労省によって確認されている。
これらのプロセスをたどって事故調案は進化し、法案の閣議決定に至った。だからこそ、規則やガイドラインでの後戻りは許されないのである。

3. 進化した趣旨と内容
(1)進化した趣旨―再発防止に必要な調査
医療事故調査は、再発防止のためにのみ必要な調査を行うものでなければならない。原因究明がそれ自体として自己目的化して行われるとしたら、それは法案 の趣旨とは異なる。また、責任追及とは切り離されているので、責任追及の結果をもたらすことは、可及的に防がねばならない。
(2)進化した内容―選択肢をもった調査方法
1) 院内事故調査委員会の設置は任意
検討部会取りまとめでは、「医療機関は院内に事故調査委員会を設置するものとする。」と明記されていて、院内事故調査委員会の設置は必須のこととされて いた。ところが、「論点」では「医療機関は、速やかに必要な調査を行うこと。」とされるに留まり、「法案」でも「速やかにその原因を明らかにするために必 要な調査(以下この章において『医療事故調査』という。)を行わなければならない。」とされるに留まっている。いずれも、院内事故調査委員会の設置は必須 ではなくなった。もちろん、院内事故調査委員会の設置をしても構わない。
2) 院内調査報告書の作成・開示は任意
検討部会取りまとめでは、「院内調査の報告書は、遺族に十分説明の上、開示しなければならない」と明記されていて、院内調査報告書の作成と開示は必須の こととされていた。ところが、「論点」では「医療機関は、調査結果を遺族に説明する」とされるに留まり、「法案」でも「病院等の管理者は、・・・遺族に対 し、厚生労働省令で定める事項を説明しなければならない。」とされるに留まっている。いずれも、院内調査報告書の作成と開示は必須ではなくなった。もちろ ん、院内調査報告書を作成・開示しても構わない。作成の有無も開示の有無も、それらのやり方は選択的であって、任意のものとなった。
以上は代表例にすぎないが、進化した内容をわかりやすく示すものといえよう。今になって、厚生労働省令やガイドラインで、検討部会取りまとめへの後戻りが起きないことが望まれる。

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